ガイウス・アマリリス大将軍令息
次の日
真っ赤な顔をしたガイウスと、青い顔をした取り巻きの男子生徒かちが学園の指導室から出てきた。
「くそっ!マリーナを苛めた罪で停学だって?婚約者を躾けただけだろうが!あの野郎。チクりやがって。ぶん殴ってやろうか!」
ガイウスは腹立ち紛れに学園の壁を殴りつけるが、周りの男子生徒たちに止められた。
「ガイウス様、抑えてください」
「そ、そうですよ。これ以上彼女に手をだしたら……」
周りの男子生徒たちは必死に説得する。いくら彼が大将軍の息子だといえ、所詮王国から地位を与えられている法衣貴族にすぎない。その財力と権力も四武貴族にははるかに劣る。
国家に対する反逆罪に問うとかのケースならともかく、今回のような個人間での諍いには大将軍の権力も及ばないのである。
もしリリー辺境伯を本気で怒らせでもしたら、王国は彼を宥めるためにあっさり大将軍を罷免して他の軍閥法衣貴族をその地位につけるだろう。そうなれば、ガイウスのアマリリス家は一気に凋落してしまう。
悔しさのあまり歯軋りするガイウスの前に、マリーナとリカルが現れた。
「てめえ……よくも学園にチクったな!」
拳を振り上げるガイウスを、マリーナは冷たく笑った。
「あらあら、次は暴力事件ですか?停学では済まなくなりますね」
「ぐっ」
やり込められたガイウスは、なんとか自制して拳を下ろす。
しばらくマリーナを睨み付けていたが、なんとか言葉を捻り出した。
「……てめえ、未来の夫を陥れて楽しいのか」
「未来の夫?どこのどなたのことですか?」
簡単にあしらわれて、ガイウスの頭に血が昇る。
「俺はお前の婚約者だぞ!俺に従え!」
「何を勘違いしているのですか?あなたを婚約者にしたのは、あくまで王様の意思です。あなた自身の魅力でも、実家の権力でもないのですよ。調子に乗らないでくださいまし」
マリーナはスカートの裾を広げると、優雅に一礼した。
「なんだと!」
怒りのあまりマリーナに殴りかかろうとするが、リカルに間に入られてしまう。
「そこまでだ。マリーナに手をだすな」
そういって自分をかばうリカルを、マリーナはうっとりした目で見つめていた。
「ガイウス様は汗臭くで嫌いです。もう二度と私に近寄らないでください」
そういってマリーナはリカルの手をとって去っていく。ガイウスは悔しそうに二人の背中を見つめるのだった。
男子寮
停学になったガウシスは、自分の部屋でひたすら筋トレをしていた。
「99、100、101…」
いやな事をわすれるように、上半身裸になって腕立て伏せやスクワットで体をいじめぬく。そうでもしないと怒りと嫉妬で気が狂いそうだった。
「くそ……マリーナめ。なんで俺のいうことを聞かねえんだ。俺は婚約者だぞ」
ガウシスはマリーナに憎しみをぶつける。それは恋慕の裏返しでもあった。
彼は決して小さいころからの知り合いであるマリーナを嫌っているわけではない。ちょっかいを出していたのも、かまってほしいからであった。
父である大将軍からマリーナを婚約者にするといわれたときも、表面上では嫌がっていたが心の中では歓喜していたのである。
しかし、今まで意地悪をしていたせいで、思春期を迎えてもどう接したらいいかわからない。それで彼なりに彼女の体を心配して鍛えてあげようと思った。
それなのに、途中から出てきた訳のわからない男に奪われてしまったのである。
挙句の果てに停学になって、部屋から一歩も出られなくなる有様。
「くそっ。マリーナめ。それからあのローゼフォンとかいう辺境貴族め。覚えていろよ」
呪いの言葉を口ずさみながら、ガイウスは体を鍛え続ける。
その時、部屋のドアが開いて金髪の美少女が入ってきた。
「ガウシス様。お食事を持ってきました」
「そこに置いておけ」
振り向きもせずに言い放つが、運んできた少女は去ろうとしない。
「なんだ?なにか用か?」
すると、少女は汗まみれの背中にいきなりすがり付いてきた。
「ガイウス様、不肖の義兄が無礼を働いたみたいで、申し訳ありません」
そんな声と共に、背中からやわらかい感触と体温が伝わってくる。
「兄だって?そういえば、お前は……」
「セーラ・ローゼフォン。リカルの義妹でございます」
金髪の美少女は、そういって頭を下げた。
「せめてものお詫びに、お世話させてください」
そう殊勝に申し出てくるセーラに、ガイウスは嗜虐心を刺激された。
「なら、マッサージでもしてもらおうか」
パンツ一枚になってベットに寝転がる。セーラは顔を赤らめるものの、素直にうつ伏せになったガイウスの体に手を触れた。
「清光!」
手に光魔法を使いながらマッサージしていく。指先から放たれた聖なる光は、瞬く間にガイウスの体の疲労を癒していった。
「ガイウス様、いかかですか?」
「ああ、気持ちいいぞ……あ、そ、そこはいい!」
セーラの指が腰より下に下がっていくので、あわててガイウスはととめようとした。
「だめですよ。お尻は一番疲労が溜まるところなのです。はあはあ……男子の尻」
なにやら後ろから荒い息が聞こえてきて、思い切り尻をもみしだかれてしまう。
「あ、あっ。でるっ。ブッ」
案の定括約筋が緩んで悪戯なそよ風がセーラの顔にかかってしまう。
しかし、彼女は微笑を浮かべたまま、マッサージを続けてくれた。
「あ、あのさ、ごめん」
「なんのことでしょうか?」
あえてスルーして小首をかしげてくる仕草が可愛らしい。それを見たガイウスは、つい心の中の葛藤を吐露してしまった。
「……なあ、俺ってそんなに汗臭いかな?」
「そんなことないですよ。まるでお日様みたいないい匂いです」
セーラは汗臭い体に顔を近づけて、クンクンと匂いをかぐ。マリーナに近寄るなといわれて傷ついていたガイウスは、まったく気にしない彼女が天使のように思えた。
「それでも気になされるようでしたら、今度からこれを使ってください」
セーラが差し出したのは、いい匂いがする白い塊だった。
「なんだこれ?」
「私がつくった『石鹸』というものです。これを使って体を洗うと、綺麗になった上にいい匂いがするんですよ」
セーラは甲斐甲斐しく石鹸でガイウスの体を擦り、タオルで拭いていく。全身がいい匂いに包まれてさっぱりとした。
「ふわぁ……眠くなってきた」
「よろしいですよ。おやすみなさい」
セーラに優しくマッサージされながら、ガイウスの意識は蕩けていく。いつしか彼は安らかな眠りに落ちていた。
その様子をみながら、セーラは心の中で笑う。
(ふふ。ちょろいものね。男って落ち込んでいる時に慰められると、すぐに落とすことができるんだから。しかし……さすが攻略対象。いい体しているわね。ちょっとイタズラして……)
ガイウスが寝ている間に、思う存分その体を堪能するセーラだった。




