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「勝者!リカル・ローゼフォン」

教師によってリカルの右手が高々と掲げられると、闘技場はシーンと静まり返った。

「うそでしょ……ガウシス様まで負けちゃった」

「お、おい。どうなるんだ。王子は勝てるのか?万一負けてしまったら、法衣貴族の面子が……」

生徒たちがヒソヒソと言い合っている。王子とセーラも青い顔をしていた。

「では、最終戦を始めます。エルディン王子、リングへ……」

審判に言われた王子は、苦し紛れに告げる。

「た、タイムだ」

「タイムって?」

『火蟷螂の鎌』を回収したリカルが首をかしげる。

「そ、そうだ。闘技場の床が油でヌルヌルだ。とてもまともな戦いができる状態じゃない。戦いは清掃が終わってからだ」

「どうせ一緒だと思うんですけどねぇ。まあ、いいですよ。好きにしてください」

リカルは肩をすくめてリングを降りる。闘技場にはホッとした雰囲気が漂った。

「リカル!やったな」

「さすがリカル君だね」

「ガウシス様のあの姿、胸がすーっとしましたわ」

リカルはタハミーネ、コロン、マリーナから賞賛を浴びる。

「リカル。褒めてとらすぞ。さすがはワラワの騎士じゃ」

シャルロットは満面の笑みを浮かべて、リカルの頭をよしよしと撫でた。

「子供扱いするなよ。ところで、これらの武器を持ってきてしまったけど、どうしようか」

リカルは袋から『水蚊剣』『土蜘蛛のメイス』『火蟷螂の鎌』を取りだす。

「どれどれ。ふーん。国宝だから近くでじっくり見たことなかったけど、なかなか面白い武器だね。妖蟲の力がとりこまれているよ」

武器を見ていたコロンが分析する。

「そうか?その割には大して強くなかったけどな」

「使い手がヘボだと引き出せる能力にも限界があるってことだね」

コロンは辛辣な評価を下す。

「そうか。でも一応国宝だろう。王子たちに返したほうがいいのかな?」

「いや、それには及ばないぞ」

控え室に入ってきたキャメリア公爵がそう言った。四武貴族のおっさんたちもうなずいている。

「決闘のルールとして、持ち出された武器や装備品は相手に奪われてたり破壊されたりしても罪に問われることは一切ないことになっている。相手の武器を気にしているようでは、そもそも決闘自体が成立しなくなるからな」

「そうですか。ですが俺の魔法属性は『闇』なので、無用の長物ですね。後で適当に売り飛ばそう」

そういって袋にしまおうとするので、四武貴族のおっさんたちはあわててしまった。

「待ちたまえ。国宝をその辺の武器屋に持ち込もうとするんじゃない。その『水蚊剣』は我がリリー辺境伯家が引き取ろう」

「もちろん。『土蜘蛛のメイスは我がキャメリア公爵家で」

「『火蟷螂の鎌』はデイジー侯爵家に譲ってくれるよな?」

おっさんたちは有無を言わさぬプレッシャーをかけてくる。リカルはおとなしくそれぞれの武器を差し出した。

「となると、次は王子の『風蜂のスピア』だな。アレを王家から手に入れることは、わがパンジー伯爵家の悲願だったんだ。リカル君、よろしく頼むよ」

既に手に入れたつもりで、コロンの父親であるパンジー伯爵はリカルの背中をバシバシ叩く。

「なんだか、俺っていいように使われているような……」

なんとなく、自分が四武貴族の使い勝手のいい駒にされているような気になるリカルだった。


王子側の控え室

エルディン王子はいらいらと貧乏ゆすりをしていた。

「あいつは一体なんなんだ?どうすれば勝てるんだ?」

正々堂々と正面から戦えば決して負けない自身はあるが、相手は変な魔術を使って搦め手でくるのである。

そんな王子をほうっておいて、セーラは必死に王室宝物館から運ばせたアイテムボックスを漁っていた。

「どんな卑怯な手でもいい。ここであいつを止めないと!逆ハーレムが!王妃の地位が!」

セーラが死に物狂いで探していると、あるアイテムを見つけた。

「なになに?『風爆石』ですって?風の魔力がこめられた魔石で、莫大な空気爆発を起こしてすべてを吹き飛ばす。これなら……」

セーラは『風爆石』を手にとって、王子にある作戦を話す。聞き終えた王子は渋い顔をしていた。

「それは卑怯なんじゃないだろうか?」

「いいえ。決闘に使用アイテムの制限はございませんわ。そもそも決闘が始まるまでに前もって用意した準備も含めて、その人の実力なのです」

実に自分たちに都合のいい理屈を持ち出し、王子をそそのかす。

「……やむをえないな」

王子は部下に命令して、『風爆石』を運ばせるのだった。


一時間後

ようやく闘技場の清掃が終わり、リカルと王子は円形のリングにたった。

「ふっ。尻尾を巻いて逃げ出すなら今だぞ」

王子はそう強がるが、ちょっと足が震えている。

「今更逃げ出すぐらいなら、最初から決闘を受けたりしませんよ」

それに対して、リカルは落ち着いて答えた。

「……お前はなんで僕たちとセーラを邪魔するんだ。王国に睨まれるだけで、何のメリットもないじゃないか」

「そもそも邪魔なんてしてませんけど。俺は筋を通せって言っているだけですよ。セーラなんてどうでもいい女、煮るなり焼くなり好きにしてください。でも」

リカルは怖い顔をして、王子を睨む。

「俺の幼馴染たちへの対応はちゃんとやってください。仮にも貴族なら、不名誉な濡れ衣を着せて婚約破棄なんてみっともないことをしないでください」

リカルはそういって、杖を構えた。

「ぬ、濡れ衣なんかじゃない。セーラがそう言っていたんだ」

「一方の言い分だけですべて決め付けるんですね。それが仮にもすべての貴族の上にたち、公平に判断を下すべき王家のすることですか?」

リカルの言葉に、王子は何も言えなくなる。

「こんなことをしていたら、王位を継げなくなりますよ。自分に親しい人ばかりを信じるようでは、他の人間を敵にまわしてしまうでしょう。無理に王になったとしても、臣下の離反を招くだけです」

「う、うるさい。お前なんかと話すことはない。審判、試合開始だ」

王子はリカルから目をそらし、審判役の教師を怒鳴りつけた。

「は、はい。では、最終戦、開始!」

教師は慌てて腕を振り下ろし、開始の合図をする。

次の瞬間、王子の姿がリングから消えた。

「どこにいった?上か?」

慌ててリカルが空を見上げると、数十メートルの高さの空中に王子の姿が見える。どうやら一瞬でそこまでジャンプしたようだった。

「へえ。そんなに高く跳べるんだ。でも、それからどうするのかな。落ちてきた所を待ち構えて攻撃するだけだけど」

そう思って王子に注目するリカルの後ろで、審判の教師が動く。床に敷き詰めていた石の一部に魔力を伝わらせると、その部分が緑色に輝き始めた。

ふいに風の魔力が漂ってきて、リカルはそっちの方向を向く。床石の一部が、今にも爆発しそうに膨らみ始めた。

「ちょっと待て。それって何だよ!」

気がつけば、いつの間にか審判の教師はリングから逃げ出していた。

「は、反則-」

リカルが抗議しようとした時、ついに床にセットされていた「風爆石」が爆発してしまう。

その爆発はリング上のすべてを吹き飛ばし、大量の土煙が宙に舞った。


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