クイーンアント
シャルロットとエルディン王子は、曲がりくねった通路を進んでいく。
『えいっ!『風足』」
王子は得意の風魔法を自分にかける。すると、風のようにすばやく動けるようになり、通路にいた妖蟲を倒していく。それは黒光りする岩でできたアリのような妖蟲だった。
倒すたびに下腹部についている袋から、宝石や金銀の鉱石を手に入れられる。
「王子、探索はもう充分です。戻りましょう。それに現在位置もわからなくなっています」
途中シャルロットは何度も諌めたが、王子は聞き入れなかった。
「うるさい。ここにあるものは全部僕のものだ」
王子は聞き入れず、夢中になって倒したアリの袋から出てきた宝石や金銀を拾い集めている。その姿をみていると、シャルロットは幻滅した。
(王子たるものが情けない。まるで貧民のように欲にとらわれおって。そもそも、金には困らぬ身分のはずじゃ。こやつが王になったら、自分の欲を満たすために民に重税をかけるかもしれぬ)
そう思いながらついていっていると、前方に光る物が見えていた。
巨大な白い袋のようなものが蠢いており、その中に輝く宝石や金銀が入っているのが透けてみえる。時折後ろの口から、宝石を吐き出していた。
「何かよくわからないが、あの中にお宝があるってことだな。『風斬剣』」
王子が剣を振るうと、白い袋はビリっと破れて、鉱石を吐き出す。その瞬間、いきなり周囲の壁が崩れて、巨大な妖蟲が現れた。
それは巨大な黒光りするアリで、下腹部に白い細長い袋がついている。そのアリは咥えていた岩を離し、鋭い牙で威嚇してきた。
「こ、これは、まさか、クイーンアントか?」
シャルロットは恐怖の声をあげる。それはまさしく、ダンジョンを作り出す主である妖蟲だった。
「ひっ!く、くるな!くるなぁ!」
王子はパニックになって槍を振り回す。風の刃が発生し、クイーンアントに当たるが、鉄のような硬い体には効かなかった。
「王子!風の攻撃魔法は土系統の妖蟲には効きません。下がって援護してください」
シャルロットは王子をかばうようにクイーンアントにむかって立ちはだかり、杖を振った。
「『砂嵐』」
シャルロットが作り出した砂の竜巻は、クイーンアントを押し包み、その視界をさえぎる。
「いまです。『風足』を私にもかけてください。この隙に逃げ出しましょう」
そういって振り向いたシャルロットが見たものは、一目散に逃げていく王子の姿だった。
「助けてくれーーー!」
せっかく手に入れた宝が入った袋を放り出し、後も見ずに走り去っていく。
「そんな……ワラワを見捨てて、自分だけ逃げ出すなんて」
シャルロットは絶望する。この狭い穴の中で、敏捷性をあげる風の魔法の補助なしに逃げきれるわけがなかった。
「……ふふふ。とんだ婚約者もあったものじゃのう。ワラワの命も
ここまでか」
諦めたシャルロットは、覚悟を決めてクイーンアントに向き直る。
「ただでは死なぬ。四武貴族の誇り、見せ付けてやるわ!」
その言葉と共に、クイーンアントに立ち向かっていった。
「まったく。なんであんたと一緒なのよ」
「それはこっちの台詞だよ。いいから明るくしてくれ」
リカルにそういわれ、セーラは不満そうに杖を振る。
「光玉」
セーラの杖から出た光の玉により、薄暗いダンジョンがはっきり見えるようになっていた。
「キィッ!」
急にあかるくなったことに驚いたのか、真っ黒い羽を持つ蛾の妖蟲が天井から襲い掛かってくる。
「瞬撃蟲招来」
リカルの手から放たれたグローブの一撃で、妖蟲は粉砕された。
「ふん。それが『蟲式術』ってわけね。気持ち悪い」
「セーラはそれを見て、嫌そうに顔をしかめている。
「は?なんでお前がそんなことを知っているんだ?」
『蟲式術』は今のところリカルと令嬢たちしか知らない新魔術のはずである。
「ふふ。私は何でも知っているのよ。この世界に起こることなら何でもね。当然このダンジョンで起こるイベントも。ああ、待ち遠しいわ。今日こそ王子を落として……きゃっ!」
一人で悶えるセーラを放っておいて、リカルは妖蟲を取り込む。
「わが手によって倒された妖蟲よ、我が僕となり、我が身を守れ」
黒い蛾から光の玉が出て、リカルの身に宿る。右腕に『闇蛾蟲』の文字が刻まれた。
「この妖蟲の能力は、光を吸収して辺りを暗くし、感覚器官を狂わせることか。まあ、夜ぐっすり寝られるかもしれないな」
あまり使い道はないかもしれないが、一応新しい能力を手に入れるリカルだった。
そのまま適当に探索を続け、時間が来たので集合場所に戻る。しかし、教師と生徒たちは大騒ぎしていた。




