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空中戦

「やった。これで奴は最低でも場外だ」

『風蜂のスピア』で風魔法を強化し体を浮かせている王子は、下の爆発を確認してほくそ笑む。

「あとは土煙が晴れて、奴がどうなったか確認するまで浮いていれば僕の勝ちだ。おっと」

気を抜くとバランスを崩して落っこちそうになり、王子は必死に風を操る。『風蜂のスピア』を下に向けて風を生み出すことで足場を作り出し、かろうじて体を浮かせていた。

「欲を言えば場外じゃなくて僕の力でボコボコにしてやりたかったんだけどな……。まあいい。それは僕が王位に即位した後の楽しみに取っておこう」

空中で邪悪な笑みを浮かべる王子。

「ほう。面白い。その楽しみとは?」

「決まっているだろ。王の権力で、リカルを捕らえて拷問して」

そこまで言った所で、王子はハッとなる。その声は自分より上から聞こえて来た。

「ま、まさか!」

「残念でしたね。私は空を飛べるのです」

悠然とそう答えるのは、背中からトンボのような羽を生やしたリカルだった。ヒラヒラと飛びながら、冷たく王子を見下ろしている。

「『角飛蟲招来』。いや、王子。風魔法を込めた魔石とは、なかなかいいアイデアでしたよ。この妖蟲を手に入れてなかったら、負けていましたね」

余裕たっぷりに告げるリカルに、王子は心底恐怖を感じた。

「そ、空を飛ぶなんてずるい!卑怯だ!」

「別に卑怯でもなんでもないでしょう。自分の力を使っているだけでね。あなたが王子の権力を使って、審判に細工させたのと一緒ですよ。責めたりはしません」

リカルはそういって、凶悪な笑みを浮かべる。

「さあ、戦いましょう。リングは無くなってしまったので、先に地面に接触した者が負けです」

闘技場の空中で、エルディンとリカルの戦いが始まるのだった。


「ひいい!来るな!来るなぁ!『疾風突!』」

王子は下に向けて風を生み出していた『風蜂のスピア』をリカルに向ける。

ヒュンという音がして、空気でできた透明な槍がリカルの体を掠めていった。

(そんなの『包甲蟲』で防御して……)

リカルは妖蟲を呼び出そうとしたが、寸前で思い留まる。

(まてよ。重い外皮で覆ったら、飛べなくなってこっちが先に落ちてしまう)

『角飛蟲』は確かに空を飛べるが、所詮トンボの羽なのであまり重いものは運べない。空中では『包甲蟲』は使えそうになかった。

「困ったな……近づけないよ」

空中戦に慣れてないリカルは、飛ぶことで精一杯である。とても自分に向けて放たれる空気の槍をかわす自信はなかった。

王子は相変わらず槍を下に向けてバランスを保っているが、リカルが近づこうとすると槍を向けて威嚇してくる。

そうすると、じりじりと地面に向けて王子の体が下がりだした。

(アレ?)

リカルが離れると、また王子は槍を下に向ける。そうすると再び浮き上がってきた。

(もしかして、王子は浮くことはできても、飛べないんじゃ?)

そう思ったリカルは、ゆっくりと王子の周りを旋回してみる。王子は油断なくこっちを見ながらも、その場に浮いたままで一歩も移動しなかった。

(なるほど。風圧で足場を作っているから、その場からうごけないんだな。だったら)

リカルは王子に向けて、手を構える。王子はギョッとした顔になって、槍を向けてきた。

『疾風突』

『瞬撃蟲』

王子から出た空気の槍と、リカルから出た黒いグローブが空中で激突して、相打ちになった。

その反動で王子はよろけて、風圧の足場から落ちそうになる。

「勝負ありですね。私はこのまま打ち続けるだけでいい。それだけで王子はバランスを崩して、そこから落下するはずです」

リカルの指摘に、王子は悔しそうな顔になる。

「王子、降参してください」

「嫌だ!セーラは絶対にお前なんかに渡さないぞ!」

王子は意地を張って、降伏勧告を拒否した。

(困ったな。この我侭王子め。プライドだけは高いから、こっちの言うことを聞きゃしない)

リカルはとっくに負けているのにそれを認めようとしない王子に手を焼くが、いい考えが浮かんだ。

(よし。お仕置きとして、少し怖い目にあってもらおう)

そう思ったリカルは、王子に手を向けた。

「闇蛾蟲招来」

リカルの手から生まれた黒いカーテンが、王子の周囲を覆っていく。

「こ、これはなんだ!何も見えないし感じられない!」

たちまち王子は漆黒の闇に包まれるのだった。



「……こ、怖い。恐ろしい」

王子の心に、ダンジョンの暗闇の中で感じたトラウマが蘇ってくる。

泣き喚いて走り出したくなったが、最後に残った理性でその衝動を抑えた。

「ここは空中だ。一歩でも動けば落ちてしまう」

今は空の上の不安定な足場にいるのである。もし誤って落ちたら、地面に叩きつけられて命も危なかった。

「くっ……リカルはどうなったんだ」

まったく見えないので、リカルがいつ仕掛けてくるか不安でたまらなかった。

「王子、覚悟はいいですか?」

闇の向こうから、リカルの声が聞こえてくる。

「ま、まて!お前は誰を相手にしているのかわかっているのか?僕は王子だぞ。この国で一番偉いんだぞ。お前は怖くないのか?」

ついに自分の身分を盾にとって、リカルを脅迫し始めた。

「ふふ。国に雇われている法衣貴族なら、雇い主である王や王子は怖くて仕方ない存在でしょう。自分の生殺与奪の全権を握られていて、機嫌を損ねれば生きていけなくなるのですから」

「だったら!遠慮しろ!僕を立てろよ!」

恥も外聞もなくそう命令してくる王子に、リカルは冷たく告げる。

「最初から自立して生きていることを余技なくされている、我々在地貴族にとっては、王の権威など知ったことではありませんよ」

その言葉とともに、王子は背中をドンと突き飛ばされた。

「うわぁぁぁぁ!」

王子はバランスを崩し、真っ逆さまに落ちていく。『闇蛾蟲』の作り出した闇を抜けると、地面が迫ってきた。

「もうだめだ!」

王子は観念して、ギュッと目を閉じるのだった。

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