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プレゼントのお返し


「名前、さん付けじゃなくて、あの。・・・法佳って呼んでくれないかな?」


「え、あぁ。・・・ほ、ホウカ。でいいのかな?」

「そう!でももっとハッキリ、漢字も思い浮かべるの!」


 漢字は良く分からないけど、参考にできそうな言い方は思い当たる。

 アイーシャが言っていたような、気さくな感じかな。


「あらためて言われるとなんだか恥ずかしいね。ほ、法佳。」

「うん!私だよ!幸田くんはどう?下の名前で呼んで欲しい?」


「いや、俺の名前はコーダだから、前の名前はいいよ。法佳、が呼びやすい方で呼んでよ。」


 なんだか気恥ずかしい。アルヴィを呼ぶみたいに当たり前になるまでは、ぎこちなくなってしまいそうだ。


 笑顔を間近に見る度に、心臓がドキドキと脈打つのが分かる。

 減速に気をつけて、とりあえず地上に降りよう。一旦、落ち着かないと。


「ふぅ、ごめん。ちょっと落ち着かせて。」

「そう?じゃああの木陰に行こう。あそこならゆっくりできそうだよ。」


 ホウ、いや法佳が指差している方角に歩いていって、柔らかい草の上に下ろしてから俺も隣に座る。

 鞄の柔らかい背もたれと、土の匂いと優しい風で気分が落ち着いていくのを感じる。

 隣にいる法佳は、遠くを見るような目になって話し出した。


「いいねえ、こういうのも。・・・はぁもう終わりなんだよねえ。明日からはまた聖女様かぁ。」

「・・・戻りたくない?」


「ううん、そうじゃないの。聖女って呼ばれるのはいいんだけど、明日からは幸田くんとこうしていられないでしょ?幸田くんも王子の護衛なんだし。」

「それはそうだね・・・。エルダール領へ戻ったあとはどうするの?」


 俺がそう聞くと、隣に座る法佳は悲しそうな目をして、土をいじり始めた。


「しばらくは王城でお世話になるつもりだけど、聖国に報告しなきゃいけない事があるから、いれても1か月くらいかなぁ。」

「報告って、転生者の事?」


「それもあるけど〜・・・。実は私、第二王子のシータイト様と婚約者になったらしいんだよね。それの報告。」

「こ、婚約者・・・。」


 婚約者。ルイスとセレスティアルの関係から見ても、何だか心配になってしまうな。


「その婚約者っていうの、法佳は嫌なの?」

「嫌!って言いたいけどねー。でも国のためなんだって、私は分からないの。」


「そうか・・・。俺は、法佳の悲しい顔は見たくないよ。貴族でも王族でもない俺は、法佳の婚約者の事はどうにも出来そうにないけど。」

「んー、じゃあ、お願いいっぱい何でもいいんだよね。・・・だからさ、誕生日のお返し、欲しいな。」


 ずいっと近づいて来て、顔をニコニコとさせている。


「幸田くんなら、分かるでしょ?」

「う、うん。」


 そう言う法佳は静かに目を閉じてしまった。

 

(どうすればいいんだ、アルヴィ。こういう時、女の子にはどうすれば・・・。でもやらない訳にもいかないし、俺の知ってるのはこれだけだ!)


 

 俺は生唾をごくりと飲み込んで、意を決してその愛らしい顔に口付けをする。

 そのぷっくりとして、ほんのり赤く色付いた柔らかそうな唇に。


 時間にしては2秒くらい、触れている時は法佳から香るいい匂いがして、こっちも余計に恥ずかしくなってきた。


 離れてみると、何故か静止した状態で見る見るうちに赤い顔になっていく。

 その唇がプルプルと震えて、ついに開く。


「・・・んなー!、なに、なにやってるのよー!」

「ご、ごめん、違った?」


「違うよ!頬だよ!ほ、ほ!」

「こ、ここかな?」


 法佳が指差してくれている場所にもう一度キスをする。


「うひゃっ!幸田くん、いつからそんな大胆になっちゃったの!?」

「嫌だったかな?」


「嫌じゃないけどー、・・・ってそう言う事じゃないの!」

「・・・ぷふふ、元気になってよかったよ。」


 ぷんすか怒って、わめき散らしている法佳の動きに笑ってしまった。

 急に立ち上がって、俺に背を向けて大きい声でこう言ってきた。

 

「もう!行こ!・・・幸田くんは、・・・んもー!」

「ふふっ、ごめんね。じゃあ持ち上げるよ。」


 背を向ける法佳を軽く持ち上げると、何故か驚いたような顔をしている。


「そうだった!こういう体勢なんだったー!」

「あははっ!法佳といると楽しいな。じゃあ行くよ、舌噛まないでよ。」

 

 それからは楽しい時間を過ごした。もうこの状況が終わりに近づいている事で、もっと満喫したいと思ったのかも知れない。



 夕方には、オレンジ色に照らされた草原に、ポツンと立っている見覚えのある古い教会が見えてきていた。


 もうあと一歩でついてしまうだろう。


 高台に着地して、帰るべき場所を見下ろしながら感慨に浸る。



 長く楽しかった2人旅も、もう終わり。名残り惜しいような、そんな気持ちを感じてしまった。


「法佳、明日からは聖女様と王子の護衛に戻っちゃうんだね。出発の時とは違って、もう聖女様より法佳なんだ。なんか変な感じだよ。」


「私も、より近くなったって感じてるよ。・・・私はこの旅で、幸田くんの弱い所も強い所も知れて良かった。

 だからね、私頑張るよ。聖女様も第二王子の婚約者も頑張るよ。幸田くんがいてくれるなら、私は頑張っていける。」


「そう、だね。会える機会が少なくなるけど、何かあったら言ってよ。姿を消すのも早く移動するのも重い物を動かすのも、俺ひとりで出来るからね。」

「うん、頼りにしてるよ。・・・じゃあ帰ろっか。」


 さっきまでは、自分の胸の前に腕を収めていた法佳は、最後の言葉を言う時には俺の首に腕を回していて、今にも顔がくっつきそうだ。

 恥ずかしさよりも、心を許してくれたのだと誇らしくなる。


 そして俺はそんな法佳の言葉に頷いて、古い教会の玄関扉を目掛けて最後の跳躍した。


 着地の時に、法佳の体を強く抱き寄せたのは意識的だったのかそうじゃなかったのかは分からない。

 でも行きとは違って文句が出なかったという事は、随分と距離が近くなったと思う。


 大きな音を立てたつもりはなかったけど、法佳を地面に下ろした瞬間に教会の玄関扉からシエラが姿を見せた。


「おかえりなさいませ、聖女様。」

「ただいま、シエラ。」


 法佳が俺から離れて歩いていく。

 背中に大きな荷物を背負っているのに、俺から何かが抜け出ていったような軽さを感じてしまった。

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