クラス分け
「……何なのじゃ?」
「さあ?あいつちょっとおかしいんだよ。時々変なことを言うしさ」
リカルたちが首をかしげていると、豪華な馬車が何台も入ってくる。馬車はリカルたちの前に来ると停止し、中から少年が降りてきた。
「ふん。ここが魔法学園か。なんで王子である俺がこんな所で学ばないといけないんだか。面倒くさい」
そういって唾を吐くのは、金髪の貴公子-エルディン王子。
続いて他の馬車からも取り巻きであるユリシーズ、クルーダ、ガイウスが降りてきた。
彼らはリカルと令嬢たちを見るなり、しかめっ面をする。
「なんですか?もう男を引っ掛けたのですか。下品な在地貴族らしくお盛んですね」
大神官の息子クルーダがいやらしく笑うと、何事かと見物していた周囲の生徒たちがどっと笑った。
「まったく、こんな奴らが俺たちの婚約者なんて、父上は何を考えているんだかな」
エルディン王子はそう吐き捨てる。
「婚約者?」
「いつの間にかそういう事になってしまったのじゃ。ワラワたちは嫌じゃと父上に訴えたのじゃがな」
シャルロットがそういうと、他の三人もウンウンと頷いた。
「あたしの相手って、あの坊やだぜ?最悪だよ」
タハミーネは嫌そうにユリシーズを指差す。
「なんで僕があの嫌味なクルーダなんかに……家出しようかな」
コロンはそういって俯く。
「私の相手が乱暴者のガイウスさんなんて、あんまりです。こうなったら、家庭内暴力を訴えて慰謝料をもらって別れられるように仕向けましょう」
マリーナはそういって、ちょっと黒い笑みを浮かべた。
令嬢たちに嫌われて、少年たちは顔を真っ赤にして怒った。
「ふざけんな。こっちこそお断りだ!」
大将軍の息子、ガイウスは拳を振りかざして怒鳴る。
「いい気にならないでよね。この魔法学園に通っている生徒は、圧倒的に僕たち法衣貴族が多いんだ。君たちはアウェイで三年間も過ごすことになるんだぞ」
大宰相の息子ユリシーズは、幼い顔を真っ赤にして脅しつけた。
「ふん。元より覚悟の上じゃ。リカル、行くぞ」
シャルロットはリカルのネクタイをつかんで、堂々と学園の中に入っていく。
その様子を、セーラは物陰からじっと見つめていた。
(ありえない……『フラワードリーム』じゃ悪役令嬢たちは婚約者にベタ惚れで、私に嫉妬していじめをするといった設定だったはず。このままだと物語が進まないかも。何とかしないと)
セーラはこれからの学園生活を通じて、どうやってリカルを除く攻略対象を落としていくかを考えるのだつた。
入学式が終わり、クラス分けのための選抜試験が始まる。魔法学園は貴族で魔力を持っていれば誰でも入れるが、入学後は実力次第だった。
「では、幼年学校で魔法を学んだ者から試験をする。魔法を耐魔クリスタルに当てなさい」
教師にそういわれて、法衣貴族たちが魔法を振るう。幼年学校である程度学んできただけあって、それなりの威力だった。
「ふむ……やはり魔法に関しては法衣貴族のほうが優れているな。全員Aクラスに編入だ」
そういわれて、王子をはじめとする法衣貴族たちは当然だという顔をした。
「では、次は在地貴族だ」
教師たちに言われて、地方から来た生徒たちが杖を振るう。
「火矢!」
「風刃!」
彼らは渾身の魔力をこめて炎の矢や風の刃を生み出す。しかし、クリスタルの的に当たっても簡単に跳ね返されていた。
「その程度なのか……やはり在地貴族はBクラス行きだな」
それを見ていた法衣貴族の生徒たちが笑う。
「あはは、それでも貴族かよ」
「初級魔法しか使えないのかよ。あいつら田舎で芋掘ってばかりで、まともに勉強してなかったんじゃるねえの?」
馬鹿にされて、在地貴族たちは真っ赤になるが何も言い返せない。幼年学校で魔法の授業を受けていた法衣貴族とちがい、地方に住んでいた彼らの魔法技術が遅れているのは仕方がないことだった。
「静かに。えっと……次はリカル・ローゼフォン」
教師に呼ばれてリカルが一歩前に進みでると、法衣貴族たちからの視線が突き刺さった。
「あいつが陛下から、王宮騎士を打診されているというやつか」
「田舎者の癖にでしゃばりやがって。どうせ何かの間違いで、しょぼい魔法しか使えないんじゃないか?」
そんなささやきが聞こえてきて、リカルは奮い立った。
「馬鹿にしやがって。よし。なら一丁かましてやるか!。『瞬撃』むぐっ!」
蟲式術を使おうとすると、後ろからコロンに口を塞がれた。
「んー?」
「だめだよ。君の使う蟲式術はまだ正式な魔術として認められてないんだ。こんな所で妖蟲の力を晒したら、化け物として解剖されちゃうかもしれないよ」
耳元でささやかれて、リカルは考え直す。
「仕方ないか。なら『闇氷結』」
闇属性の氷魔法を使う。クリスタルはカチカチに凍りついた。
「ほう。さすが王に目をかけられるだけあるな。君はAクラスだ」
教師はそれを見て褒めるが、法衣貴族たちは面白くなさそうな顔をしていた。
「地方の田舎者の分際で、中級魔法を使えるのか。生意気だな」
その時、法衣貴族の中から金髪の少年が進み出た。
「なんだそんなもの!僕の力をみせてやる!」
「エルディン王子、あなたはもう終了していますぞ。今は在地貴族の番で……」
教師が止めるが、リカルに対抗意識を燃やした王子は聞く耳をもたない。
「風斬剣」
エルディンが風を纏わせた剣を振ると、クリスタルはあっさり砕け散った。
「どうだ。これが勇者の血を引く僕の力だ!」
エルディンが胸を張ると、周囲の法衣貴族から拍手が沸き起こった。
「さすが王子!。在地貴族の田舎者なんて相手にもなりませんね」
「素敵!かっこいい!」
褒め称えられ、いい気分になった王子はリカルを挑発する。
「ふっ。いずれ王になる僕より弱い奴なんて必要ないぜ。リカルとやら、王宮騎士なんて身の程しらずな夢はあきらめるんたな
「……はいはい。別になりたいわけじゃないですしね」
リカルはその挑発を肩をすくめて受け流した。
「リカル、よく蟲式術を使わず自重したのう。褒めてとらすぞ」
それを見て、シャルロットがよしよしとリカルの頭を撫でる。
「子ども扱いするなよ。それより次はお前たちの番だけど……」
「わかっておる。在地貴族の力、みせつけてやるわ!『地鉄槍』」
シャルロットは自信満々に新しく用意された耐魔クリスタルに杖をふる。地面から鉄の棘がとびでて、クリスタルを貫いた。
「まさか!あいつも中級魔法が使えるのか?」
見ていた法衣貴族の間から驚きの声が湧き上がる。
『炎射矢』
『風斬刃』
『水星球』
続くタハミーネ、コロン、マリーナも、耐魔クリスタルを打ち砕いた。
「見事。さすが四武貴族だ。これなら妖蟲とも充分戦えるだろう。君たちはAクラスだ」
褒める教師たちと対照的に、法衣貴族たちは言葉を失っていた。




