光魔法
「ま、まああいつら以外はたいしたことないし」
「全体的に見れば法衣貴族のほうが上だしな」
そんな声が上がる中、最後の在地貴族が呼ばれる。
「次。セーラ・ローゼフォン」
呼ばれたセーラは、法衣貴族たちの前でぺコリと一礼した。
「皆様。お久しぶりです。セーラです」
それを見て、法衣貴族たちは懐かしそうな顔をした。
「セーラ。いきなり幼年学校からいなくなって、みんな心配していたんだぞ」
「セーラちゃん。なんでローゼフォン家なの。あなたはモートン騎士家の娘でしょ?」
そう聞かれたセーラは、悲しそうな顔をした。
「実は、私と母は王が発布した『法地婚姻法』のせいで、無理やりローゼフォン家に降嫁させられてしまったんです。しくしく」
セーラはわざとらしく泣き真似をする。
「ひどい!それじゃまるで誘拐か人質じゃないか。無理やり結婚させられて、田舎に連れていかれるなんて」
可憐な少女が泣いているのを見て、王子と法衣貴族たちは義憤に駆られた。
「いえ……これも運命なのでしょう。私は新しい家族となったローゼフォン家の方々をお恨みしておりません」
セーラは健気に涙をぬぐう。法衣貴族たちの同情心たちはますます高まった。
「こほん……もういいかね。では、魔法を放ちたまえ」
「はい。『光明』」
セーラの体から美しい光が発せられ、クリスタルを照らす。
「なんてきれいなんだ……」
「まるで、勇者に付き従った伝説の戦乙女『雷姫』みたい……」
見ていた法衣貴族たちは、その神秘的な光景に涙を流して感動した。
見守っていた教師たちは、的である耐魔クリスタルを確認して冷静に評価を下す。
「ふむ。確かに珍しい光魔法だ。だが、周囲を照らすだけの初級魔法だな。残念だが、君はBクラスに編入ということで……」
それを聞いて、セーラは内心で大いにあせった。
(そんな!光魔法を見せたら、無条件で王子たちが入るAクラスに編入されると思ったのに。このままじゃ逆ハーレムが!)
そう思っていると、思わぬ所から助け舟が入った。
「いや、待て。彼女は希少な光属性の魔法使いだ。すぐに魔法の腕も上達するだろう。特例として、Aクラスに編入させろ」
王子が進み出て、教師たちに居丈高に命令した。
「し、しかし、魔法学園は実力主義でして……」
「彼女は無理やり在地貴族の所にいかされた被害者だ。この上、学園でも僕たちから引き裂くつもりか?」
「そうだ!彼女は僕たち法衣貴族の仲間だ!在地貴族ばかりのBクラスなんかにふさわしくない」
法衣貴族たちからも、王子に同調する声が上がった。
「王子……ありがとうございます」
セーラは目に涙を浮かべて、王子にすがりつく。王子は真っ赤な顔をしながらも、優しく抱きしめた。
「……仕方ありませんね。では、特待生としてセーラ・ローゼフォンのAクラス編入を認めます」
教師の声を聞きながら、セーラは心の中で冷や汗を書いていた。
(ふう……なんとか元のシナリオに戻せたみたいね。『フラワードリーム』では主人公は特待生だったし。それにしても、どうして気を抜いたらすぐにルートを外れそうになるのかしら)
ゲーム世界と違って思い通りにならない現実に、セーラは不安を感じていた。
「しかし、法衣貴族の在地貴族への敵意って半端じゃないな」
Aクラスで数日過ごして、リカルはそう思う。なんとか友達を作ろうとしても、相手にされなかった。
それはリカルだけではない。シャルロットを始めとする四武貴族の令嬢も同様に無視されていた。もっとも彼女たちはあまり気にしてないようで、自分たちの傘下の在地貴族の子女と一緒にいるか、四人で行動していた。
そうなると、男子の中で唯一の在地貴族であるリカルはますます浮いてしまうようになる。
そんな彼をかわいそうに思ったのか、四武貴族の令嬢たちは盛んにリカルに声をかけていた。
「リカル、暇しているなら本の整理を手伝っておくれ」
コロンにそう言われて、教会の横に併設されている魔術図書館に連れて行かれた。
そこでは何万冊もの本がうず高く積まれている。
「すごいな。魔法ってこんなにあるんだ」
「まあ、ほとんどは迷信やエセ魔術本ばかりだけどね。でも中には未だ知られてない魔法体系があるかもしれない」
そう言いながら、埃まみれの本を一冊ずつ検証していく。リカルも手伝っていると、ふいにドアが開けられ一人の神官が入ってきた。
「あなた達は何をやっているのですか!?」
厳しい声を掛けてきたのは、大神官の息子であるクルーダ・ハイドランジアだった。
「何って、魔術の研究だよ。邪魔しないでくれたまえ」
コロンばクルーダを一瞥すると、再び本に視線を落とした。
「貴方はまたそんなことをしてるのですか。いいですか?魔術の中には神に逆らう異端も含まれるのです。素人の貴方が手を出すには危険すぎます。そういうのは神官に任せておけばいい」
クルーダはそう諌めるも、コロンは聞く耳をもたなかった。
「何が異端で何が正道かを決めるのは誰?神官たちは勝手に自分たちで決め付けているけど、魔術は使い方次第。たとえば、君たちが忌み嫌っている闇属性の魔法だけど……」
コロンはリカルをチラッと見ながら告げる。
「闇属性の魔法の中には、氷を生み出す魔法がある。リカルはそれを応用して、領内の食べ物を長持ちさせている。そのおかげでローゼフォン領の人たちは助かっている。役にも立たない説教をを繰り返すだけの教会より、遥かにね」
「役にもたたないですと!」
教会をこき下ろされて、クルーダの額に血管が浮かぶが、コロンはそれを無視して本を漁りつづけた。
「あ、古代の魔術本をみつけた。ねえねえリカル。君の体で実験してもいいかい?」
「やだよそんなの」
リカルは拒否するが、コロンは子犬のように纏わりついてきた。
「ちょっとだけだから、お願い!」
そんな様子を見たクルーダは、軽蔑の視線を向ける。
「やれやれ、仮にも婚約者である私の目の前で男といちゃつくとは、やはり在地貴族は下品ですね」
「そんなの、王様に押し付けられた政略結婚だろう?僕たちには関係ないね。いずれ家を出て、冒険者になるんだから」
コロンはそういって、そっぽを向いた。
「なんですって!こっちからお断り……」
クルーダが怒鳴りつけようとしたとき、図書室のドアが開いて金髪の美少女が入ってきた。




