ユリシーズ戦
「では、先鋒は誰から……」
教師がそういったとき、大剣を抱えた小柄な少年が進み出た。
「王子が出るまでもないよ。こんな奴、僕で充分だ。ユリシーズ・カーネーション。セーラママのために、勝負を申し込む!」
ビシッと指を突きつけて宣言する。
「きゃあ!かわいい!」
外見は小柄であどけない少年ながら、その勇敢な姿に、見ていた女子生徒たちは歓声を上げた。
ユリシーズはおぼつかない手つきで大剣を鞘から引き抜くと、そのまま持ち上げて肩に担ぐ。その様子はとてもチグハグで、ズンっという擬音が聞こえてくる気がした。
「嘘だろ?あれは勇者に従っていた剣士が使っていた『水蚊剣』じゃないか」
その剣を見たタハミーネが驚きの声を上げる。
「それだけじゃないよ。クルーダの持っているのは『土蜘蛛のメイス』だ」
「ガウシスさまは『火蟷螂の鎌』をもっています」
「どうやら国宝として王家に秘蔵されていた伝説の武器のようじゃな。王子も『風蜂のスピア』を装備しておる」
シャルロットたちも不快そうな顔になる。
「国宝を使うなんて……そんなの許されるのか?」
「陛下が許すわけがあるまい。おそらく王子たちが勝手に持ち出したのじゃ。まずいの。使い手が微妙でも武器の威力は絶大じゃ。リカルに万一のことがあれば……」
シャルロットは心配そうな顔になる。
「いや、でも大丈夫だろ。ユリシーズたちに使いこなせるとは思えないし」
タハミーネはそう指摘する。たしかにユリシーズは大剣を持っているだけでも辛そうだった。
「お、おい。大丈夫か?」
大剣をかついでいるだけで肩で息をしているユリシーズに、リカルはつい心配をしてしまう。
「うるさい!審判、さっさと始めろ!」
ユリシーズの言葉を受けて、教師は手を振り下ろした。
「それでは、第一回戦はじめ!」
ユリシーズとリカルは距離を置いてにらみ合う。先に動き出したのは、ユリシーズだった。
「えいっ!最強英断剣!」
必殺技を叫びながら、剣を振り下ろす。しかし、もともと筋力がないユリシーズは、リカルにあっさりかわされてしまった。
「ユリシーズ様!しっかり!」
「セーラママが応援してくれている。ぼくは負けられないんだ!」
駄々っ子のように剣を振り回すが、リカルは打ち合うことなく華麗に交わし続けていた。
(こりゃ楽勝だな。ほっといたら勝手にへたばるだろう)
そう思ってあしらっていると、観客から罵声が飛んできた。
「卑怯者ー!正々堂々と戦え!」
「逃げ回っているだけってサイテー!騎士の誇りはないの?」
女子たちからそんなことを言われて、ついカチンと来てしまう。
(何が卑怯だよ。もういいや。一発殴って終わらせよう)
そう思って不用意に近づいた時、ふいにヒュンという風を切る音とともに何かが切りかかってきた。
「な、なんだ?」
紙一重でかわしたものの、頬に一筋の線が入り、血がにじむ。目の前には、しっかりと大剣を構えたユリシーズの姿があった。
「お前、まさか?」
「引っかかったな。見るがいい。これがわが家に伝わる身体増強魔法『水筋』だ」
ユリシーズの体に、水流がまるで筋肉繊維のように絡まって、動きをサポートしている。そのおかげで軽々と大剣を振り回すことができていた。
「やばい!『包甲蟲招来!』」
咄嗟に硬い外皮でできた盾を作って剣を防ぐが、剣が当たった所に深い傷ができてしまう。
「無駄だ。そんな盾、すぐに壊してやる!」
ユリシーズは調子にのって切りかかる。その姿を見たセーラは、勝利を確信していた。
(ふふふ……無駄よ。『ドリームフラワー』の攻略対象って強くて妖蟲をどんどん倒せるって設定だもの。いくら攻略対象の一人だからって、リカルに四人抜きなんてできるわけないわ)
そう安心してみていると、リカルが笑っているのが目に入った。
「なんだ!何がおかしい!」
「いや、どうやって傷をつけずに倒そうかと思っていたんだけど、これほど都合のいい魔法をつかってくれるとは」
リカルはユリシーズを覆っている水の筋肉に手をふれると、そっと魔力をこめた。
「『闇氷』」
一瞬で水流が凍りつき、筋肉から拘束具になってしまう。
「そ、そんな……うごけない」
たちまちユリシーズは氷に包まれて動けなくなってしまった。
「そこまで。勝者リカル・ローゼフォン!」
教師の手によってリカルの右手が高く掲げられるのだった。




