03
視点 ?
生きていくことは、見つからないようにすることだ。見つかったら、俺みたいなやつは簡単に殺されてしまう。だから、見つからないように、息をする。俺には今しかない。昨日も、明日もない。あるのは、今、ここ、この一瞬を、生きていくことだけ。
「みーつけた!」
「っ」
「待って待って、もう逃げないで!さすがに疲れた!」
だから、路地の裏、行き止まりまで追い詰められてしまうなんて、もう、だめなんだ。息を飲む。怖い。怖い。怖い!
「あなたを引き取りたいの」
「……」
「言葉は通じてそうね。私はカスティーナ。今度そこにラスベル孤児院が建つでしょ?そこの責任者ね」
「ひとさらい」
「さらわないわよ、貸すだけ」
「……かす?」
「そう、カスティーナだけに」
「は?」
「ごめんね、つまらないボケをして……」
ここにはもう、表の光は少しもない。真っ暗闇で、なにも見えない。迫るその体温しかわからない。
「稼げる子どもを育てたいの。一生、自分の足で進んでいける、生きていくに困らない人間を」
「……人間?」
「そう」
「人間なんかじゃない」
「……あなたは賢いわ、思っていた通り」
きらり、となにか光った。
「この街に、スリの神様と呼ばれてる子どもがいると聞いたの。あなたね?えらいわ。あなたなら上にたてる、でも、ここであなたが徒党を組めば、孤児はみんなつかまる……だから、あなたはひとりで、他の子どもたちも、ひとりで生きている。……さびしくても、見つからない道を選んだのね」
それは、目だ。暗がりの中でさえ、煌めく、猫のような、星のような、目。
「あなたがほしい。あなたなら、うちの孤児院の看板を背負えるわ」
「……」
「ラスベルを利用しなさい」
「……利用?」
なにかが、こちらに、伸びてくる。
「選びなさい」
腕だ。
「私に無理矢理捕まって連れ込まれるか、私の手をとって自分で進むか」
どちらにしても、同じようで――全然違う、その二択。
「この、まま……見つからないように生きていくことは、できないと、わかっていた……いつか、殺される……でも、そこなら、違う道も、あるんだな?」
「……ええ、きっと。それを、あなたが見つけられるなら」
「見つけてみせる。生きたい」
そう、ずっと思っていた。
「俺は明日を生きたいんだ」
だから、自分で一歩、踏み出した。掴んだその手は、思っていたよりも小さくて、何より、今までさわったことがないくらい、しっとりして、すべすべで、指にピタリとくっついてきた。
「素晴らしい。あなたの名前は」
「ない」
「ならつけましょう、……ナイト。これからは、そう名乗って」
闇の中で掴んだのは悪魔か天使か、それともただの人なのか。
「わかった。俺はナイト」
なんであれ、俺は、この日、うまれた。
「執事!聞いてよ!」
「はい、何でも仰ってくださ……その子は誰ですか?」
「俺は、ナイト」
「拾った!」
「返してらっしゃい!」
「ちゃんと育てるから!」
「そんなことより!ドレスが!髪!煤だらけではないですか!」
「お風呂入るから!ナイトも一緒にはいろ!」
「俺も?」
「湯浴を!かかりのもの!今すぐに来なさい!君は私がいれます!全くもう!素材は良さそうなのにこんなに汚くして!」
「わあっなに?なんだ?」
「……あら、意外と仲良くやれそうね」
「私は美しいものは好きなのでね!お嬢様も髪をしっかり整えてくださいね!」
「は、はい……」
ナイト