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蟲憑術

シャルロットたち四人は、拘束されて転がされている。その周囲では、兵士たちが浜辺でバーベキューをしていた。

「フリティラリア酋長国からの迎えがくるのは、あと少し後か」

「ああ。酋長国にいったら俺たちは英雄だぜ」

兵士たちは明るい未来を想像し、陽気に騒ぐのだった。

「……済まぬ。ワラワが至らないせいで、皆まで捕まってしまって」

シャルロットは縛られたまま、器用に土下座していた。

「気にするなよ。別にお前のせいじゃないだろ」

タハミーネがそう慰めるが、シャルロットは土下座をやめない。

「いや。ワラワのせいじゃ。ワラワがもう少し兵士たちを掌握しておれば……無様にも裏切られるなど、ワラワは自分が情けない」

そう落ち込むシャルロットだった。

「今はそんなことを言っている場合じゃありませんわ。なんとかして助けを呼ばないと」

「それなら、僕に任せてくれたまえ」

コロンが靴を脱ぐと、その中から白い紙が現れる。コロンはその紙に向かって魔力をこめた。

「魔術師カオリが使っていた式紙術。これで助けを呼ぶ」

コロンが呪文を唱えると、紙が変形して鳥の形になり、空に飛び立っていった。


リカルは自宅で令嬢たちを待っていた。

「まったく。いつになったら来るんだ?あのワガママお嬢様たちめ」

時間を過ぎてもこない彼女たちに、イライラしている。

その時、空から紙で出来た鳥が降りてきて、リカルの肩にとまった。

「リカル君!大変だよ!」

いきなり耳元でコロンの声が聞こえて、リカルはびっくりする。

「え?コロンか?どこにいるんだ?」

「村の外の浜辺にいるよ。兵士たちに裏切られて捕まっちゃったんだ!」

コロンは詳しい事情を話す。聞き終えたリカルは渋い顔をした。

「まったく。上級貴族だなんて威張っていても、このざまかよ。俺は辺境の田舎貴族でよかったかも。もともと家臣なんて雇っていないから、裏切られることもないし」

そんなことをつぶやくリカルの耳を、コロンが乗り移った紙の鳥がひっぱる。

「そんなこと言っている場合じゃないよ。早く助けにきて!」

「いてて。わかったから耳をひっぱるな」

リカルは令嬢たちが捕らえられている浜辺まで向かうのだった。


縛られている令嬢たちの前で、不意に空間が歪む。その中から現れたのは、黒いローブを着たエルフの美しい女性だった。

「おお、これはエルミナどの」

「クロード殿。どうやら無事小娘たちを捕らえたようですね」

エルミナは優雅な仕草で少女たちに近づくと、ふんっと笑った。

「ふふ。いくら我らが偉大なる祖先妖蟲王パグスを倒した者たちの子孫といえど、所詮は子供ですね」

「貴様は何者じゃ!」

シャルロットがキッとなって詰問すると、エルミナは慇懃無礼に一礼した。

「失礼。私はフリティラリア酋長国の使者、妖蟲使いエルミナ。あなた方を人質として連れていきます」

「妖蟲使いだって?まさか……」

タハミーネが視線を向けると、エルミナは自慢そうにうなずいた。

「そう。我がフリティラリアは、すでに古の妖蟲王が使っていた力を取り戻しつつあります。妖蟲を手懐けてその力を利用することができるのです」

「妖蟲を手懐けるですって?そんなことができるわけないでしょう!」

「できますよ。このようにね」

マリーナに対して笑いかけ、エルミナは黒いローブを脱ぐ。それを見た令嬢たちは叫び声を上げた。

「ふふ。これこそが古の「蟲憑術」。自らの身と妖蟲と合体させて、その力をつかいこなすのです」

エルミナの下半身は二本の足ではなく、ヌメヌメとした長い胴体で直接地面に立っている。その姿はまるでナメクジのようだった。

「ふふ。この子はあらゆる場所に転移できる能力をもつ「リバークロッシング」。この力であなた方をわが国まで転移させますわ。ああ、なんてすばらしい妖蟲の力。いずれ私たちは、再び暗黒大陸ノワールを取り戻し、妖蟲王を復活させて世界を支配するでしょう」

エルミナは愛しそうに自分の下半身を撫でてつぶやく。足元付近についていたナメクジの頭の部分がキューキューと鳴いた。

「うえっ。エルミナどの。話はそれぐらいにして、小娘たちを転移させれば?」

クロードが下半身を見ないように提案するか、エルミナは首を振った。

「ここは暑いので疲れました。私は涼しい場所で少し休憩を取りましょう」

そういうと、エルミナは近くの洞窟に入っていく。兵士たちはその姿を不気味そうに見つめるのだった。


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