徴税
「ここがローゼフォン領かぁ。なんかわくわくするな」
真っ先に降りてきたショートカットの少女は、明るく笑ってものめずらしそうに周りを見渡していた。
「……のどかな所。想像と違う。暗黒大陸に最も近い場所と聞いていたから、もっと荒れて妖蟲がいるとこだとおもっていた」
次に降りてきたのは、黒いゴスロリ服を着て本を持った美少女だった。
「コホッ。温泉があると聞いていたので、楽しみですわ。みんなで入りましょう」
続いて降りてきたのは、長いストレートの髪をした清楚な美少女。
「……フンッ。貧乏臭い所じゃ。お父様たちもどうして私たちをこんなところに送り込んだのだろうか」
最後に降りてきたのは、不満そうに頬を膨らませたツインテール美少女だった。
クロードは最後に降りていた少女の前に立つと、慇懃に一礼した。
「シャルロット様、申し訳ありません。ですが、隣国との戦が激しくなってきました。万が一にもお嬢様たちが害されることがないようにと、公爵様のご命令です」
「お父様の命令なら仕方ない。長旅で疲れた。すぐに部屋の用意をするがよい」
ツインテール美少女が命令を下すと、クロードは呆然としているケイオスとリカルを怒鳴りつけた。
「何をしておる!お嬢様たちがご所望だ。10分以内に荷物をまとめて屋敷を引き払うがいい!」
こうしてローゼフォン男爵領はのっとられてしまうのだった。
「父上、どうして俺たちが館を追い出されないといけないんですか!」
領内の漁村にある、みすぼらしい家の中でリカルはケイオスに食ってかかっていた。
「仕方あるまい。キャメリア公爵家は王都南部に大領をもつ大貴族だ。他のご令嬢たちもみな有力貴族を父に持つ方々だ。下手に逆らうと我が家はつぶされてしまう」
ケイオスはため息をつきながら、貴族の間の力関係を説明していった。
「我が家は一応独立貴族だが、衣類そのほかの日用品の流通をすべて王都から来る行商人に握られておる。かれらは大貴族の領地を通ってここにきているのだ。もし大貴族の機嫌を損ねて、行商人がこなくなったら……」
その話を聞いているうちに、リカルの顔に悔しさが浮かぶ。彼はすべてを理解できたわけではなかったが、自分たちが無力な存在なのだということはわかった。
「父上、悔しいです」
「我慢しろ。隣国との戦争もそう長くは続かぬ。戦争が終われば、ご令嬢たちはこんな辺鄙な土地に居座ることなく、王都や領地に帰っていくだろう。そうなれば我々も館に帰れる」
そこまで言ったところで、ケイオスはふと思いつく。
「そうだ。この機会にご令嬢たちと友人になってみればどうだ?15歳になればお前も魔法学園に通うわけだし、今のうちに仲良くなっておけば……」
「そんなの、お断りです!誰があんなやつらと」
リカルは思い切りしかめっ面をするが、やがて彼女たちとの交流を深めていくことになるのだった。
それからしばらくした後
村の小麦庫の前で、騎士クロードとローゼフォン男爵家の当主ケイオスが言い争っていた。
「ここにいる間の滞在費を、税として民から徴収するですと?」
「そうだ。光栄に思うがいい。貴様たち田舎の野蛮人たちが、お嬢様たちの役にたつのだからな」
クロードが薄笑いを浮かべて言い放つも、ケイオスは首を振る。
「何か誤解されているようですが、もともとこの地では物々交換が基本で、貨幣が浸透しておりません。民から金銭を徴税しようとしても、もともと無い物はとれないでしょう」
「な、なんだと?そんな嘘をついても無駄だぞ」
クロードは兵士たちを率いて村人たちを脅して回るが、どんなに家に押し入って探しても金銭は見つからなかった。
「金を出せって?」
「あはは。馬鹿なことをいってやがるぜ。そもそもこの領には店もねえんだ。使う場所もねえのに金なんか持っている奴がいるわけねえだろうか」
漁師たちに笑われた兵士たちは、血眼になって村内を探し回る。
すると、村の食料をためている倉庫をみつけた。
「ぐぬぬ……金が無いなら仕方あるまい。ここにある小麦と果物を供出せよ」
クロードが乱暴に食料庫の扉をこじあけようとするが、ケイオスは必死に止める。
「ここは村の共有の食料庫です。たたでさえこの土地は魚以外の食料が取れず、小麦や果物は王都からやってきた行商人からやっとの思いで手に入れた貴重品なのです。それを無理やり供出せよというのは、あまりに横暴です」
ケイオスが訴えると、クロードは苦々しい顔で言い放つ。
「……王都への道は、暗黒大陸ノワールから渡ってきた妖蟲ボールアーマーによってふさがれてしまった。行商人は当分この領にはこれない。お嬢様たちに生臭い魚を召し上がっていただくわけにはいかん。どけっ!」
そういうと、クロードはドンっとケイオスを突き飛ばす。倒れたケイオスに対して、周りの兵士たちは剣を突きつけた。
「父上!大丈夫ですか!?」
あわてて助けおこすリカルをクロードは嘲笑する。
「そこの坊主、情けない親父を連れて、さっさと行くがいい。これ以上逆らうと、皆殺しにしてやるぞ!」
暴力をちらつかせて脅しをかける。ケイオスとリカルは悔しさを堪えながら退散していった。




