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再婚

「お世話になりました」

キャメリア公爵家の門の前で、土産に買った大荷物を抱えたリカルが頭をさげている。

そこには令嬢たちもいて、名残惜しそうにリカルを見つめていた。

「いつかきっと、一緒に冒険の旅にでよう」

「お前といると楽しかったぜ。元気でな」

「またいつか、湯治に行かせてもらいますわ」

「ワラワたちも、幼年学校に通うために王都を一時はなれる。次に会うのは魔法学園かもしれぬが、それまで達者でな」

コロン、タハミーネ、マリーナ、そしてシャロルットが別れの挨拶を告げる。そこには親愛がこもっていた。

そんな様子を見て、彼女たちの父親たちはニヤニヤしている。

(いつかきつと、リカル君は娘の助けになってくれる)

父親たちはそう確信していた。

「こほん。フリティラリア酋長国からは停戦の使者が来た。これで戦争も終わるだろうし、そうなったら我々も王都に滞在するだろう。何か困ったことがあれば、遠慮なく頼ってくるがいい。君の後ろには、我ら四武貴族が控えている」

「ありがとうございます。そのときはお願いします」

リカルは素直に頭を下げる。

そして馬車の用意を断り、ある妖蟲を呼び出した。

「転々蟲招来!」

平べったいナメクジのような幻影が現れ、その背中に渦巻き状の空間が浮かぶ。

「リカル、元気でな。次にあった時は、ワラワたちもお主に負けぬように魔法の腕を磨いておくからのう」

シャルロットはそういって、リカルと握手する。

「ああ。俺も自分なりに修行するよ。それでは、さようなら」

リカルはその空間の渦に飛び込み、ローゼフォン領へと転移していった。


半年後

11才になったリカルは、相変わらず漁師になるための修行を続けていた。

(王様は王宮騎士になれっていってたけど、魔法学園卒業後ってまだ七年も後のことだし、そのうちウヤムヤになるだろう)

リカルはこののんびりとしたローゼフォン領が気に入っていて、できれば一生ここにいたいと思っていた。

一応、令嬢たちの別れ際の約束どおり勉強と修行に打ち込んでいるが、将来役にたつとはあまり思ってない。

しかし、そんなリカルの平穏を壊す知らせが王都からもたらされる。

「私に縁談……ですか?三権貴族ご推薦の?」

使者から手紙を受け取ったケイオスは、ひどく困惑していた。

「えっと……私はリカルが生まれた時に妻を亡くしておりまして、それから父子二人で生きてきました。今更再婚せよとおっしゃられても、このような田舎者のコブ付中年、お相手の方にもお辛いでしょう」

そういってやんわりと断ろうとするが、使者は首を振った。

「昨年。フリティラリア国との戦いで、勇敢な騎士たちが大勢死んだ。彼らには名誉がもたらされたが、その家族には安定と新しい居場所を与えねばならぬ。なればこそ、わが王は決断された。国内の妙齢の独身貴族男性は、未亡人を妻に娶るべしとな」

この政策は三権貴族が王に迫ったせいである。女性を大切にすべしという風潮が強いグラジオラス王国では、大勢の未亡人が放置されているという状況を見過ごせなかったのだ。

もっとも、それを大義名分にして多くの在地貴族の元に法衣貴族の息がかかった女性を送り込むという裏の目的もあったが。

「わかりました。受け入れましょう」

「うむ。そなたに降嫁される女性は、ミザリー夫人。王家直属の騎士の妻であった。貞淑でつつましい女性で、その娘も美しいと聞く。きっとよい家族になれるだろう」

使者はそういって王都に戻って行った。

「父上、どうなされるのですか?」

「王都を支配している法衣貴族の方々には逆らえぬ。たとえどんな女性であろうが、受け入れるしかない」

ケイオスはそういってため息をついた。

「そんな!なぜ縁もゆかりもない王都の法衣貴族に従わなければならないのですか!」

「仕方ないのだ。王都の行商人はすべて法衣貴族の傘下にある。彼らの機嫌を損なえば、行商人がこなくなってしまう」

法衣貴族は領地をもたない代わりにそれぞれ王都の商業・工業に資本を投入することで収入を得ている。そして王都は国の商業の中心として、流通路のすべてをにぎっているのである。

これが法衣貴族が在地貴族の大貴族に対抗できる力をもっている理由でもあった。

「……わかりました」

しぶしぶ受け入れるリカルだったが、釈然としない思いを抱えていた。


そして一ヵ月後、王都から豪華な馬車にのった貴婦人があらわれる。リカルはケイオスと共に、正装して迎えた。

「ミザリー殿。よくぞ来られました。長旅でお疲れでしたでしょう。私はケイオス・ローゼフォン男爵。そしてこちらが息子のリカルです」

ケイオスは丁寧に挨拶したが、馬車から降りてきた貴婦人はいきなり声を荒げた。

「これはどういうことでしょう!ローゼフォン男爵家はお金もちと聞きましたが、まるで農民のような貧しい有様ではないですか!」

降りてきた貴婦人は豪華に着飾っていたが、つりあがった目をしたいかにもキツそうなおばさんだった。

いきなり暴言を吐かれて、ケイオスとリカルが固まっていると、馬車から金髪カールの美少女が降りてくる。

「まあまあ、お母様。案外こういった質素な格好をしている家ほど、お金を溜め込んでいるのかもしれません」

「仕方ありませんね……では、館に案内しなさい」

ミザリーは高圧的に命令するのだった。


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