謁見
「うわぁ。ここが王都かぁ」
王都についたリカルは、馬車の中から辺りを見渡して感動する。木で作った家しかないローゼフォン領とは違い、レンガで作った立派な家が立ち並んでいた。
「これ。きょろきょろするな。そなたは仮にもワラワの騎士なのじゃ。田舎者丸出しじゃぞ」
シャルロットはそうたしなめるが、他の三人は笑ってリカルを見つめていた。
「こんなリカル君を初めてみたよ。新鮮だね」
「ふふ、ローゼフォン領じゃ釣りもできない奴って馬鹿にされたからな。リベンジできた気分だ」
「ちょっと可愛いですわ」
そんな風に和気あいあいと話しながら進んでいくと、遠くに三本の塔に囲まれた白亜の城が見えてきた。
「あの塔は、王家を守る三権貴族たちのものなのじゃ」
「三権貴族って?」
リカルの問いかけに、コロンが答えた。
「大宰相・大将軍・大神官を輩出する法衣貴族たちの長だよ」
「法衣貴族?」
再び首をかしげるリカルに、コロンはため息をついた。
「やれやれ……そこからか。僕たち四武貴族や君のような貴族は、在地貴族と呼ばれる。独立した領地を持っているので、王国の臣下というより協力者だという側面が強い。対して法衣貴族は、王国に直接仕えていて領地をもたない。国からの俸給をもらって生活していて、王国の軍と官僚と宗教を統括しているんだ」
「ふーん」
リカルは興味なさそうに生返事した。
「リカルさん。これは王国貴族として知っておかなければならないことですよ」
マリーナはそうたしなめるが、リカルは首を振った。
「どうせ一生関わることはないだろうしな。俺は田舎男爵だし」
「……いいなあ。ちょっと羨ましいぜ。あいつら法衣貴族はお高く留まっていて、苦手なんだ。あたしは侯爵家の令嬢だから、嫌でもつきあわないといけないって両親に言われているし」
タハミーネが嫌そうにつぶやく。
「まあ、今回リカルを呼んだのは陛下じゃ。奴らも陛下の前で余計なちょっかいをかけることもあるまい」
シャルロットがそういったとき、馬車が城の正門に到着する。
「四武貴族のご令嬢方、ご来訪!」
門番の声により、重そうな扉が開かれた。
控えの間
「な、なんかドキドキする」
リカルは正装に着替えて、ソファに座っていた。国王への謁見の順番待ちをしているのである。
「なんか怖くなってきたなぁ。逃げようかなぁ」
そうは思うが、扉には屈強な騎士たちが控えているので逃げられない。
そのとき、扉が開いて、色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちが入ってきた。
「どうだい?僕の美しい姿に感動したかい?」
いたずらっぽくリカルの前でターンを決めるのは、緑のドレスをまとった伯爵令嬢コロン。
「あ、あたし変じゃないかな?」
いつもお転婆なタハミーネは、真っ赤なドレスを着て恥ずかしがっていた。
「……あんまり見ないでくださいね」
そういうマリーナは、明るい水色の清楚なドレスを着ている。
「ふむ。ワラワたちの美しさに呆けてるようじゃな。リカル、しっかりせい。すぐに陛下との謁見が始まるぞ」
黄色のゴージャスなドレスに身を包んだシャルロットは、ボーッとしているリカルの背を叩いた。
「あ、ああ」
令嬢たちの美しさに圧倒されながら、リカルは謁見の間に足を進めるのだった。
謁見の間に入ったリカルたちは、騎士たちが整列する間をゆっくりと進んでいく。
中央に玉座があり、威厳のある中年男性が座っていた。
その右脇に四人の杖をもった男が控え、リカルに好意的な視線を向けてくる。
反対に、左側に控えている三人の男は、リカルを睨み付けていた。
シャルロットを先頭とする令嬢たちは玉座の前に進み出ると、恭しく跪く。その一番後ろでリカルも慌てて従った。
「面をあげるがよい」
王が重々しく告げると、シャルロットたちは体を起こす。
「シャルロット。それから他の娘たちよ。そなたたちをローゼフォン領に疎開させたのは、戦争被害を避けるため四武貴族と余が協議した結果じゃ。しかし、そのことが裏目にでてしまい、フリティラリア酋長国の刺客に襲われてしまった。すまなく思う」
「いいえ。貴重な体験をさせていただき、陛下には感謝の言葉もございません」
シャルロットは王の目を見て、しっかり答える。
王の右隣にいた男が「シャルロット。立派になって……お父さんは嬉しいぞ」と涙ぐんでいだ。
続いて、王は後ろに控えているリカルにも声をかける。
「ふむ。そちがリカル・ローゼフォンと申すものか」
「は、はい」
じっと見つめられ、リカルは身を縮めながら答える。王はそんな彼にふっと笑いかけると、口を開いた。
「まだ10歳の幼年の身ながら、令嬢たちを守って刺客を撃退するとは、まこと頼もしい。そなたに王宮騎士の資格を与えよう」
王の言葉に、並んでいた騎士や貴族たちからざわめきが巻き起こった。
「お待ちください。王宮騎士は陛下直属の近衛兵。王家に忠誠厚い我ら法衣貴族にしか許されぬ名誉ある地位ですぞ!そもそも、こんな田舎の在地貴族の小僧に!」
大宰相の帽子をかぶった男が反対する。その隣で、大将軍と大神官も頷いていた。
それを聞いて、王の右隣にいた貴族たちがニヤリと笑う。
「大宰相様のお言葉もごもっともですな。ならば、彼は我がキャメリア公爵家で引き受けるということで……」
「いや、うちで!」
「卿らずるいぞ。彼は私のものだ」
「彼は娘の護衛にふさわしい。我が家で雇わせていただきます」
王の右側に座っていた四武貴族は、リカルをスカウトし始めた。
「静まるがいい!」
収拾がつかなくなりかけたとき、王が一括して黙らせる。
「わが国はフリティラリアを始め、周囲の国から狙われておる。そのため、有能な者は在地貴族、法衣貴族の区別をつけずどんどん登用していくつもりじゃ」
王はじろりを周囲を見渡すと、言葉を続けた。
「もちろん。今すぐに騎士として城に上がれというわけではない。魔法学園を卒業してからの話じゃ。よいな」
「は、はい」
リカルは王の迫力に押されて、思わず頷く。こうして王との謁見が終わるのだった。




