ダンジョン攻略
無事に一学期が終わり、学期末パーティの準備が行われる。
リカルはアークたちBクラスの在地貴族の男子に誘われて、ダンジョンを攻略していた。
クイーンアントが倒されてもその子供であるバッグアントは残っているようで、ダンジョンにはまだまだ宝石や金銀が落ちている。
「見つけた!」
「これでパーティで着る服を買えるぞ!」
アークたちは必死に通路に落ちている宝を拾い集めていた。
「やれやれ……なんで俺がこんなことを……」
先行して探索しているリカルはぶつぶつと不満を漏らす。彼がダンジョンで宝を手に入れたという噂が一気に広まり、一緒にダンジョンに来てくれと泣きつかれたのだった。
「仕方ないんだ。学期末パーティは婚活の最後のチャンスなんだぞ」
「制服なんかで出たら、一気にうちが貧乏なんだって広まって相手にしてもらえなくなる」
男子生徒たちは悲痛な叫び声をあげる。
「大体、俺たちが苦しい思いをしているのって、君のせいもあるんだぞ」
「なんだよ。俺のせいって」
あらぬ濡れ衣を着せられて、リカルは膨れてしまう。
「女子たちが言っていた。私たちに結婚して欲しいなら、リカルみたいな甲斐性を見せてみろって」
「君のことをいちいち引き合いに出して比較してくるんだよ。リカルは四武貴族の令嬢たちからも頼りにされている。婿に迎えるなら、ああいう人だってね」
自分の知らない所でそんな噂をされていて、リカルは思わずにやけてしまった。
「そ、そうかな。でもおかしいな。在地貴族の令嬢たちは俺に近寄ってこないけど」
「それは、四武貴族の令嬢たちが睨みを利かせているからだよ。君に手をだすなってね」
アークは当然のように言った。
「なんで?」
「なんでって、君は四武貴族の騎士……というか愛人なんだろ?」
いきなり愛人扱いされて、リカルは慌ててしまった。
「ち、違うって」
「照れるなよ。実は、そんな生き方もいいかと思い始めたんだ」
アークは虚ろな目をしてつぶやく。その周りの在地貴族の男子生徒たちも頷いた。
「どうせ俺たち、兄や姉妹がいるから領地は継げないし」
「婿入りするしかないもんなぁ。でも、「法地婚姻法」のせいでそれも難しくなったし」
「実家も貧乏で、俺たちを新たな家臣として雇う余裕もないし。追い出されて命の危険がある冒険者になるくらいなら、頭下げて適当な貴族の令嬢のヒモになってニート生活もいいかも。でも、その為にはフリでもいいから格好つけないとな」
話を聞いていると、どんどんテンションが下がってくる。
「でも、このダンジョンにはまだまだ危険な妖蟲がいると思うんだ。だから護衛を頼む」
「……わかったよ」
あまりにも悲惨な在地貴族の男子たちの境遇に、思わずリカルは同情してしまうのだった。
「えいっ。『瞬撃蟲』」
リカルの手から出たグローブが、バッグアントを粉々にする。アントの下腹部の袋が破れて、中から宝石が現れた。
「やった!」
男子生徒たちは夢中で宝石を袋にしまう。そのバックアントが来た方向には、転々と金や銀の塊が落ちていた。
「早いもの勝ちだぞ!」
男子生徒たちは先を争って、金銀を拾い集めていく。
「お、おい。もっと気をつけて……」
リカルの忠告も虚しく、男子生徒たちは先に行ってしまった。
「しょうがないな……」
慌ててリカルが追いかけていくと、生徒たちの歓声が聞こえてくる。
「やった!宝の山だ!」
クイーンアントがいた通路の反対側の先に、少し開けた場所があって、そこには汚い袋と金銀や宝石の原石が溢れていた。
「うう……これでパーティに出られる。ちょうどいい。この袋に入れてもって帰ろう。」
男子生徒たちがその辺りにあった袋に宝を入れているが、リカルは不審に思う。
「なんでここに宝が集まっているんだ……これはなんだ?もしかしてバッグアントの死体?」
汚い袋を拾い上げてみると、アントの下腹部についている袋にそっくりだった。
「これがこんなに沢山あるということは……やばいぞ!ここはアントを捕食する妖蟲の巣だ!」
リカルがそういったとたん、広場の地面が砂になり、すり鉢状にへこんでいった。
「うわぁぁぁぁ!」
生徒たちが叫び声を上げて落ちていく中、中心部に二本の触覚を持った妖蟲が現れる。
生徒たちが捕食されそうになった寸前、リカルは叫んだ。
「包甲蟲招来!」
妖蟲の周囲が硬いドームに包まれ、その中に閉じ込められる。生徒たちは死の寸前で助けられるのだった。
「リ、リカル。ありがとう。でも、これは何だ?」
「ちょっと待て。ええと……」
コロンから貸してもらった「妖蟲大全」を開く。
「バッグアントの天敵は、「妖蟲アントイーター」です。巨大なアリジゴクで、周囲に宝石や金銀をばら撒いてアントを誘います。たまに宝につられた冒険者も餌食にします。その巣に取り込まれたら、風の魔法で脱出する以外ありません……か」
そこまで読んだリカルは、男子生徒たちを見回す。
「だれか風の魔法を使える奴はいないか?」
そう聞くと、アークとその他何人かが手を上げた。
「わかった。それじゃここから脱出して助けを呼んできてくれ」
リカルにそういわれても、アークたちはモジモジしている。
「……無理だよ。ここから出るには、最低でも「風跳」くらいは使えないと。俺たちはまだ初級魔法しかつかえないんだ」
「なんだって、困ったな……。俺の妖蟲でも、移動系はいないし」
リカルが頭を抱えていると、アントイーターを封じ込めたボールからカリカリという音が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
男子生徒たちが恐れの視線で見守っていると、頂点の部分が破られて、中から角と牙を持った巨大トンボが現れた。
「なんだよあれ!」
そう聞かれて、リカルは慌てて次のページをめくってみる。
「えっと……アントイーターは妖蟲ファングフライの幼虫です。その牙は硬く、バッグアントやボールアーマーなどの硬い殻をもつ妖蟲も捕食します……って!そういうことは早く言え!」
本に突っ込んでも何にもならない。ボールアーマーの封印から出たファングフライは、真っ先にリカルに襲い掛かってきた。
「くそっ!「瞬撃蟲」」
リカルが放ったグローブを軽くかわし、その背中に回る。
「うわぁぁぁ!」
次の瞬間、ファングフライの足に捕まえられ、リカルは空中に持ち上げられてしまった。
ファングフライは狭い通路を迷うこともせずに、出口の方向にむかって飛んでいく。どうやら頭についている角のようなものは感覚器官らしく、曲がりくねった穴の中でも正確に周囲の地形がわかるようだった。
「くそっ!」
持ち上げられたリカルはジタバタともがくが、身動きがとれない。そのうち、何か尻に硬いものが当たってきた。
「な、なんだ?」
不安になったリカルは、慌てて「妖蟲大全」をめくる。さらに次のページに、とんでもないことが書かれていた。
「ファングフライは捕らえた獲物の尻に卵を産みつけます。卵は獲物の内臓を食い破って外に出ます……って、そんなの絶対にいやだ」
必死にもがくが、ファンフライはどんどん曲げた尻尾の先を押し付けてくる。このままだとホールインされるのも時間の問題だった




