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マリーナ・リリー辺境伯令嬢

「ぐすっ……私たち、これからどうなるんですか?」

暗い闇の中で、少女の泣き声が響き渡る。

「心配するなよ。この殻に包まれている間は溶かされることはないから、大丈夫」

リカルは必死に少女を慰めていた。

「俺はリカル・ローゼフォン。お前は?」

「……マリーナ・リリー。リリー辺境伯爵家の娘です」

マリーナはすんすんとしゃくりあげながら名乗った。

「その辺境伯家のお嬢様が、なんで温泉なんかにはいっていたんだ?」

「私は体が弱くて、いつも調子を崩していたんです。そんな時、ここの温泉が体にいいって聞いて……」

理由を聞いて、リカルも納得する。

「なるほど。たしかに油出ガエルが分泌する油は怪我や病気に効く薬になるから、昔は冒険者たちがここに来て採取していたって聞いたことがある。今はカエルがでっかくなりすぎて、返り討ちに合うからって誰もこなくなったけど」

「そんなの知りませんでした。うえーん」

それを聞いて、マリーナは再び泣き出す。

「も、もう泣くなよ。俺たちは大丈夫だから」

「どうしてですか?」

「カエルは何でも飲み込むけど、飲み込んだものが消化できない場合、すぐに吐き出すんだ」

リカルがそういっている間に、何か押し出されるように殻が動いて、

口から吐き出された。

外に出たリカルは、『包甲蟲』を解いて次の妖蟲を身にまとう。

「『瞬撃蟲招来』」

リカルの手から黒いグローブが打ち出され、油出ガエルの腹に激突した。

「やったか?えっ?」

岩をも砕くシャコの一撃を食らったはずだが、油出ガエルの柔らかい腹は平然と衝撃を跳ね返した。

「な、なら次は凍らせてやる。『闇氷』」

慌てて氷魔法をつかうが、油出ガエルが身にまとっている油に阻まれて、凍りつかせることができなかった。

「くそ!どうしたらいいんだ!」

恐怖するリカルの後ろで、小柄な影が立ち上がる。

それはワンピースを着たマリーナだった。

「私をさんざん恥ずかしい目にあわせて。絶対に許しませんから」

マリーナの杖から噴水が飛び出して、カエルを襲う。

油出ガエルは大きな口をあけて、噴水を受け止めた。

「無駄だ。油出ガエルはもともと水の中で生きる妖蟲だ。水の魔法は通じないぞ」

リカルが警告しても、マリーナは据わった目をして魔法を打ち続ける。水を飲み続けていったカエルは、パンパンに膨れ上がっていった。

「まてよ。今なら通じるかも。「瞬撃蟲」」

再びシャコの腕を呼び出し、できるだけ力が一点に集中するようにパンチを繰り出す。

「グアッ!?」

パーンという音がして、リカルの一撃を受けた油出ガエルは破裂する。ぬるぬるした体液があたり一帯に飛び散った。

「やったぞ!油出ガエルを倒した!」

リカルは残った油出カエルの体に手を触れて呪文を唱える。

『わが手により倒されし妖蟲よ。わが僕となりてわが身を守れ」

カエルから出た光の玉は、リカルの体に吸い込まれていった。リカルの右腕に「油蛙蟲」という文字が刻まれる。

「これでこの温泉も元通り使えるようになったな。父上たちにも知らせてやろう」

喜ぶリカルだったが、後ろから恐ろしい声が聞こえてくる。

「リ~カ~ル~さん?」

振り向くと、油まみれになったマリーナが仁王立ちして怒っていた。

「あ、あの、ごめん」

その姿に、思わず恐怖して土下座するリカルだった。



「なあ、本当にマリーナのやつ一人で温泉に行ったのか?」

「間違いない。騎士たちに行きたいって訴えていた。相手にされなかったみたいだけどね」

岩山へと続く山道で、タハミーネとコロンがあたりを警戒しながら歩いていた。

「こんな時にリカルはどこに行ったんだ?一緒に探してほしいのに」

「村にも人がいなかった」

そんなことを話しながら岩山に到着すると、温泉のほうから話し声で聞こえてきた。

「あっ。そこです。気持ちいい」

「こ、ここを揉めばいいのか?」

両方とも聞いたことがあるような声がする。二人が慌てて近寄ってみると、そこには幼い男女が折り重なっていた。

「あなたは私の裸をみたんですから。しっかりご奉仕してください。これから一生をかけて責任をとるのです」

「もう勘弁してくれよ……」

聞き捨てならない言葉を聴いて、二人は焦りだす。

「お、お前たちなにやっているんだよ」

思わずタハミーネが怒鳴りつけると、覆いかぶさっていた少年が振り向いて疲れたような顔をする。

「タハミーネか。いいところに来た。代わってくれよ」

そんな情けない声をだすリカルに、気持ちよさそうな声がかけられる。

「リカルさん。まだまだ終わってないですよ。もう一回最初からやってください」

温泉のそばの岩に、うつぶせに横たわっているのは、ワンピースを着たままリカルにマッサージされているマリーナだった。


「……何していたんだい?ま、まさか禁断の関係だったとか?ああ、どうしたらいいんだろう。妖蟲王を倒すべく集まった僕のパーティに、こんな爛れた関係を持ち込むなんて……もしかして僕を交えて三角関係?いやタハミーネも加わって四角関係?わくわく」

何やら悶々としているコロンを放っておいて、マリーナが説明する。

「お母様がよくおっしゃっていたのです。「えすて」なる油を使ったマッサージをしたら体にいいって」

「それ、服を着たままするものじゃないと思うぜ」

タハミーネに突っ込まれると、マリーナは真っ赤な顔になった。

「し、仕方ないじゃないですか。恥ずかしいんだから。でも、ずいぶん体が楽になりましたわ。油出カエルの油が薬になるというのは本当みたいですわね」

「なんでもいいから温泉に入って帰ろうぜ。油まみれで気持ち悪いし、疲れたよ」

リカルがそう提案すると、マリーナはなぜかもじもじし始めた。

「あ、あの……そういうことはお父様に相談してから……男女が一緒に入るのは、正式に結婚してからじゃないと」

「誰が一緒にって言ったよ」

全力で突っ込むリカルを見て、コロンがいたずらっぽい顔になる。

そのままタハミーネに何事かを耳打ちした。

「それ、いいかもな」

「私たちは運命に導かれたパーティ。魂の同士として、仲良くすべきだしね」

ニヤニヤと笑いながら、言い争うリカルとマリーナの背後にせまる。

「いっせーの。そーれ!」

「うわっ!」

コロンとタハミーネに押されて、二人は温泉に落とされた。

「何するんだよ!」「なんですか?」

抗議する二人を尻目に、コロンとタハミーネはさっさと服を脱いで下着姿になる。

「まあまあ、ここは僕たち皆でお風呂にはいってゆっくりしようよ」

「これが温泉ってやつか。気持ちいいな」

無邪気に喜ぶ二人に釣られて、リカルとマリーナも温泉を堪能するのだった。

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