シャルロット・キャメリア公爵令嬢
「リカル!釣りにいこうぜ!」
「君は僕の弟子。一緒に冒険の旅に行こう」
「また温泉に行きたいので、付き合ってください」
リカルたちがすんでいるみすぼらしい家に、三人の美少女が押しかけてきていた。
「おい、お前ら。俺は暇じゃないんだぞ。これから漁にでるんだから」
リカルはそういって嫌そうな顔になるが、父であるケイオスはうれしそうな顔になる。
「おっ。ついにリカルにも女の子の友達ができたか。お嬢さんたち、どこの家の子かな?」
にこにこして聞くケイオスに、三人は笑顔で答える。
「僕はコロン・パンジー。パンジー伯爵家の娘。リカルとは魂で結ばれた同志だよ」
「あたしはタハミーネ・デイジー。デイジー侯爵家の娘だ。リカルとは友達なんだ。おじさん、よろしくな」
「初めまして。ローゼフォン男爵閣下。私はリリー辺境伯爵家の娘で、マリーナと申します。いずれお父様を通じて正式にご挨拶をさせていただきますので、よろしくお願いします」
貴族令嬢たちの自己紹介を聞いたケイオスは、みるみるうちに顔色が悪くなっていく。あわててリカルを連れて隣の部屋に行った。
「お、おいリカル。いつの間に貴族令嬢たちと仲良くなったんだ?」
「成り行きというか、いろいろあったんですよ」
リカルは今までのことを思い出してため息をつく。
「ううむ……困ったぞ。まさか本当にリカルが令嬢たちと友達になるとは。彼女たちのご機嫌を損ねたら……」
おろおろする父親にリカルは呆れてしまう。
「何を今更。令嬢たちと友達になってみたらと言ったのは父上じゃないですか」
「そ、それは冗談というか……ええい。こうなったら仕方ないな。当分漁には出なくていい。彼女たちを怒らせないように、きちんと相手するのだぞ」
ケイオスはそういって、そそくさと出て行ってしまう。後にはリカルと令嬢たちが残された。
「さあ、遊びにいくぞ!」
こうしてリカルは彼女たちにつき合わされ、毎日遊ぶようになる。その様子を、一人のツインテール美少女がじっと睨んでいた。
「ワラワの取り巻きたちを引き連れて遊ぶとは……辺境の男爵家の分際で、思い上がりもはなはだしい。みんなを手懐けていい気になっているみたいじゃが、身分を弁えるように躾をせねばならんな。クロード!」
「はっ!」
ツインテール美少女の前に、キャメリア護衛騎士団の団長クロードが跪く。
「あの小僧を少し脅かしてやるがよい。ワラワの取り巻きたちに気づかれぬようにな」
「御意!」
クロードは自信満々に返事をするのだった。
数日後
「まったく……あいつらが来たせいで散々だよ。俺は漁に出て、早く立派な漁師になりたいのに」
リカルはぶつぶつ言いながら、タハミーネたちとの待ち合わせ場所に向かっていた。
最近の彼は彼女たちと一緒に釣りをした後、魔術の修行をして、最後はみんなで温泉に入るという生活をしている。
別に彼女たちのことは嫌いではないが、今まで大人の男性ばかりに囲まれて生きてきた彼にとっては、美少女に囲まれて少々居心地が悪い思いをしていた。
そんな彼の前に、物陰から完全武装した兵士たちが出てきて前に立ちはだかる。
「あっ。すいません」
一礼してよけようとしたが、兵士たちに道を塞がれてしまった。
「残念だが、ここは通せぬ。少し痛い目にあってもらおう」
「まさか、とうとう追いはぎするまで落ちぶれたのか?」
びっくりしたリカルがそうつぶやくと、兵士たちは怒りに顔をゆがめた。
「誰が追いはぎだ。そもそも貴様のような貧乏な小僧など相手にせぬわ!」
「え?でも館を奪ったり、肉を持って来いなんて無茶振りしたじゃない。キャメリア公爵家って権力を振りかざして強盗をするヤクザみたいなものでしょ?」
強盗よばわりされた兵士たちは、激昂してリカルに切りかかった。
「口の減らない小僧め!覚悟しろ!」
手加減しているとはいえ、厳しい訓練を積んだ大の大人の一撃である。まともに当たれば、命すら危うい。
しかし、兵士たちの斬撃は硬い盾のようなもので防がれた。
「な、なに?」
「あっぶなー。『包甲』が間に合ったからよかったけど、下手したら大怪我していたぞ」
硬い殻のような盾で剣を防いだ少年は、ほっと胸をなでおろす。
そして切りかかった兵士の胸にそっと手を当てて、呪文を唱えた。
「『瞬撃蟲招来』」
「グホッ」
至近距離から強烈な一撃を食らって、その兵士は吹っ飛んでいく。頑丈な鎧に穴が開き、アバラ骨が完全に砕けた。
「ぐはっ……無念」
一撃を受けた兵士は、白目を剥いて気絶する。
「な、なに?あんな小僧に倒されただと?」
兵士たちが呆然としている間に、その場を逃げ出した。
「き、貴様ぁ!待てぇ!」
馬鹿にされた兵士たちは、顔を真っ赤にして追いかけてくる。
「うっとうしいな。『油蛙蟲招来』」
うんざりしたリカルはカエルを呼び出して、追ってくる騎士たちの足元に向けて油を撒いた。
「うわっ!」
兵士たちは油に足をとられて転倒する。完全武装していたので、重い鎧のせいでなかなか立ち上がれなかった。
「それじゃ、さいなら」
ひとつ手を振って、リカルは逃げていく。兵士たちはその後姿を悔しそうに見送るのだった。




