しごき
保健室
「遅いなぁ。何をしているんだ?」
リカルは椅子に座って、マリーナを待っていた。
「最近、また体調が悪くなったから治療してくれって言っていたのに。もしかして、どこかで倒れているとか?」
心配になって探しにいこうと腰を上げたとき、窓の外から見える訓練場が目に入る。そこでは大勢の男子生徒がいて、なぜか盛り上がっていた。
「おいおい、しっかり走れよ」
「もっと胸を揺らせ!」
「清楚系美少女の苦悶する姿……たまんねえ」
彼らは一人の少女が走っている野を見て、野次を飛ばしていた。
「なんだあいつら、何してんだ?あれ?」
走っているのは、水色の髪をした華奢な少女だった。あまり走るのに慣れていないのか、少し走っては苦しそうに立ち止まる。
「あれってマリーナじゃないか。体調悪いってのに何やっているんだ」
慌ててリカルは保健室を飛び出すのだった。
「ぜい……ぜい。苦しい」
訓練場の周囲を無理やり走らされているマリーナがいる。呼吸が苦しくなって走れなくなると、ガイウスから怒声が飛んだ。
「なに歩いてやがんだ。休むんじゃねえ!気合を入れろ!」
「も……もう、許してください」
マリーナはその場に膝をつき、ぜいぜいと喉を鳴らす。それを見たガイウスは嗜虐心を刺激された。
「そうだなぁ。俺の言うことを聞いたら、許してやるよ」
「な、なんでもします。だから、これ以上は……」
喘いでいるマリーナの前で、ガウシスは上着を脱いで上半身裸になる。
たくましい体から汗の臭いが立ち上り、マリーナをさらに苦しめる。
「うっ………臭い。気持ちわるい」
うずくまって吐きそうになるマリーナに、ガイウスは容赦なく命令した。
「おい!マッサージしろ!」
見せ付けるように目の前に寝転がる。マリーナは周りを見渡すが、助けてくれそうな生徒はいなかった。
「マッサージって?」
「大貴族のお嬢様にさせるのか?すげえ!」
「そ、それよりどこまでするんだろう」
期待を込めた目で見てくる男子生徒たちに取り囲まれ、マリーナは逃げ場がなくなってしまう。
仕方なく、ガイウスの汗まみれになっている体に手を伸ばした。
「ぐふふ……いい気持ちだぜ」
うつ伏せになって腰をもませているガイウスは、マリーナの柔らかい手の感触を楽しんでいる。
「あの……もうこれで……」
「何をいっている。次はもっと下だ」
「も、もっと下っておっしゃられると……まさか?」
マリーナが聞き返すと、ガイウスはニヤニヤ笑いながら答えた。
「そうだ。尻を揉め」
尻をふりふりさせて迫ってくる。
マリーナは涙目になりながら、ガイウスの尻を揉んだ。
「もっとだ。もっと踏ん張って力をいれろ!」
そうガイウスが力んだとき、つい括約筋がゆるんでしまう。
ブッという音とともに、悪戯なそよ風が発射された。
「きゃっ!」
「おっと。悪い。つい出ちまった」
清楚な令嬢の顔面に風を吹き付けた彼は、そういって頭をかく。
「いや、いやぁ!」
度重なる屈辱に、マリーナはとうとう泣き出してしまった。
それを見て、嗜虐心がくすぐられたのかガイウスはさらに調子にのってしまう。
「尻は嫌か。だったら前でもいいんだぞ」
ガイウスは今度は仰向けになって大股開きをする。
「い、いや……それだけはいや。あっ……」
悪臭と下品さに耐えられなくなったマリーナは、意識が遠のいていく。
ふらふらと倒れそうになった時、誰かに支えられた。
「マリーナ、大丈夫か?」
「リカル……さん」
温かい手に抱きしめられて、マリーナは安心する。しかし、ガイウスと取り巻きの男子生徒たちは、突然の闖入者に怒りの視線を向けた。
「なんだてめえは。いい所だったのに。邪魔すんなよ。辺境の在地貴族の癖に。どっかに行け」
大股開きのまま、ガイウスは顎をしゃくる。そんな彼に冷たい目で見たリカルは、彼の前に立つて見下ろした。
「そんなにマッサージしてほしかったら、俺が揉んでやるよ。『瞬撃蟲招来!』」
「ぐぉぉお!」
リカルの手から出現した黒いグローブは正確にガイウスの股間を直撃する。痛烈な一撃を食らって、彼は泡を吹いて悶絶した。
「ガイウスさま!」
慌てた取り巻きたちが駆け寄る隙に、リカルはぐったりしたマリーナを抱き上げる。
「いいか。これに懲りたら二度とマリーナに関わるな。『転々蟲招来!』」
リカルとマリーナは渦巻きの中に消えていく。後には気絶したガイウスと男子生徒たちが残されるのだった。
保健室
マリーナをベットに寝かせたリカルは、苦しそうに喘ぐマリーナを見て心配になった。
「ぜい……ぜい……苦しい」
「待っていろ。『油蛙蟲招来』」
リカルは万能薬になる油を生み出す妖蟲を呼び出す。たちまちリカルの両手は油でぬるぬるになった。
「よし。これを胸と喉に塗って……」
マリーナの上着を脱がし、その体に油をぬっていく。苦しそうだったマリーナの呼吸は、徐々に安定していった。
「はぁはぁ……リカルさん。ありがとうございました」
呼吸が楽になったマリーナは、体を起こして礼を言う。
「どうやら楽になったみたいだな。よかった」
「それで……あの。ちょっとあっちを向いてもらえませんか?」
マリーナは顔を赤らめて、自分の服で胸を覆った。
「あ、ご、ごめん」
「い、いえ、お気になさらないでください」
マリーナは慌てて上着を着る。二人の間に微妙な気恥ずかしさが漂った。
「え、えっと、その、お前は体が弱いんだから、無理するなよ」
「ええ。私も気をつけていたのですが、無理やり走らされて…」
マリーナは泣きながら、ガイウスにされたことを話す。聞き終えたリカルはマリーナに同情してしまった。
「そうか。お前も大変なんだなぁ。あんな脳筋が婚約者でさ。でも、これからどうするんだ?」
「安心してください。今回のことで腹に据えかねました。学園に対して正式に抗議させていただきます」
マリーナはそういって、黒い笑みを浮かべるのだった。




