救出
「リカル君!早くしないと、私たち連れ去られちゃうよ!」
肩の上に止まっている紙の鳥が騒ぐ。
「だからといって、どうすれば……」
令嬢たちは十数人の武装した兵士に囲まれているので、下手に手をだせば返り討ちにあってしまうかもしれない。
悩んだ末、リカルは奇襲をかけることにした。
「おい。何か聞こえないか?」
いきなりゴロゴロという音が響いてきたので、騎士たちはそちらに目を向ける。遠くから、鉄色をした巨大なボールが転がってきた。
「ボールアーマーだ!」
兵士たちは杯を放り出し、剣を抜く。ボールアーマーはそんな彼らに容赦なく襲い掛かってきた。
「えいっ!」
兵士たちが剣で切りつけても、ホールには歯がたたない。ボールは縦横無尽に辺りを転がり、兵士たちは大パニックに陥った。
令嬢たちの近くに来たボールがいきなり消滅して、中から10歳くらいの少年が現れる。
「今だ!」
現れた少年ーリカルは令嬢たちに駆け寄って、ナイフで縛られた縄を切った。
「リカル!」「リカル君」「リカルさん!」
タハミーネ、コロン、マリーナが抱きついてくる。
「貴様がリカルとかいう小僧か。ふんっ。余計なことをしおって!」
シャルロットは偉そうな顔をしてソッポを向いた。
「なんだその言い草は。せっかく助けにきてやったのに」
「頼んだ覚えはないわ」
二人の間で喧嘩が起こりそうになったので、あわててタハミーネが止めた。
「まあまあ、それより、兵士たちをなんとかしないと。ほら、杖だ」
台の側に放置されていた杖を拾って手渡してくる。
それを受け取り、令嬢たちは騎士たちに向き直った。
「愚かな騎士どもよ。ワラワたちは幼いとはいえ四武英雄の正当な血を引く貴族じゃ。目にものをみせてくれる!」
リカルを含めた五人が杖を構える。
後世にて「六精王」といわれる英雄たちの初陣が始まった。
「クソガキどもめ!ぶっ殺してやる!」
散々翻弄された兵士たちは、ついに理性をかなぐりすてて切りかかってきた。
「油蛙蟲招来!」
リカルはカエルを呼び出して、辺り一帯に油をまいて牽制する。油に足をとられて、全力で攻撃することができなくなった。
その隙に令嬢たちが魔法を放つ。
「風刃!」
コロンが放った風の刃は、兵士たちの足元をすくって転倒させた。
「火矢!」
タハミーネが放った小さな火の玉が油に引火して、兵士たちが炎に包まれる。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
兵士たちは魔法の力に対抗できず、次々と倒れていった。
「あちちっ!」
こっちまで火にあぶられて、リカルが悲鳴をあげる。
「あぶない!「水盾」」
あわててマリーナが水で盾を作り出し、炎を防いだ。
「く、くそっ!」
子飼いの兵士たちが倒されて、騎士クロードが鬼の表情で襲い掛かってくる。
「きゃっ!」
本物の騎士が剣を振りかざして迫ってきて、貴族令嬢たちは恐怖に立ち竦んだ。
「逃げろ!」
リカルは周囲の令嬢たちを突き飛ばし、クロードと相対した。
「貴様のせいですべて台無しだ!」
クロードは怒鳴りながら剣を振り下ろしてくる。リカルは杖で防ごうとしたが、一撃で杖を跳ね飛ばされてしまった。
「くそっ!『包甲』ぐっ!」
とっさに身を守ろうとしたが、その前にのど元をつかまれ、宙吊りにされてしまった。
『生意気なクソガキめ。このまま絞め殺してやる」
クロードは完全に本気になって、首を絞めてくる。見る見るうちに呼吸が苦しくなり、リカルの顔が真っ赤になっていった。
(くっ……こうなったら!)
リカルは締め上げているクロードの腕をつかむと、超至近距離で妖蟲を呼び出す。
「『瞬撃蟲招来』」
「ぐはっ!」
両腕に直接シャコの一撃が加えられ、クロードの両腕が叩き折られる。
「とどめだ。もう一撃!『瞬撃蟲招来』」
クロードは胸に強烈な一撃を受けて吹っ飛んでいった。
「これで敵はすべて倒したかな?」
そう思ってリカルが気を抜きかけたとき、黒いローブの女が洞窟から出てきて彼の前に立ちふさがった。
「興味深いですね。あなたの力は何なのでしょう。妖蟲の力をつかいこなしているようですが、私達の「蟲憑術」とは違うようです」
ヌメヌメした下半身を動かしながら、エルミナが近寄ってきた。
その不気味な姿に、リカルは思わず嫌悪感を感じる。
「く、来るな!ナメクジ女!」
「ナメクジ女ですって?」
エルミナの額にピキッと血管が浮かぶ。
「私たちがどれだけの覚悟を決めて、妖蟲と合体したか、貴方にわかるのですか?これもすべて愛するフリティラリアのため!」
「し、知るかよ」
恐怖に駆られて、リカルは思わず一歩下がった。
「いいでしょう。本当の妖蟲の力を見せてあげましょう。」
こうしてエルミナとの戦いが始まるのだった。




