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王都観光

「ふー。やれやれ」

謁見の間から出たリカルは大きなため息をつく。そんな彼の前に、四人の大貴族が現れた。

「大変だったな。リカル君。だが、王宮騎士のことは気にしなくてもいいぞ。君さえよければ、我がキャメリア公爵家に来るがいい。我が家は強い騎士を歓迎している。いつでも頼ってくるがいい」

そう豪快に笑うのは、シャルロットの父親であるキャメリア公爵。

「そうだ。我ら在地貴族は家柄などにこだわらん。そんなことをしていれば力を落とすだけだからな。なんなら娘の婿として…」

「デイジー侯爵。ずるいですぞ。彼は我が娘の弟子と聞きます。ぜひパンジー伯爵家にきて、魔術の研究を!」

「いやいや。彼は娘の病気を治してくれた薬師だと聞く。王国内の医療を担当する我がリリー辺境伯家にふさわしい」

四人のおっさんに迫られ、リカルは困惑してしまった。そんな父親たちを、シャルロットたちは呆れた口調でたしなめる。

「父上、それから伯父様たち。リカルが困っておりますぞ。そのように迫っては」

「そうだよ。だいたい、婿になんて早いって!」

「父上。心配せずとも彼は僕のもの。運命には逆らえないんだし」

「リカルさんがかわいそうです」

娘たちにたしなめられて、四武貴族のおっさんたちは決まり悪そうに頭をかく。

「そ、そうだな。まあ将来のことはともかく、リカル君、娘たちを助けてくれて感謝する」

キャメリア公爵が頭をさげ、リカルに重い財布を渡した。

「これは小遣いだ。みんなで王都を観光して楽しんできなさい」

「あ、ありがとうございます」

こうして、リカルは令嬢たちと共に王都に繰り出すのだった。


リカルと令嬢たちは着替えて、王都の商業区を散策する。いろいろと珍しいものにあふれていて、リカルは目を輝かせた。

「この飲み物は?」

黒いつぶつぶが入った茶色の飲み物を注文してみる。

「オタマミルクティーじゃ。食用カエルの卵を入れたお茶じゃな」

「うえっ!飲んじゃった!」

思わず息をつまらせるリカルを見て、令嬢たちは笑う。他にも色々なお菓子や食べ物があって、まるでお祭りのようだった。

「なんかすごいな。ローゼフォン領だとごちそうってせいぜい何もはいってないパンとか、生の果物なのに、ここじゃいろいろはいっている」

チーズパンや果物のタルトなど今まで食べたことのないものを食べて、リカルは大満足だった。

「まあ。あたしたちもこれだけ手の込んだ食べ物は王都に来たときしか食べられないんだけどね」

タハミーネが残念そうにつぶやく。

「なんで?」

「それは、各地の特産品がすべて王都に集まるように街道が作られているからだよ」

コロンの説明によれば、王都はちょうどグラジオラス王国の中心に位置し、そこから放射状に流通路が整備されているという。そして一度すべての領の物資が王都に集まった後、行商人を通じて各地に流通していくそうだ。

「両隣の領地ぐらいなら直接交易ができるのですけどね。本格的な交易はすべて王都を経由しないとできません」

「ふーん」

マリーナの話を聞きながら歩いていると、多くの客で賑わっている魚屋があった。

「高級魚マンサが入荷したよ。早いもの勝ちだ!」

「俺に売ってくれ!」

人々は先を争うように買っていく。

「マンサが高級魚だって?ローゼフォン領ではいくらでも取れるのに?」

「当然じゃ。この内陸に位置する王都まで魚を新鮮なまま運ぶのに、手間がかかるからのう」

シャルロットが残念そうにつぶやいた。

「あれ?でもお前、魚なんて下賎な食べ物だと馬鹿にしてなかったっけ?」

リカルがそう突っ込むと、シャルロットは決まり悪そうな顔をした。

「うむ。ワラワもローゼフォン領で初めて魚を食べて、なぜこのような美味い物が庶民の食べ物とされているのか疑問に思って父上に聞いてみたのじゃ。そうしたら……」

「そうしたら?」

「なんと、父上の嘘じゃった。子供のうちから贅沢を覚えては将来のためにならんとな。高価な魚ではなく、安価に手に入る肉や野菜を食べなさいとな」

「なんだよそれ」

リカルはちょっと呆れてしまう。

そんな彼らに、四人の少年が近づいてきた。


「へっ。男のくせに女と遊んでいるぜ。なっさけないやつ!」

やんちゃそうな短髪の男の子が、令嬢たちに囲まれているリカルを見てからかう。

「ガイウス。彼らは地方に住む在地貴族みたいですよ」

メガネをかけた少年が、令嬢たちに冷たい目を向けた。

「ここの王都は俺たち法衣貴族のナワバリなんだ。田舎くさい芋女たちは来ないでよ!」

小柄な可愛い顔の少年がプンスカと怒る。

「まったく、下品でいやらしいな。貴族の恥さらしだ」

傲慢な目つきでリカルと令嬢たちを見下してきたのは、金髪の美しい少年だった。

「なんだあいつら?」

リカルが不快そうに顔をしかめると、シャルロットが紹介した。

「エルディン王子とその友人たちじゃ。王子。こちらはローゼフォン男爵の子息リカル。お見知りおきを」

シャルロットは嫌そうな顔をしながらも、会釈してリカルを紹介した。

「ローゼフォン?ふっ。聞いたことないな」

王子は鼻で笑っている。

「彼はワラワたちを守るという武勲をあげ、陛下から王宮騎士の資格を与えられまして……」

「あー、どうでもいい。どうせ下っ端だろ?王子である僕が覚えるまでもない」

王子はそういって首を振った。

「しかし、下品な在地貴族たちとも仲良くしろって、父上はなんでそんな事をいうんだろうなぁ?ユリシーズ」

王子に話しかけられた小柄な少年も同調する。

「大宰相である僕の父上は反対しているんだけどね。ボクもいやだな。田舎の芋女たちは乱暴そうで日に焼けてみっともないし」

ユリシーズと呼ばれた少年は、タハミーネを見て笑った。

「コロン。また禁断の魔術にでも手を出したみたいですね。いつも言っているでしょう。汚らわしい妖蟲など関心をもつなと」

「……妖蟲の使う能力は興味深いものがある。教会になんといわれようと、僕は研究をやめる気はないよ。クルーダ坊ちゃん」

メガネの少年に説教されたコロンは、そういってプイッと顔をそむけた。

「ようマリーナ。相変わらず弱そうだな。体を鍛えてないから病気になるんだぜ」

先ほどガイウスと呼ばれた短髪の少年は、いきなり服を脱いで上半身の筋肉を見せ付けた。

「……うぇっ。気持ち悪い。見ていると吐きそうになります」

「なんだと!大将軍の父上は筋肉こそが至上と仰ったんだ!俺の筋肉を馬鹿にするのか!」

ガイウスはポーズをつけて迫ってくる。令嬢たちはそんな彼らに嫌悪の視線を向けていた。

「いこう。躾のなってない小僧たちなど相手にする価値もない」

シャルロットはそういって、リカルの袖を引く。

「そうだな。行こう」

リカルたちは王子たちを無視して、その場を去る。

「逃げるのかよ。弱虫が!」

後ろで王子たちが罵声を浴びせて笑っているのが聞こえてきた。

「まったく、なんなんだあいつらは」

リカルは不愉快そうにつぶやく。さすがに人が沢山いる王都で蟲式術を使って喧嘩するほど子供ではないが、気分が悪いことには変わりない。

「三権貴族の子息たちじゃ。ワラワたちも毎回絡まれて困っておる。法衣貴族全般にいえることじゃが、何かと我ら在地貴族を田舎者と見下すといったことをしてくるのじゃ」

シャルロットはため息をつく。

「お前も俺にそうしてたけどな」

「だ、だからそれは謝ったではないか!ワラワたちも普段から法衣貴族に馬鹿にされていたので、ついより田舎者のそなたたちを馬鹿にしてしまったのじゃ。反省しておる」

シャルロットはしゅんとなってしまったので、リカルは慌ててフォローする。

「まあ、もういいよ。それより遊ぼうぜ」

リカルたちは王子たちのことを忘れて、王都を楽しむのだった。


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