法地婚姻法
王都
三権貴族は、ミザリーから来た手紙を読んで舌打ちしていた。
「ローゼフォン領の支配に失敗したらしいな」
「せっかく我々が協力してやったのに」
「……所詮は世間知らずの女と小娘か。四武貴族を味方につけているあの小僧にいいようにしてやられてしまった」
彼らは陸の行商を通じて在地貴族たちに影響力をもたらしている。それが通用しなくなったら、手のうちようがなかった。
「仕方がない。あの小僧のことはいったん置いておいて、問題は辺境の貴族にまで影響力を伸ばしつつある四武貴族だ」
大宰相が渋い顔をする。
「彼らは次第に王家にまで干渉しつつある。王も融和政策に傾いていて、これから在地貴族の登用も考えているようだし、このままでは我ら法衣貴族の将来は暗い」
大将軍が警戒する。
「……では、やはり、あれをするしかありませんな。我らにとっても不本意ですが」
大神官はため息をつく。
「ああ。『法地婚姻法』を王に奏上しよう」
彼らは自分たちが権力を握り続けるために動き始めるのだった。
三権貴族がそろって王に謁見を申し込む。その場で提案された内容は、国の貴族制度を大きく変革するものだった。
「陛下、最近在地貴族たちの間では独立傾向が強まり、国の命令になかなか従おうとしない風潮が広まっていることをご存知ですか?」
「知っておる。余もそれで心を痛めておる」
王は渋い顔をする。この度のフリティラリア国との戦争でも、四武貴族とその配下の在地貴族はなかなか参戦しようとしなかった。
王家と法衣貴族だけで戦ったせいで、戦争が長期間に渡ったのである。
「それともう一つ。異世界から来た勇者とその仲間が妖蟲王パグスを倒して四百年。彼らが持ち込んだ『魔術』のおかげで我々は妖蟲に対抗できているのですが、問題なのは我ら貴族の血がどんどん薄まり、魔力が衰えているのです」
三権貴族たちが言ったことは、長年頭の痛い問題として王国を悩ませていた。
そもそも、本来は「魔力」が強いものだけが貴族として認められていたわけで、その強さは遺伝に影響される。
比較的王都とその周辺にまとまり血統管理がしやすい法衣貴族と異なり、地方にいる在地貴族は地元の魔力をもたない平民とも平気で交わり、結果として貴族全体で見れば魔力が衰えていっているのである。
「これ以上、この二つの問題を放置しておけば、やがてグラジオラス王国は瓦解するかもしれません」
「……では、どうすればよい?」
王からそう問われて、三権貴族たちは自信満々に答えた。
「在地貴族たちを王国へ繋ぎ止め、同時に血の薄まりをさけるため、彼らの婚姻を制限しましょう」
こうして『在地婚姻法』が制定されるのだった。
一ヵ月後
四武貴族をはじめとする有力在地貴族が呼び出された。
「四武貴族並びに在地貴族の諸君よ。ワシはこの国の現状を憂慮しておる。そなたたちと法衣貴族たちとの間に、諍いがあるのではないかとな」
王からそういわれた在地貴族たちは、即座に否定した。
「そのようなことはございません。我々は常に法衣貴族たちと融和
を計っております」
在地貴族たちを代表してキャメリア公爵が発言すると、王はニヤリと笑った。
「その言やよし。では、さらに両貴族の間に深く絆を結び、貴族の血の薄まりを防止する提案が法衣貴族から提出された。在地貴族の皆はそれを受けいれてもらいたい」
「王よ。それは?」
公爵が不安そうに聞き返すと、王は爆弾発言をした。
「では、本日より『法地婚姻法』を発布する」
在地貴族それぞれに書類が渡される。それは在地貴族の平民との婚姻を禁止し、法衣貴族と在地貴族の婚姻を促進させるといったものだった。
「お、王よこれは?」
「法衣貴族の息子と在地貴族の娘を婚姻させれば、両者は親類になる。より一層の協力関係を築けるじゃろう。キャメリア公爵。そなたの娘シャルロットには、わが息子エルディンを番わせる」
一方的に決められ、在地貴族たちは顔色を失う。その一方、法衣貴族たちはしてやったりという顔をしていた。
「お、王よ。我ら在地貴族の婚姻には、しきたりというものがありまして……できるだけ娘に跡を継がせ、優秀な婿をとるべしとなっておるのです」
それは家の力を落とさないためのしきたりとして、長く在地貴族の間に伝わっていた。家の財産は娘に継がせて相続による分散を防ぐ。そして婿には家柄・身分にこだわらず優秀な者を迎え入れて、家を発展させるというものである。
対照的に法衣貴族は男子継承が基本である。それは受け継ぐべきものが王国内の貴族の地位だけなので、元々領地や家臣などのしがらみが少ないからであった。
「その、法衣貴族の子息たちは、我が家に婿に来るということでしょうか?」
その質問には、大宰相がもったいぶって答えた。
「いや。彼らには家臣として王国に勤めてもらわなければならぬ。在地貴族の息女たちは、妻として王都に滞在してもらうことになるだろう」
それでは妻とは名ばかりで、ていのいい人質である。
何か言おうとするキャメリア公爵を抑えて、王が口を開いた。
「これは、わが国の貴族の血を守り、結束を固めるためのやむを得ないことじゃ。最初は色々と問題が出るじゃろうが、次の世代にはわが国は完全に貴族としての権威を取り戻し、一枚岩になっておるじゃろう。異論は認めぬ。政略結婚は貴族の義務じゃ。そなたたちの令嬢にもよく言い聞かせておくように」
そこまで言われては、在地貴族たちも従うしかない。
「ご命令、承りました」
しぶしぶ押し付けられた政略結婚を受け入れるのだった。




