ある日の夢
「シャルロット・キャメリア!セーラ・ローゼフォン男爵令嬢への度重なる嫌がらせと金銭の搾取!もはやこれ以上見過ごせぬ。貴様との婚約は破棄させてもらおう!王妃になるのは、セーラだ!」
この国の第一王子が自信満々に声を張り上げ、真っ青な顔をしているツインテール美少女に指を突きつけた。
その隣には小柄な美少女が寄り添っていて、おびえた仕草で震えている。王子はその少女を守るように、しっかりと抱きしめていた。
「……いきなり何の話じゃ」
ツインテール美少女は首を振って否定するが、王子は鼻でフンっと笑って相手にしなかった。
続いて、第一王子の取り巻きの一人、大宰相の息子が前に進み出て、ツインテール美少女の隣にいるショートカット元気系美少女に告げた。
「タハミーネ・デイジー!君の下品さにはうんざりだ。ぼくの愛するセーラに乱暴するなんて!」
「あ、あたしはそんなことしたことないよ」
ショートカットの美少女はブンブンと首をふるが、宰相の息子は顔を背けてしまった。
さらに、大神官の息子と大将軍の息子が一歩前に進み出て、それぞれ自分の婚約者に絶縁宣言をした。
「コロン・パンジー。あなたにはうんざりです。教科書を破ったり物を隠したりするなんて陰湿だ。美しく清らかなセーラに比べて、あなたは穢れすぎている」
「マリーナ・リリー。俺もお前との婚約は破棄させてもらおう。罪のないセーラに悪い噂をながすなんて。将来の大将軍である俺の伴侶に、お前みたいな奴はふさわしくない」
それぞれひどい言葉を投げかけられた少女は、うつむいて暗い顔をした。
「婚約破棄は望むところだよ。もともと王様に押し付けられた政略結婚で僕の望んだものじゃない。でも……」
「何もこんな場で婚約破棄を宣言しなくても、王様にそう願い出ればよいだけでしょう。これでは、私たちの立場がないです」
彼女たちの言い分ももっともである。ここは魔法学園の学期末パーティの会場で、有力貴族たちがそろって出席していた。もちろん少女たちの父も参加している。
恥をかかされた各家の当主たちが怒鳴りだそうとする前に、ツインテールの令嬢のダンスの相手をしていた少年が進み出た。
少しかげがある黒い髪の少年で、よく見れば顔は整っているものの、王子たちの美しさには遠く及ばない。
「あー、王子様たち、ちょっといいですか?」
「何だお前か。出てくるなよ」
王子たちは不機嫌な顔になる。対照的に、令嬢たちとその父親は少年を見るとパッと表情を明るくした。
「失礼。ここに集まった父兄の方々。私はローゼフォン男爵家の後継者で、そこのセーラの義理の兄に当たるものです」
わざとらしく一礼をする少年に対して、王子に寄り添っていた小柄な美少女が思わず声を荒げる。
「なんであんたがこの場面に出てくるのよ。引っ込んでいなさいよ!あんたは攻略してないんだから!」
そんな自分の義妹、セーラ・ローゼフォンを無視して、少年は王子たちに皮肉そうな笑みを向けた。
「えーと。うちの妹を気に入ったということでしょうかね」
「そ、そうだ。喜べ。妹が王妃になれば、今までのことも水に流して、お前もひき立ててやろう」
王子は猫なで声をかけるが、少年はだまって首を振った。
「残念ですが、我がローゼフォン家は辺境の弱小貴族。下手に王妃など出そうものなら、貴族たちから身の程知らずと思われて孤立してしまいます」
貴族たちの親の顔を見ながら、少年はゆっくりと告げる。
「妹は差し上げますので、愛人でも妾でも奴隷でもなんでもなされるとよろしい。ですが、王妃などもっての他でございます」
「ちょっと!なんてことを言うのよ!」
聞いていたセーラが抗議の声を上げるも、少年は無視して話を続けた。
「また、令嬢方との婚約破棄も、王子たちの一方的な意思では決められないはずです。ここは後日また改めて話し合うことにして、この場での婚約破棄宣言を撤回なされては?」
筋が通った主張に、聞いていた貴族の父兄たちも首を縦に振り始めた。
「若いのになかなか道理をわきまえておる。王子。彼の言うことも一理あります。ここはパーティの余興ということにして撤回されてはいかがかな?」
何人かの貴族がそう諌めるが、王子たちは後に引かなかった。
「いやだ!そんなことを言って、セーラを渡すのが惜しいんだろう。さては貴様も自分の義妹によからぬ感情を抱いているな!」
「……だれがそんな金にがめつい性悪女なんかを」
それを聞いた少年が酢を飲んだような顔になるが、頭に血が昇った王子は気づかない。
さらに、隣でセーラが煽りだした。
「王子様。こいつは義理の兄とはいえ、幼いころからずっと私を変な目で見ていました。きっと私たちの間を邪魔して、私を家に連れ帰るつもりです。そうなったら、どんな目にあわされるか……」
涙をためて上目遣いで訴えかけるセーラに、王子はたちまち義侠心に駆られてしまった。
「ぐぬぬ。許せん!」
王子は付けていた手袋を脱ぎ、少年に投げかける。
「決闘だ!」
王子の決闘宣言により、周りで見ていた生徒たちや貴族たちの間にざわめきが広がっていく。
少年は自分に当たって床に落ちた手袋を、ゆっくりと拾い上げ、堂々と言い放った。
「わかりました。その決闘をお受けましょう。義妹のためではなく、私の大切な幼馴染である令嬢方のために」
その言葉を聴いた、婚約破棄された令嬢たちの瞳に涙が浮かぶ。
「やはり我々の眼は正しかった、娘の婿には彼こそがふさわしい」
そして彼女たちの父親である四人の大貴族は深く頷くのだった。
「……はっ」
とある屋敷の一室で、10歳くらいの少年が目覚める。彼は全身に汗をびっしょりとかいていた。
「夢かよ。いったいなんだってんだ」
少年はぼやきながらベットに起き上がり、夢について考え込む。そこに出てくる登場人物は誰も見覚えがないものだった。
ただし、一つだけ気になることがある。
「セーラ・ローゼフォンって誰だよ。俺の家はローゼフォン男爵家だけど、俺にはそんな妹はいないぞ」
そう、夢で見た王子に寄り添っていた小柄な少女は、確かにローゼフォン家の姓を名乗っていた。
「あの王子に決闘を求められる奴も、ローゼフォン家の後継者だって名乗っていたよな。だとすると……俺、なのか?いや、そんなまさかな?」
考え込んでいると、父の呼ぶ声が聞こえてきた。
「リカル!いつまで寝ているんだ。みんなもう船で待っているんだぞ!」
「は、はい!」
慌てて返事をして、このローゼフォン男爵領の一人息子、リカル・ローゼフォンは部屋を飛び出すのだった。
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