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婚約式


 婚約式当日の朝、柔らかすぎなくて寝心地の良いベッドから起き上がる。すぐ傍にある廊下に続くドアからは、いつも以上に忙しない音がバタバタと聞こえてきている。

 その振動や音がこっちに近づかない事に少し疎外感を覚えてしまっていた。


(王国の王子と民衆から支持の篤い聖女様との婚約式。祝ってあげるくらいの気持ちでいないといけないのに、このザワザワはなんなんだ。)


 光の入らない暗い部屋の中で、制服に着替え装備を着けていく。ほぼ何も見えない状態だけど、もう慣れたものだった。


(そう言えばクリスから借りたお金を返していないな。次会った時にでも返すか。)



 廊下に出ると、より一層騒がしいのが分かる。昨日からこの様子なので、シータイトの方はこの屋敷にいないのだろう。

 同じくらい重要人物がいるはずなんだけど、わざとこっちは無視しているのか。



 廊下の窓見ればまだ暗い事が分かった。こんな朝早くからご苦労な事だ、と思いつつルイスの私室に入る。

 いつも朝日が登り切ったあたりでルイスを起こすので、まだ少し暇な時間帯だ。


 出来るだけ音を立てないように静かに居間まで来ると、既にポランは控えていた。


「おはようございます。早いですね。」

「ええ、何だか目が冴えてしまって。おはようございます、ポランさん。」


「そんな事よりコーダ先輩。ルイス様から聞いていますわよ?聖女様と良いご関係だとか。今日の事、どう思っていますか?」

「・・・お祝いなので喜ばしい事なんでしょうけど、自分ではよく分からないです。何か心の奥がザワザワしています。」


 俺がそう言うと、音を出さないように器用に手を叩いて目をキラキラとさせている。


「まあ、それはそれは。ええ、良いですわね。とにかく頑張ってください、応援していますわっ。」


 一体なんの応援なのかわからないけど、俺は首を傾げながら、ポランの言う事に頷いておいた。

 俺は気分が良さそうなポランに、話を変えるつもりで少し気になっていた事を聞いてみる事にした。


「ポランさんって、その、礼儀とか作法とかどこで学ばれました?」

「私は貴族ですから小さい時から専用の教師がいましたよ。この侍女業も家事手伝いの一環ですわ。」


「き、貴族っですか?すみません失礼を。」

「コーダ先輩、畏まらなくてもいいですわ。私は出身はそうですけれど、侍従としては後輩ですもの。それに私は貴族位を持っている訳ではないただの子爵家令嬢なだけですわ。」


 ただの、っていう訳にもいかないだろう。

 前に騎士もほとんどが貴族出身だって聞いた事があるし、本当に俺がここに相応しいか分からないな。


「それにルイス様のお側に仕えているのですから、もっと誇らしくしないといけませんわ。」

「・・・頑張ります。」


「しっかりしてください。護衛である以上、平民や貴族など関係ありません。コーダ先輩の能力はシータイト様にだって負けないと思っていますわ。」


 シータイト、か。ルイスがいる以上、王になる事はないらしい。

 昨日の襲撃もシータイトの差し金だったなら、法佳との婚約もあくまで王になる為の足掛かりなのだろうか。


(そうだったなら決意を持って婚約に臨む法佳が可哀想だ。シータイトには婚約者なんて地位を磐石にするための道具だとでも言うのか。)


 今日の婚約式で、法佳の人生が決まってしまうんだ。自分ではどうしようも無さそうな事だけど、どこか悔しいと感じてしまっていた。



 いつもより気合の入った朝食を食べた後は、外出できる訳もなくルイスは私室で読書に励んでいた。

 侍従である俺達3人も暇なので、ルイスに許しを得て各々自由な時間を過ごしていた。


 この部屋から王城は臨めない。砦のような堅牢な壁に囲まれていて景色すら楽しめないのだ。

 王族を守るための部屋なら仕方ないけど、さながら牢獄のようだと感じてしまう。


 そんな時、ルイスは読んでいた本をパタンと閉じたかと思うと、俺にこんな事を言ってきた。


「コーダ、外ばっかり眺めて。見に行きたいなら行っていいぞ。お前なら出来るだろ?」

「べ、別に行きたい訳じゃないから。」


「ふぅん。今読んでいた本では、世の中には駆け落ちというものがあるらしい。身分違いの愛し合う男女はそういう風な選択があるらしいな。」


 ルイスは恋愛小説でも読んでいたのか、俺に背表紙を見せてくる。

 何とも俗っぽい本だ、一体こんなのいつ手に入れたんだろう。


「まあ!良いですわね。駆け落ち、なんて良い響きなんでしょう!」


 そう言ったのはエシュカテリーナだ。この人も貴族出身らしく、ポランとは元々顔馴染みだったそうだ。


「コーダ先輩はどう思います?駆け落ちですよ、駆け落ち。」

「いや、なんて言うか、自分では多分その選択はしないと思います。その瞬間は幸せかも知れませんけど、その後が辛そうです。」


「はぁ、お前は夢がないな。」

「・・・心中お察しいたしますわ、ルイス様。」


 俺以外の3人が肩をすくめて似たようなポーズを取っている。何か仲間外れになったような感覚になってしまう。

 でも今感じた疎外感には嫌な気はしなかった。

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