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クルーダ・ハイドランジア大神官令息

「あ、あの……光魔法を学びに来たのですが、よくわからなくて。ここに参考書があると聞いたのですが、お邪魔でしたか?」

そうおずおずと聞いてきたのは、セーラだった。

清楚な美少女に問いかけられて、クルーダは相好を崩す。

「大丈夫ですよ。ええと……たしか光の魔術の参考書はこのあたりに……ありました!」

そういって自信満々に一冊の本を棚から取り出した。本からはかすかに魔力がにじみ出ている。

「ち、ちょっと待ってくれ。その本は何か怪しいぞ」

それを見たコロンは、血相を変えて止めようとした。

「何を馬鹿なことを。それではセーラさん。神官の私が丁寧におしえてあげましょう」

そう言ってクルーダが本を開けた瞬間、何かが本の中から現れる。それは真っ黒い色をした、偏平で細長い涙滴状の体に複数の触手をもった、大変気味が悪い妖蟲だった。

「ひ、ひえええ!」

いきなり現れた妖蟲に、クルーダは腰を抜かしてしまう。

「な、なんだあれ?気味悪いな」

「ちょっと待ってくれ。どれどれ……なるほど。あれは『ペーパーフィッシュ』。魔術書に潜んで人間を襲う蟲だね」

コロンが冷静に妖蟲図鑑で調べている間にも、クルーダは妖蟲に迫られて逃げ回っている。

「く、来るなぁ!『土壁』」

必死に杖をふるって土でできた壁を作るも、あっさり突破されてしまった。

「た、助けてぇ!」

恥も外聞もなく泣き叫んでいるクルーダに、セーラが近づいていった。

「邪悪なる妖蟲よ。去りなさい!「ホーリーフラッシュ!」」

セーラの体から清らかな光が発せられる。その光を浴びたペーパーフィッシュは、あわてて逃げ出していった。

「大丈夫ですか?クルーダ様」

「セーラさん……助かりました」

そういってクルーダは、差し出されたセーラの手を握り返す。

(ふふふ……うまくいったわ。あの妖蟲は光魔法に弱いというゲームの設定通り。これで大神官の息子とのイベントはクリアね)

クルーダに手を握られながら、セーラは腹の中で笑うのだった。

一方、コロンとリカルは逃げ出したペーパーフィッシュを追いかけている。

「こら!待て!」

「リカル君、そっちにいったよ!!」

二人で協力して、部屋の隅に追い詰める。

「えいっ!『瞬撃蟲』」

リカルが放ったパンチにより、ペーパーフィッシュはビリビリに破れていった。

「やったね。リカル君」

「ああ。何とかな。わが手によって倒された妖蟲よ……」

そこまで言った時、コロンが割り込んできた。

「我が僕になり、我が身を守れ!」

「あっ!」

ペーパーフィッシュの体から光の玉が発せられ、コロンの体に吸い込まれていく。

「いたたっ!」

コロンは左腕を押さえて蹲る。そこには「紙魚蟲」の文字が刻まれていた。

「お、おい。何するんだよ。倒したのは俺なのに」

「まあまあ、いいじゃないか。えっと、『紙魚蟲』の能力は、相手の魔法を吸収して紙に封印することみたいだね。気に入ったよ。これで僕も晴れて妖蟲使いの仲間入りだ」

妖蟲を横取りしたコロンは、ひたすら喜んでいる。そんな彼女に、クルーダが噛み付いてきた。

「あ、あなたという人は!仮にも婚約者である私が襲われそうになっているのに、なせ助けようとしなかったのですか!」

「何言っているんだい。僕はちゃんと待てっていったよ。忠告を無視したのは君じゃないか。リカル君。早速新しく手に入れた妖蟲の力を試してみようよ。これを使えば、魔法を封じ込めた巻物なんかもつくれるかも」

コロンはそういって、リカルの手を引いて去っていった。

「くそ……あの異端者め……」

残されたクルーダは憎悪の目で見送っていたが、その目が柔らかい手によって塞がれる。

「セーラさん?」

「クルーダ様。清らかなるあなた様が、そんな目をしてはいけませんわ。あなたは大神官になる身です。どのような下賎な者たちにも、慈悲を与えねば」

「……はい。そうですね」

そう諭されて、クルーダは反省する。

(セーラさん。いいやセーラさま。あなたこそが聖女だ)

クルーダはすっかりセーラに心酔してしまうのだった。


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