第三章 自分が三人いたら三人とも休みたいに決まってる Thebestandthebrightest.
視点 カスティーナ
「ご入学おめでとうございます!ラスベル生徒会長!」
「……かしこまりました」
第三章 自分が三人いたら三人とも休みたいに決まってる Thebestandthebrightest.
「生徒会長ってどういうこと?」
「……ですから、お嬢様は理事長の一人娘にして、ラスベル家の次期当主です」
「その次期当主っていうのも今初めて聞きましたけれど?」
「孤児院の運用が認められているということですよ」
「まだ3年よ?やっと初期投資回収できたレベルで……」
「3年でこういった初期投資が重い事業の元を取れる方は、そう、いらっしゃいません」
「たまたまよ、一度の実績を重く見過ぎ」
学校とは思えない、最早、ただの城のような校舎。中庭に面した廊下のベンチに腰をかけ、横に立つ執事とブツブツと話す。もちろん、口元には笑みを貼り付けておく。
「というより、立場が偉い人間がやる仕事なら、今年は確実にバーバリ皇太子殿下じゃないの?」
「皇太子殿下にそのような時間はない、……ということか、もしくは」
「もしくは?」
「ラスベル家の権力の、見せしめ、でしょうね」
「はぁ、断っても受けても、やっぱりハードモードじゃん……」
「今に始まったことではありませんよ」
この3年でこの執事は随分とはっきりとモノを言うようになった。まあ、別にこれは私の影みたいなものだから、こちらも人に話しているとは考えていない。壁に話しているような感覚だ。たまに頭のいいことを答えてくれる壁。
「生徒会長の仕事ってどんなことかしらね」
「前の生徒会長に聞くのが一番でしょうね」
「いきなり生徒会長に任命してきた、あの、にやけ顔のイケメンのこと?」
「ええ。ゲームに出てきそうですね?」
「……出てきたわよ」
クレイグ・ホークショー。
「でもゲームだと彼は新人教師だったのよね……ああ、そうか。ゲームの始まりは3年後、だから、……彼は卒業して教師になる、ということ……はあ」
「ホークショー家はラスベル家の分家にあたります」
「……そうなの?」
「ええ、だからこそ、彼も入学時から生徒会長をやらされていたようですね」
「はあ?この悪習続いてるの?」
「いえ、彼が初めてです」
「……わかりました」
それは病みそうだ。たしかに彼はゲーム内でも卑屈なイケメンだった。でも、それがラスベル家のせいなら、広く見れば、私のせいと言える。
ゆっくりと立ち上がる。
「仕事が増えたわ」
「お嬢様の手の中では些細なことでしょう」
「買いかぶりすぎ……壁はしばらく黙っていなさい」
「かしこまりました」
ゆっくりと、廊下を、優雅に歩く。
今日は入学式のみだから、生徒は皆、校舎のそちらこちらでお茶会を始めている。私は、カスティーナ・ラスベル。忙しすぎるし、親と疎遠だし、婚約もしているし、と理由をつけて、社交界にはデビューしていない、異端の令嬢。この場の誰よりも立場が上の存在のため、誰も私に声をかけられない。
全ての視線が刺さっているのがわかる。誰もが、私に声をかけられるのを待っているのだ。
「息が詰まる」
早く家に帰りたいところだけれど、やるべきことを済ませてからだ。