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02

視点 ?



「ホークショーさん、お時間、よろしいですね?」

 その傲慢さこそが、ラスベル家だ。

「……ええ、もちろん」

「生徒会長の仕事について聞きたいことがあります。……場所は、その生徒会長室、というところでもよろしいかしら?」

「ええ、もちろん。今はあなたのお部屋でございます」

「……」

 銀色の髪はしっとりと、艶やかに、地面に向かって落ちるように伸びる。晒された白い額には何の傷も皺も痛みもない。その肌に馴染んだ白い眉、白い長いまつげ、その瞳の中も光の中では白く見える。高く整った鼻、色素の薄い肌からすける血の色が馴染んだ唇。浮世離れした佳人、とはこの人のことを指すのだろう。

 まるで、幽霊だ。

「では、案内を」

 制服を着ることもせず、青を基調としたイブニングドレスに身を包む、傲慢な、幽霊。そのドレスの裾で、金色が光る。よく見れば、そこには金糸で、踊る猫の模様が描かれていた。

「ああ、私、猫が好きなので」

「……そうですか。……では、僭越ながら、ご案内をさせていただきます」

「よろしくお願いいたします」

 刺さるような視線を浴びながら、教室を出て、廊下に出る。

 この2年は、ただ、疲れる日々だった。これからの1年はさらに、疲れるような日々なのだろう。魔力さえなければ、こんなことにはならなかった。魔力といっても、俺の持っている魔力でできることなど、せいぜい、人一人殺すぐらいだ。国をひっくり返すことも、国を背負って戦うこともできない。こんなもののために、俺の三年は地獄となり、そして、きっとそれは、卒業してからも付きまとうのだ。

「……あら」

 その声に振り返る。

「桜だわ」

 その視線の先を見る。

「きれいですね」

 桃色の花が風に散っていく。その風の行き先を見れば、その銀色の髪を広げて、そのレースのドレスの裾を遊ばせる。きらきらと、銀と、金の光。

「……あなたは、きっと、楽しく、過ごされるのだろうな」

 自分の口から、言葉が、落ちてしまった。

「俺と違って」

 唇を抑えても、もう、遅かった。落ちてしまった言葉は、拾えない。どうしよう、と自分の足元を見る。

「……あなたの学校生活はまだ一年残っていらっしゃいます」

 その声に、視線を上げる。

 その白に近い灰色の瞳が、俺の目を捉えて、話さない。闇色の学園生活の中で、初めて見た、月のようだ。縋り付きたくなる。これが、上に立つ者の目。俺のような偽物の灰色とは違う、本物の、王者の瞳。

「クレイグ、後で頼もうと思っていたのですが、やはり、もう頼みます」

「……なにを、でしょうか」

「副会長になってください」

「……副、会長とは……」

「私の秘書です」

「あなた、様の、……俺が?」

「ええ、仕事を知っているあなたを手放す理由はない」

 その白い手を差し出して、彼女は口元を綻ばせる。

「受けてくださいますね」

「っ」

 踊りに誘われたかのようだ。顔が、熱い。こんな言葉をかけられたことはない。仕事を頭の上から落とされることはいくらだってあったけれど、こんな言い方で、こんな誘い方をされたことは、一度もない。

「……は、い」

 声がかすれた。

「俺、でよければ、使ってください」

 その手に、手を伸ばす。

「あっ……」

 危うく触ってしまうところで、手を止める。

「ご、ごめんなさい、婚約者のいる方の手に触れるなんて、恐ろしいことをっ」

「クレイグ・ホークショー」

 きゅ、と手を握られた。

「あっあのっ」

「あなたは私の秘書、つまり、私のものになるのです」

 顔が、熱い。手が、熱い。柔らかい。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

「その全てで、私に尽くしなさい」

「っひゃ、いっ!」

「いいこ」

 優しく手の甲を撫でられたら、もう、魂ごと、奪われた。



「っ俺の全部、ひっ、つかってくだしゃいっ」

「ん?うん、ありがとうね?」


クレイグ

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