罰金
(さて……あの三人に関しては順調に攻略できているけど、肝心の王子に対してどうするかよね。できれば悪役令嬢の筆頭格であるシャルロットの評判を落としてやりたいんだけど……隙がないのよね)
セーラは悩んでしまう。シャルロットはさすが公爵家の子女というべきか、完璧な学園生活を送っており、評判を落とすような付け入る隙がなかった。彼女に好意的でない法衣貴族や王子も、その優秀さは認めている。
(仕方ないか。しばらく様子を見て、何か落ち度がないか探しましょう)
セーラはシャルロットをストーカーする。しばらくつけまわしていると、彼女が放課後一人で学園の裏手にある森に入っていくのを見た。
(こんな暗い森の中で、何しているのかしら?もしかして、男と待ち合わせているとか?もしかしていけないこととか……?)
ちょっと期待して見ていると、シャルロットは森に生えている平凡な木に向かって杖を振るう。
「『土実』」
すると、みるみるうちに木に果実が成り始めた。シャルロットはスカートのまま木に登り、果実を手にとってつぶやく。
「コロンから教えてもらった、果物を作る土魔術は成功したようじゃが、果たしてちゃんと食えるのじゃろうか?」
そういいながら一口かじってみて、渋い顔をする。どうやら味が
お気に召さなかったようだった。
「失敗か。これが成功したら、海と山ばかりで農地が作れないローゼフォン領の手助けになるかと思ったのじゃが。まあ、時間はある。気長に実験しようかのう」
ちょっとがっかりした様子で去っていく。見ていたセーラも損した気分になった。
(なによ。お嬢様らしくイケナイことでもするかとおもったら、農家の真似事?ほんと悪役令嬢らしくないわね)
プリプリしながら学園に帰っていく。このときは、シャルロットの評判を落とすきっかけにすることができるとは思ってなかった。
数日後
魔法学園である問題が持ち上がる。
「学園の裏にある森の木に、なぜか果実が成っている。あの木は妖蟲よけのために、わざと実が成らない種類を植えているのだ。だれかが妙な魔法をつかったに違いない。心当たりはないか?」
教師はそういって、じろりと生徒たちを睨んでくる。生徒たちはお互いに顔を見合わせた。
「実を成らす魔法だって?なんでそんな魔法を使ったんだ?」
「誰か食い意地が張った奴がやったんじゃないか?」
そんなささやきを聞いたセーラは内心ほくそ笑む。
(これはチャンスだわ。この果実を作ったのはシャルロットだと告げ口すれば、評判を落とせるはず)
そう思ったセーラが口を開こうとしたとき、シャルロットが自発的に手をあげた。
「先生、すまぬ。ワラワが土魔法を使ったのじゃ」
「シャルロット嬢が?なぜあなたのような優等生が悪戯など?」
「悪戯ではない。ローゼフォン領のような辺境の地は山ばかりに囲まれており、平地での農業が難しい。この魔法を使えば、山で果樹園を作って果実の実りで民を豊かにすることができると思ったのじゃ。軽率な行いであった。謝罪する」
そうやって殊勝に頭を下げた。
「民のためだって。在地貴族は平民に媚へつらうのに必死だな」
「仕方ないのよ。国からちゃんと地位が保障されている私たち法衣貴族と違って、領地の民にそっぽを向かれたら終わりだもの」
そんな陰口が聞こえてくるが、シャルロットはただ黙って屈辱に耐えていた。
「シャルロットにその魔法を教えたのは僕だよ。処罰するなら僕もしたまえ」
「それくらい、いいじゃないか。ちゃんと果実を始末すればいいんだろ?あたしも手伝うよ」
「民の為に行ったことです。たまには失敗もありますわ」
コロン、タハミーネ、マリーナが口々に弁護する。リカルもうんうんと頷いていた。
「何もしてない領主より、失敗を繰り返してでも領内を良くしようとする領主のほうが民の為になるよな。領民を持たない法衣貴族はそういう責任がないから気楽なもんだけど」
シャルロットを馬鹿にした法衣貴族に対して、あえて挑発的にふるまった。
「なんだと!」
「お前みたいな辺境の雑魚貴族が、偉そうなことを語るな!」
たちまちリカルに批難が集中してしまった。
(リカル……お主、わざと?)
(俺みたいな辺境貴族に対してだと、奴らも好き放題に言えるだろう?下手に溜め込まれて変なことをされても困るしな。奴らにはせいぜい騒がせておけばいいさ)
リカルはシャルロットとアイコンタクトする。その間、王子は我関せずと無視を決め込んでいた。
生徒たちが騒ぎ出して収拾がつかなくなりそうだったので、教師は慌てて処分を言い渡す。
「静かに!はあ……わかりました。シャルロット嬢、無断で学園私有地で魔法を使った罰を言い渡します。果実の除去費用を全額負担なさい」
「寛大な処分、感謝する」
シャルロットは深く頭を下げる。誰もがこの件はこれで終了だとおもっていた。




