婚約破棄の下地
「その手があったか!」
「欺瞞と虚飾に満ちた家庭は王都で演じて、領地で温かい真実の家庭を築く……素敵だね」
「いい考えですわ。さっそくお父様に頼んで、リカルさんを領地で雇いましょう。とりあえず専属薬師ということで、医療を名目にいけないことを……」
そういってリカルの腕をひっぱるマリーナに、タハミーネとコロンが猛反発する。
「マリーナ、ずるいぜ!」
「独り占めはよくない!」
喧嘩が起こりそうになったので、シャルロットが一喝した。
「そなたたち、落ち着くが良い!貴族令嬢としてみっともないぞ。ワラワたちで共有すればよいだけじゃろうが」
いきなり共有物扱いされて、リカルは慌てる。
「やだよ。それじゃまるでヒモじゃないか。しかもお前たち共有だって。そんな爛れた関係いやだ!」
「何故じゃ?男は「はーれむ」とやらが夢と聞いたがのう」
確かに一人の男に複数の女が群がっている状態だが、主導権は女にある。そんな生活をすることになったら、ストレスで病んでしまうだろう。
「それ違う。ハーレムじゃなくてただの性奴隷だから」
「細かいことを気にするな。可愛がってやるから。それに子種は減るものじゃないと聞くぞ。四人くらいなら頑張れるじゃろう?」
「減るよ!主に精神とかプライドとか尊厳とかが!」
リカルが断固拒否するので、令嬢たちは残念そうな顔になった。
「リカルがそう言うなら仕方ないか。あともう一つの方法としては、奴らから婚約破棄を申し出させることじゃな」
シャルロットはそう言いながら、王子たちのことを話し出す。
「知っておるか?お主の義妹セーラが、王子たちにアプローチをかけていることを。手作りの料理を振舞っておったぞ。たしか『ピザ』とかいう食べ物じゃった」
なぜか、わざわざシャルロットに見せ付けるようにわざと目の前にきて、王子を誘ったのである。王子も初めて食べる庶民的な料理に、すっかり虜になった様子だった。
「あ、あたしも見た!なんか公園でユリシーズに耳かきしていた。あいつ、セーラにむかって『セーラママ』とかいっていたぜ」
鍛冶場に行く途中のベンチで、人目も気にせず母子プレイにふける二人を見て、タハミーネは心底怖気がしたようだった。
「そういえば、よく教会に来て祈っているよ。光をまとって神に祈りを捧げる姿をみて、クルーダ坊ちゃんが見とれていた」
コロンが教会に併設されている魔術図書室にいるときに限って、セーラは祈りにくるのである。
「私も、ガイウスさまが訓練場で稽古している所に来て、タオルで汗を流しているところを見ましたわ。気持ち悪くなったのでその後のことは見ていませんけど、ずいぶん褒めていたようですわ」
マリーナが体調が優れず、治療室にいるときに窓の外から訓練場が良く見えた。セーラは頻繁に訪れて、ガイウスとの仲を深めているようだった。
「そうなのか?まあ、うっとうしいあいつを引き取ってくれたら万々歳なんだけどな。ローゼフォン領じゃ領民に嫌われまくっていて、居場所がないみたいだし」
領内ではミザリーとセーラは強欲親子扱いされて、誰にも相手にされてないのである。
「決まりじゃな。それなら、ワラワたちはなるべくセーラとも王子たちとも関わらぬようにして、状況の変化を待つのじゃ」
こうしてお茶会での結論が出るのだった。
リカルたちがお茶会をしているころ、セーラは自室でこれからのことを考えていた。
(今の所は順調ね。攻略対象たちとの出会いイベントは一通りこなしたし、順調に好感パロメーターは上がっているはず。だけど)
そう、確かに仲良くなってはいるが、何かが足りない。
(やっぱり、邪魔者がいないと恋は燃え上がらないのかしら。でも、なぜか令嬢たちは絡んでこないのよね)
そう、ゲーム世界「フラワードリーム」と違って、王子をはじめとする攻略対象と悪役令嬢たちの仲はもともと悪く、互いに関わらないようにしていた。
わざと攻略対象と仲がいいところを見せ付けて煽ってみたが、悪役令嬢はなんの関心も払わない。彼女たちに近い男といえば、リカルだけだった。
(それに、ゲームと違って悪役令嬢たちはクラスでハブられている。
奴らが取り巻きをつかって私に苛めをしてきて、同情してくれた攻略対象と恋に落ちるといった設定なのに。これは困ったわ)
彼女たちは悪役令嬢の癖にAクラス内に取り巻きがおらず、いつも四人で行動するか、あるいはBクラスの在地貴族の子女と行動していた。これでは苛められイベントも起こしにくい。
(仕方ないわ。まだ時間はあるんだし、攻略対象と仲良くなりながら、悪役令嬢の悪口を吹き込んでいって、さらに仲が悪くなるように仕向けましょう)
セーラはそう結論づけるのだった。




