旧友との再会
エルダール伯爵家の屋敷に着いたあとは汚れを払ってから、早めの夕食という運びとなった。
流石に宰相の家でまで毒の可能性を疑いたくないようで、俺は他の護衛達とともに食堂で夕食をとることになった。
ルイスや聖女などの地位の高い人間は広間で夕食をとって、その時に転生者云々を話す予定だそうだ。
幸いにも今回だけはルイスの従者がいるので、俺としては息抜きにちょうど良かった。
個人的には覚えてないに等しい、友人だったらしい人間達の話に混ざりたくもなかったので、この扱いはありがたかった。
その夕食もつつがなく終わり、ルイスの就寝を確認した後、外へと足を向ける。
夜風に当たりたいなどと言うものではない。聖女から護衛を伝って伝言を受け取ったからだ。
(ルイスが寝た後に庭へ来い、か。何をするつもりだろう。良い予感はしないな。)
2階から見える限りでは、3人の人影が見える。十中八九、転生者達だろう。
覚えてないとかいう問答がまたあるのかと、気が重くなる。
1階に降りて廊下を伝って、月明かりに照らされ意外に明るい庭に出ると、待ってましたと言わんばかりに聖女が走ってきた。
「幸田くん、遅いよ。ほら行こう。」
聖女が俺の手を引いて、庭で待っていた他の2人の前に誘導していく。
やはり到着の時に見た薄い金髪の少年と黒髪の少年だった。
「幸田だって!?おーマジか!久しぶりだな!」
「幸田か・・・。懐かしいな。大丈夫だったか、お前孤児だったんだろ?」
「はい・・・、いや、うん。そう、だね。なんとかなってるよ。」
薄い金髪の少年の方は、馴れ馴れしく俺の肩を叩いてきて嬉しそうにしている。反対に黒髪の方は心配してきて、神妙な顔になっている。
貴族のイメージしか無い相手に、敬語が出てしまうけど、慌てて取りつくろって怪しまれる事は無かった。
そんな俺を見てか、聖女が助け舟を出してくれた。
「こっちの金髪の方が、今はユージェステル、前は友沢裕二くんだよ。黒髪の方が今がユーゴーで前が灰谷勇くんだよ。
・・・ちなみに友沢くんとは仲が良くって親友だったみたいだよ。」
俺だけに聞こえるような小声で言ってくれた最後の情報はありがたかった。
紹介してくれた名前に、全く心当たりが無かったからだ。
「そ、そうか。2人とも見違えたよ。」
「んなことより幸田!お前、孤児っていうの大丈夫だったのかよ?あの神様の言う事じゃ酷い場所だろうって思ってたんだよ。」
なるほど、このユージェステルというのは親友だった事もあってか、ずけずけとした物言いだな。
悪気はなさそうだけど、故郷を馬鹿にされたみたいでむかつく。
俺に記憶があれば喜ばしい事だろうけど、随分と無遠慮なやつだ。
「けっこう普通だったよ。良い人もいるし食べ物も美味しいし。」
「おいおいそれは言い過ぎだろ。平民の食い物は大した事無かったぞ。」
ユージェステルに返したつもりだった言葉を拾ったのは、隣にいた黒髪のユーゴーだった。
「俺は貴族になってからやっと美味いって思えるモンがあったくらいだな。露店のは味が濃いし極端すぎるわ。なあ神山もそう思うだろ?」
「え、うん。でも私もあそこの料理食べたけど、普通だったけどなあ。」
転生者っていうのは、前を知っているから今を下に見る傾向があるな。
こんな話を聞いていると気分が悪くなる。適当に理由をつけて切り上げるか。
「ごめん、・・・昼にけっこう動いたから疲れているみたいだ。今日はもう休ませてもらってもいいかな?」
「おっ確かにそーだな!転生者が来てるって聞いたから、お前の分も部屋を用意してあるんだ。」
部屋はありがたいな。付き合いは面倒そうだけど、貴族の知り合いも悪くない。
「あっ私が案内するよ。少し幸田くんとお話もあるからみんなは先に戻ってて?」
「そーか?じゃあ頼むぜ。俺らは先に戻ってっからな。行こーぜ灰谷。」
「ああ、また明日だな。」
手を振りながら帰って行くので、手を振り返してみる。頼りない月明かりだけなので、自分の表情が相手に見えないのが少し好都合に思う。
2人の姿が見えなくなったあたりで、隣にいる聖女が再び俺の手を取ってきた。
「聞きたいことがあるの。外、歩こっか。」
聖女に手を引かれて庭から歩き出す。湖岸に近い場所にある屋敷だからか、少し肌寒いように感じた。
◆
ザワザワと草が風でなびく音がする。屋敷からは5分ほど無言だったけど、隣合って歩きながら聖女が口を開いた。
「幸田くんってさ、何で昔のこと覚えてないの?」
「・・・実は、俺が使っている魔法は記憶を消費するんです。そっちの方が安定するし威力も高いので、大事な時にはずっと使ってます。」
「やっぱり・・・、昼間に言ってたオリジナル魔法っていうのがそれなんだ。」
細かいところは違うけど、正解の意思を込めて頷いておく。
「じゃあアルヴィちゃんのために魔法をずっと発動してるってことは・・・。」
「はい。アルヴィのためなら前の記憶くらいどうでもいいので。」
「ふぅん、そっか。・・・ならちょうどいいかな。」
聖女の最後の言葉は風に紛れて聞こえなかった。
「実は幸田くんに見てもらいたいのがあるの。この建物に入ったら奥まで進んで行ってくれないかな?案内もいるから、ね?」
歩きながら話していたので、目の前に古ぼけた教会のようなものがあるのは分かっていた。
えらく不気味なこれに入るのかと、逡巡していると俺の後ろに回った聖女が背中を押して来た。
「まあまあ、入ったらあとはこっちでするからさ。・・・お願い。」
「わっ!分かりました。入りますから。」
聖女は乗り気で無い俺の耳に、後ろから口を近づけて小さく息を吹きかけてくる。
ギギィッと木の擦れる音を鳴らして開けた扉から中に入ると、真っ暗で中は良く見えない。
「じゃあ閉めるね。明かりは必要?」
「い、いえ。自分で出来ます・・・。」
俺が手に白く光る光球を出したのを確認した聖女は、また嫌な音を響かせて扉を閉めてしまった。
扉が閉まると風圧でホコリが舞ってしまうのを、自分が出している光によって確認してしまう。
ホコリの行方を追っていると、すぐ斜め前から声がかかった。
「・・・聖女様から聞いております。コーダ様ですね。こちらへどうぞ。」
「ひぃっ。」
暗闇からヌッと現れた頭からすっぽりと被ったローブ姿の人物を見て、上擦ったような悲鳴をあげてしまう。
(一体、聖女は俺に何をさせようって言うんだ。さすがにこの状況は、怖いな。)
目の前を先導するローブ姿の人物が出す、床に服の裾を引きずる音を聞きながら、俺は暗闇を奥へ奥へと入っていった。
次回は聖女視点になります。
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