言いがかり
数日後、リカルは女子寮のシャルロットの部屋に招かれ、相談を受けていた。
「のう。リカルよ。少し頼みがあるのじゃが。果実の件で罰金を払ったせいで、少々手元が不如意なのじゃ。少しばかり貸してはくれんか?」
プライドが高いシャルロットが、顔を真っ赤にして借金を申し込んでくる。その仕草に新鮮さを感じながら、リカルは首をかしげた。
「え?たかが果実の収穫にそんなに金がかかったのか?」
「それがの。あの果実に妖蟲が寄ってきての。それを駆除するのに冒険者を雇わなければならなかったのじゃ。おかげで金貨500枚も必要じゃった。父上から預かっていたお金もパーじゃ」
シャルロットはため息をつくと、リカルに向けて手を合わせた。
「頼む。ただでさえ定期的に傘下の在地貴族を招いてお茶会をしたり、誕生日ごとのプレゼントなどをしなければならぬ。上級貴族であるワラワの付き合いには金がかかる。こんな恥ずかしいこと相談できるのは、ワラワの騎士であるそなただけなのじゃ」
「騎士って、給料もらってないけどな」
そういいながら、リカルはシャルロットに信頼されているのだと思ってうれしくなる。
「『袋蟻蟲招来』」
リカルは袋を呼び出し、宝石や金銀を取り出した。
「助かる。これでワラワも貴族の体面が保てる」
シャルロットはほっとした顔になり、出された宝を受け取った。
「すまんな。夏休みが終わって実家から戻ってきたら、必ず返すから」
「別にいいよ。もともとあのダンジョンでのお宝の半分はお前のものだしな」
リカルは明るく笑って手を振る。その様子を「光影」を使って部屋に忍んでたセーラがじっと見ていた。
(ふふ……どうやらシャルロットはお金に困っていたみたいね。これを上手く使えば、王子に悪い評判を吹き込める)
そう考えるセーラの口元は、醜く吊り上っていた。
無事お金の都合もつき、シャルロットは貴族の付き合いを再開していた。
「シャルロット様。次のお茶会はいつ開かれるのですか?」
「そ、そうじゃな……」
Bクラスの在地貴族の令嬢たちからそういわれ、シャルロットが困った顔をしたとき、いきなり金髪の少女が割り込んできた。
「シャルロット様!もう我が家からお金を巻き上げるのはやめて下さい!」
いきなり大声で泣き喚きながら訴える。シャルロットはいきなり訳のわからないことを言われて、混乱してしまった。
「な、なんの事じゃ?」
「とぼけても無駄です。ローゼフォン領の財政については私にすべて任されているんです。私の義兄があなたにたぶらかされて、大金を貢いでいるのはわかっています!」
自信満々に言い放つ。その声を聞いたAクラスの生徒やエルディン王子がやってきた。
「セーラ、何があったんだ?」
「はい。シャルロット様がわが義兄リカルに迫っているのを聞きました。森の果実の件でお金が足りなくなったので、お金を都合してほしいと」
それを聞いたシャルロットは真っ青になってしまう。
「な、なぜそのことを……」
「ほら!王子様。今のをお聞きになりました?わが領からお金を巻き上げていることを認めました」
セーラは涙ながらに王子に訴えていく。エルディンのシャルロットを見る目つきがどんどん険しくなっていった。
「ご、誤解じゃ。リカルからは一時的にお金を借りているだけじゃ。巻き上げたつもりなど、ワラワには無い」
必死になって首を振って否定するが、集まった法衣貴族や王子は信じなかった。
「大貴族の子女ともあろう人が、辺境貴族にお金を集っていただって?」
「本当に卑しいな。四武貴族といえど所詮は在地貴族か」
そんな嘲笑が聞こえていて、シャルロットは屈辱のあまり涙を流しそうになった。
その様子を見て、ニヤニヤ笑いを浮かべたエルディン王子が口を開く。
「公爵家の令嬢ともあろうものが、恥を知れ!お前なんか僕の婚約者にふさわしくない」
今にも婚約破棄を宣言しそうな様子で、シャルロットをにらみつける。それを見て、セーラは腹の中でほくそ笑んだ。
(うまくいったわね。でも、ここで婚約破棄されると逆ハーレムルートのシナリオが狂っちゃう。しかたないわね。ちょっとフォローして)
そう思ったセーラは、悲しそうな顔をして告げた。
「……シャルロットさまにも事情があったのでしょう。いかに公爵家のご令嬢とはいえ、罰金に金貨500枚も支払わされたら貴族の体面が保てなくなるのはわかります」
さりげなく当てこすりながら、セーラは言葉を続ける。
「ですが、我がローゼフォン領は貧しい地。無能な義兄をたぶらかされ、お金を巻き上げられると、民が……いたっ!」
そこまでいった所で、何者かに後頭部をたたかれる。
「何勝手な事を言ってんだ。誰が無能でたぶらかされたんだって?」
セーラにツッコミを入れたのは、リカルだった。
「リカル!」
頼りになる騎士が来てくれたので、シャルロットの顔がパッと明るくなる。
「言っとくけどな。俺がシャルロットに渡した金は、ローゼフォン領の金じゃないぞ。俺が個人的に稼いだ金だ」
「嘘よ!」
絶叫するセーラの前に、リカルは宝石や金銀が入った袋を投げ出す。
「ほれ。この間のダンジョン探索で稼いだ宝だ」
「こんな宝を……」
セーラは悔しそうな目で袋を見るが、ふいにニヤッと笑って王子に向き直る。
「ですが、兄がシャルロット様に騙されて、大金を貢いでるのは間違いありません。私がろくな仕送りも与えられず、貧しい思いをしているのにもかかわらず……」
悲壮感たっぷりの演技に、王子はすっかり同情してしまった。
「お前という奴は、見下げ果てた奴だな。義理とはいえ妹がお金に困っているのに、無視して他の女に貢ぐとは。人としてのやさしさがないのか」
上から目線で説教してくる王子に、リカルはすっかり呆れてしまった。
「何を勝手なことを。俺が自分で稼いだ金を、どうしようが俺の勝手でしょう?王子には口出しする権利はありませんが?」
正論を言われて王子は言葉をなくすが、王族の権威を持ち出して従わせようとした。
「うるさい。とにかく、そんな金があるなら可哀想なセーラに渡せ。これは命令だ」
「お断りいたします。我がローゼフォン家の家訓は、『働かざるもの金を得るべからず」なので」
リカルは王子の命令を、鼻で笑って拒否した。
「なんだと!だったらシャルロットは何の理由があってお前から金を受け取っているんだ!」
王子が顔を真っ赤にして詰め寄ってくるので、リカルは説明してやった。




