鍛冶師
次の日
リカルはタハミーネに呼び出されていた。
「手伝ってもらいたいことがあるから、鍛冶場にこいって何だ?そもそも学園内に鍛冶場ってあるのか?」
そう思いながら学園の隅にある倉庫に近づくと、カンカンといった金属をたたく音が聞こえてきた。
「もしかして、ここなのか?」
リカルが倉庫に入ると、何人かの筋骨たくましい男たちがいた。みんな真剣な目で、ドロドロに溶けている鉄が入った炉を見つめている。
「やあ、リカル、よく来てくれた」
そういって迎えてくれたのは、デイジー侯爵家の令嬢タハミーネだった。
「タハミーネ。なんて格好しているんだよ」
リカルは彼女の姿を見て驚いてしまう。薄いタンクトップの上に直接前掛けを付けている状態だった。
「ああ、気にすんなよ。鍛冶場は暑いからさ。みんな似たような格好しているぜ」
男まさりのタハミーネはカラカラと笑うが、周りの鍛冶師たちは顔を赤らめてチラチラと見ていた。
「いいとこの貴族のお嬢様が、はしたないぞ」
「放っておいてくれ。デイジー家は鍛冶や工房を多く抱える貴族家だから、いずれ当主になるあたしも鍛冶修行しないといけないんだよ。そんなことより」
タハミーネは炉から鉄の棒を取り出すと、真剣な顔をして槌でたたく。棒は瞬く間に剣のような姿になった。
「よし。こんなもんでいいかな。リカル、これにお前の『闇氷』をかけてくれ」
「なんで?」
訳のわからないといった顔をするリカルに、タハミーネは説明した。
「いいか?鉄って奥深いんだよ。熱し方、温度、冷やし方によって強度が変わるんだ。今あたしが研究しているのは、高温で熱した鉄を急に冷やしたらどうなるかだ」
目をキラキラさせて、リカルに迫る。
「わかったよ。『闇氷』」
リカルの手から冷気が発せられ、鉄の棒を覆う。あっという間に冷えて固まった。
「さすがだな。どれどれ、どんな風になったんだろう?」
コンコンと叩いて強度を確認する。他の方法で作った鉄より、はるかに硬く固まっていた。
「やった!いい剣ができそうだぜ!」
喜んだタハミーネは、カンカンと槌で叩いて形を整えていく。あまりにも勢い良く叩くので、見ていたリカルは不安になってしまった。「お、おい。大丈夫か?そんなに叩いたら……」
「大丈夫だって。あっ!」
調子にのったタハミーネが力を込めて剣を叩くと、いきなり木っ端微塵に砕け散ってしまった。
「……どうやら、硬いだけで脆かったみたいだな」
リカルが残念そうに言うと、タハミーネはふくれっ面になった。
「ま、まだだ、もう一回チャレンジするぞ」
バラバラになった欠片を集めて、再び炉に入れる。
「『火炎』」
タハミーネが火の魔力を込めると、バラバラになっていた塊は溶けて再び鉄の棒になった。
「今度は慎重に、ゆっくり冷ます感じで氷魔法をつかってくれ」
「はいはい。魔力の調整がむずかしいな」
リカルは言われたように、ゆっくりと時間をかけて鉄を冷ます。すると先ほどと同様に硬い鉄の棒ができた。
「よし。もう一回試してみよう」
槌でカンカンと叩いて試してみるが、今度は硬さに加えて粘り気
もあるようで簡単には崩れなかった。
「やったぜ。これで強い剣を作れる。これを伝説の英雄『サクヤ』が使っていた武器にちなんで、『刀』と名付けよう」
タハミーネは躍り上がって喜ぶ。
「お嬢様、よかったですね!」
「これで新しい武器がつくれますぜ」
周りの鍛冶師はデイジー家の家臣らしく、タハミーネの実験が成功したことを喜んでいた。
「坊ちゃんもありがとうございます」
筋肉質の男たちから握手を求められて、リカルはちょっと萎縮してしまう。
「い、いえ、別に大したことはしてませんから」
照れたリカルが頭をかいた時、倉庫のドアが開いて小柄な少年が入ってきた。
「ここが学園内で鍛冶をしているって場所?なんだか蒸し暑くて汗臭いね」
そんなことを言いながら、タハミーネたちをじろじろ見ているのは、大宰相の息子、ユリシーズ・カーネーション。
「あんたか。いったい何の用だ?」
タハミーネは彼をみるなり、嫌そうに顔をしかめていた。
「ぼくだってこんな所に来たくなかったさ。だけど学園の出入りの商人だとぼくの体格に合った剣を取り扱ってないっていうから、わざわざ足を運んだんだ」
ユリシーズはそういうと、金貨の入った袋を床にポィッと投げ捨てる。
「ほら、貴族のくせに鍛冶なんかしているデイジー家は、金さえ出せば何でも作ってくれるんだろ。ぼくにふさわしいかっこいい大剣を打てよ」
あどけない顔をして無礼なことを言うユリシーズに、デイジー家の家臣たちはムッとした。
「なんだと!この法衣貴族のひよっこめ!」
そう怒る家臣たちを抑えて、タハミーネが告げる。
「あんたはチビで力がないから、大剣は向かないよ。細いレイピアか、いっそ短剣にしたらどうだい?」
そう言われたユリシーズは、不満そうに頬を膨らませた。




