2人の転生者
宿場町の人間達には地位の高い貴族の御曹司とでも思われたのか、そこまで騒ぎになる事はなかった。
聖女は隠蔽魔法をかけている状態が気に入ったみたいで、面倒がない程度に遊んでいた。
とは言っても、聖女の名声は庶民に知れ渡っているらしく、聖女の使っている馬車を見ると人集りが出来るほどだった。
1時間ほど滞在していたけど、街中の人間が集まっていたんじゃないかと思うほど、聖女の威信は広く深く轟いているのだと感じた。
相変わらず聖女と同乗しているけど、転生者らしい事しか共通点がないのに肩身の狭さを感じていた。
「聖女様は、あんなに他人からを称賛されていて、同じ歳だと思えないほどですね。」
「むぅー、名前。」
「え、あ。ほ、ホウカさん?」
俺が名前を呼ぶと嬉しそうにしてくれる聖女は、かつてのアルヴィを彷彿とさせた。
俺のお世辞も聞こえなかったかのように、そんな事よりと詰め寄ってきた。
「幸田くん!さっきの色変えの魔法どうやったの?」
「あ、あれは聖魔法の姿を隠す隠蔽魔法と、色を変える魔法を合わせたようなものですね。」
「私も聖属性持ってるんだ〜。ちょっと待ってて、魔法の教本持ってきたから。」
聖女はそう言ったかと思うと、座席の下に置いてあったカバンからいくつか本を取り出していた。
回復や攻撃など、表紙に何が書いてあるかが分かりやすいイラストになっている。
聖女は俺のすぐそばに座り直して、俺にも見えるように、俺の左足と自分の右足にまたがって本を開いた。
「色・・・色・・・。これかなぁ、グラデーションっていうの。」
「多分それです。隠蔽魔法の方はオリジナルなんで、そこには載ってないかも知れません。」
「やっぱりあれってオリジナルなんだぁ。異世界転生したらオリジナル魔法作るのは定石だよね。」
あまり理解の出来ない事を言われると困ってしまうけど、間近に顔を上げるのは少し恥ずかしいからやめてほしい。
本があるので大きな動作が取れない。少し体を逸らすようにして距離をとった。
「幸田くんみたいなオリジナルはすぐには出来ないだろうけど、ちょっと変えるくらいならこの魔法だけで良さそうかも。
光よ、我に色を映せ、グラデーション。」
聖女がそう言うと、髪色が本来の赤色からルイスのような金髪になっていく。
髪が長いのでジワジワと変わっていくのが、言葉通りにグラデーションのようだった。
アルヴィが生きていたら、もっと髪が長くなって綺麗だったろうな。
アルヴィの髪を触るのが癖になっていたな。時間があったら久々にやってみるか。
「幸田くん、どうかな?」
「・・・あ、ああ。お似合いですよ、ホウカさん。」
「ほんとっ!?嬉しい!」
勢いよく左腕に抱きついてくる聖女は少し可愛く思えた。
多分、俺は金髪が好きなんだろうな。
「今度は目の色を変えてみようかなぁ。でもけっこう魔力使っちゃったし。」
「ホウカさん。少し休憩しましょう。ほら、これから行くエルダール領の事、教えてくださいよ。」
それからは魔法の教本は閉じて、エルダール領の事を聞くように話を変えた。
人懐っこい仕草の多い聖女の相手は余計に疲れてしまう。
俺の腕を離した聖女は先程よりももっと近く、逆に動きづらいんじゃないかと思うほど近づいて来ていた。
◆
夕方になる頃には、目的のエルダール領の領主家付近に着いていた。
聖女が言うには、ここに2人の転生者がいるらしく、俺とも関係が深い人物がいるらしい。
そういえば俺が記憶を消費している事は伝えてなかったっけ。
聖女の話を聞きながら、言うタイミングを模索していると馬車の速度が緩まっていくように感じた。
昼の宿場町とは違って、止まってからすぐに扉がノックされ外に出ることを外から促された。
「その髪、直した方がいいんじゃないでしょうか。」
「確かにそうだね〜。ふふっ、またこの色やってあげようか?」
肘でグリグリと脇腹を小突いてくる聖女に恥ずかしさを覚えてしまう。そんなに気付かれてしまうほど見ていたのか。
聖女が新たに魔法をかけ直している間に、ルイスの方まで戻って良い許可を貰う。
外に出て聖女の護衛に持ち場に戻ると伝えた後、ルイスの馬車まで向かうと既に降りて来ている所だった。
以前より自発的な行動が増えたな、それほどまでに外に出たのが嬉しかったのか。
近くに見える屋敷には人集りが見え、その中には宰相の姿が見えた。
結局のところ、国王は遠出させると言っても1泊出来そうな距離、重臣の息のかかった領だから許可したのだろう。
宰相の近くに俺と同じような子供が2人いるのが見える。
あれが聖女が言っていた2人の転生者だろうか。
1人は利発そうな薄い金髪の少年で、もう1人は黒髪で見たことあるような顔をしていた。
あの黒髪の少年は誰だったろう。どこかで会っただろうか。
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