訓練場
学園には座学だけではなく、戦闘的な魔法の習得も推奨されている。特に将来軍隊に進もうと考えている者にとっては、敵を倒す攻撃魔法はもっとも価値があるものだと考えられていた。
そんな生徒の中で、もっとも強い攻撃魔法を使えるのは大将軍の息子、ガウシス・アマリリスである。
「炎激拳!」
「ぐはっ!」
炎をまとった拳の一撃をくらって、対戦相手が吹っ飛ぶ。
「さすが大将軍の息子だ」
「もしかして、伝説の武道家『ムトウ』より強いかも」
そんな声が聞こえてきて、ガウシスはますますいい気分になる。
「がははは!俺は最強だ!」
学園内で力を示すことができて、有頂天になるのだった。
訓練が終わって一息ついた時、学園の女生徒たちがやってきた。
「ガイウス様。お疲れさまです。格好よかったですよ」
「クッキーを作りました。召し上がってください」
大将軍の息子で学園最強のガイウスは、王子と並んで女子生徒たちに人気がある。今日も大勢の女子生徒から差し入れが届けられていた。
他にも、カップルになった男女が仲良くしている光景も見られる。
「はい。あーん」
「ありがと」
学園に入学して一ヶ月、早くも恋愛格差が生まれ始めていた。
しかし、女子人気が王子を始めとする四人に集まる以上、どうしてもあぶれる男子生徒が出てくる。
「おい、お前は結婚できそうな相手がみつかったか?」
そう聞かれた生徒は、ため息をつく。
「運が悪かったなぁ。まさか今年は王子と三権貴族の子息がいっぺんに入学するなんて。女の子たちはそれに夢中で、俺たち普通の法衣貴族なんて相手してくれないよ」
「俺もだ。王子やガウシス様なんてモテるんだから、少し分けてくれればいいのに」
自分のことを陰口されて、ガウシスはムッとなる。
「おい。お前ら。相手が見つからないのは、俺のせいだとでも言いたいのか?」
怒気をまとったガウシスににらみ付けられて、男子生徒たちは必死に弁解した。
「と、とんでもありません。女に相手にされないのは、俺たちが弱いからです」
「そうだろう。ふふふ」
相手を屈服させて、ガイウスはいい気分になる。調子に乗った彼は、女子生徒たちが帰っていった後に説教を始めた。
「いいかてめえら。女に媚びるんじゃねえ。女なんて強いところ見せ付ければ、何でも言うことを聞かせられるんだよ!」
そう頭ごなしに言われて、何人かの男子生徒が不満そうな顔になる。その中の一人が、ふと思いついたように聞いた。
「そういえば、ガイウス様の婚約者って、リリー辺境伯の令嬢なんですよね。なんで一回も姿を見せないんでしょうか?」
痛い所を疲れて、ガイウスは動揺する。
「そ、それはだな。あいつは奥ゆかしいというか、小心者というか」
「いや、一回ぐらい見学に来て、仲がいい所を見せてくださいよ。どうやったら在地貴族の令嬢を屈服させられるか、参考にしたいと思います」
そういわれて、ガイウスは引っ込みがつかなくなる。
「わかったよ。あいつが俺に献身的に奉仕するところを見させてやる。」
ついにガイウスはマリーナをつれてくることを約束するのだった。
その日の夜、マリーナはガイウスから届けられた手紙を見て、うんざりする。
「『婚約者らしく訓練場に来て、俺の世話をしろ』ですって?」
筋肉ムキムキの男たちが汗を散らして訓練している光景を想像して、マリーナは気持ち悪くなる。
「ただでさえ最近環境が変わったせいか体調が思わしくないのに。
お断りの手紙を書きましょう」
こうしてマリーナはガイウスの頼みを拒否する。しかし彼は諦めなかった。
「なんだと!在地貴族の癖に生意気な!」
思い通りにならない彼女に激怒する。
次の日、授業が終わって帰ろうとするマリーナを捕まえて、無理や連れて行こうとした。
「今から訓練するから、一緒に来い!」
「……ケホッ。すいません。今日は体調が悪いので、友人に治療をお願いしているのです。だから行けません」
マリーナはそういって断るが、ガイウスは引かない。
「体調が悪いだって?体を動かさないからそうなるんだ。よし、お前も来て走り込みをするんだ」
「こほっ。わ、私は息が苦しくなる病気なのです。だから、走ったりしたら余計に苦しくなります」
マリーナはそう訴えたが、ガイウスは聞く耳をもたなかった。
「おい!てめえ!何で俺の言うことを聞かないんだ!俺の婚約者のくせに!」
「それは王様に無理やり押し付けられただけです。私はあなたの奴隷ではありません。失礼します」
ツンと言い放って去ろうとするマリーナの腕を、ガイウスは力づくで掴む。
「女には最初の躾が必要なんだ。いいから来い!」
マリーナは無理やり訓練場に引き摺られていった。




