表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

03

視点 ?



 生きていくことは、見つからないようにすることだ。見つかったら、俺みたいなやつは簡単に殺されてしまう。だから、見つからないように、息をする。俺には今しかない。昨日も、明日もない。あるのは、今、ここ、この一瞬を、生きていくことだけ。

「みーつけた!」

「っ」

「待って待って、もう逃げないで!さすがに疲れた!」

 だから、路地の裏、行き止まりまで追い詰められてしまうなんて、もう、だめなんだ。息を飲む。怖い。怖い。怖い!

「あなたを引き取りたいの」

「……」

「言葉は通じてそうね。私はカスティーナ。今度そこにラスベル孤児院が建つでしょ?そこの責任者ね」

「ひとさらい」

「さらわないわよ、貸すだけ」

「……かす?」

「そう、カスティーナだけに」

「は?」

「ごめんね、つまらないボケをして……」

 ここにはもう、表の光は少しもない。真っ暗闇で、なにも見えない。迫るその体温しかわからない。

「稼げる子どもを育てたいの。一生、自分の足で進んでいける、生きていくに困らない人間を」

「……人間?」

「そう」

「人間なんかじゃない」

「……あなたは賢いわ、思っていた通り」

 きらり、となにか光った。

「この街に、スリの神様と呼ばれてる子どもがいると聞いたの。あなたね?えらいわ。あなたなら上にたてる、でも、ここであなたが徒党を組めば、孤児はみんなつかまる……だから、あなたはひとりで、他の子どもたちも、ひとりで生きている。……さびしくても、見つからない道を選んだのね」

 それは、目だ。暗がりの中でさえ、煌めく、猫のような、星のような、目。

「あなたがほしい。あなたなら、うちの孤児院の看板を背負えるわ」

「……」

「ラスベルを利用しなさい」

「……利用?」

 なにかが、こちらに、伸びてくる。

「選びなさい」

 腕だ。

「私に無理矢理捕まって連れ込まれるか、私の手をとって自分で進むか」

 どちらにしても、同じようで――全然違う、その二択。

「この、まま……見つからないように生きていくことは、できないと、わかっていた……いつか、殺される……でも、そこなら、違う道も、あるんだな?」

「……ええ、きっと。それを、あなたが見つけられるなら」

「見つけてみせる。生きたい」

 そう、ずっと思っていた。

「俺は明日を生きたいんだ」

 だから、自分で一歩、踏み出した。掴んだその手は、思っていたよりも小さくて、何より、今までさわったことがないくらい、しっとりして、すべすべで、指にピタリとくっついてきた。

「素晴らしい。あなたの名前は」

「ない」

「ならつけましょう、……ナイト。これからは、そう名乗って」

 闇の中で掴んだのは悪魔か天使か、それともただの人なのか。

「わかった。俺はナイト」

 なんであれ、俺は、この日、うまれた。






「執事!聞いてよ!」

「はい、何でも仰ってくださ……その子は誰ですか?」

「俺は、ナイト」

「拾った!」

「返してらっしゃい!」

「ちゃんと育てるから!」

「そんなことより!ドレスが!髪!煤だらけではないですか!」

「お風呂入るから!ナイトも一緒にはいろ!」

「俺も?」

「湯浴を!かかりのもの!今すぐに来なさい!君は私がいれます!全くもう!素材は良さそうなのにこんなに汚くして!」

「わあっなに?なんだ?」

「……あら、意外と仲良くやれそうね」

「私は美しいものは好きなのでね!お嬢様も髪をしっかり整えてくださいね!」

「は、はい……」





ナイト

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ