表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

02

視点 レオン


「ラスベル孤児院?」

「はい、着工の目処が立ちましたのでご報告を」

「ふうん、……ねえ、カスティーナ」

「はい、なんでしょう」

「もっと気安く話してくれよ」

「えっ」

 俺の婚約者は、ぱっと顔を赤らめた。

「いいの?」

「もちろん!」

「じゃあ、……レオン!」

「おう、どした?」

 俺が笑うと、「呼んだだけ!」とにこにこと笑う。



 初めて見たときは、兄さまの婚約のときだ。

 兄さまはもともと肖像画でカスティーナの顔を見ていたから驚かなかったって言ってくれたけど、多分、俺は肖像画で見ていても、驚いていたと思う。そのぐらい、カスティーナは……怖かった。

 白い髪に、白い目。

 お化けだ、と思った。兄さまがお化けに取られてしまう。でも、兄さまがその書類に触る前に、カスティーナはそれを捨てた。不敬も不敬、俺の兄さまになんてことを!と殴ってやりたかった。でも、兄さまはそのとき、珍しく、本当に珍しく、ほっと息を吐いた。

 きっと、ずっと、怖かったんだ。兄さまは、ずっと、怖かったのを、隠していたんだ。だったら、……俺が守らなきゃ。

「確かにラスベル家との縁は重要だが、こんなやり方で来るとは……」

「どうする?確かにレオンであれば」

「もともとは俺に来ていた話でしょう!レオンを巻き込まないでください……!」

「しかし、悪い話では……」

 お父さまと兄さまはずっと暗い顔をしていた。この話が来た時から、ずっと。でも、それが、俺に振られた瞬間から、流れが変わった。そうだ、……俺の方が、いいのだ。だって、俺は、おまけだ。おまけのレオン。予備の、レオン。

 だから、俺は、それでいい。兄さまを守れるなら、俺はそれでいい。

「いいよ!兄さま!俺が婚約する!ね、それでいいんでしょ?」

 いつも通り、俺は笑う。

「しかし……」

「俺が、あの、お化けと結婚する!ね、だから兄さまはもっと可愛い女の子と結婚して!」

 だから、怖いけど、俺でいい。

「俺が、頑張るからッ!兄さまは、だって、この国の王様になるんだ!」

「……、レオン……でも、お前はまだ、9歳だ。こんな婚約……お前を人質に取られるようなもので」

「俺を盾にとられたなら、俺なんか捨ててしまっていいんだ」

 俺は何度も、兄さまにそう言っている。だから、今回も、そう言った。

「兄さまのために、俺は死にたい」

「……わかった、レオン。では、……この婚約、進めるぞ」

 兄さまはいつもの笑顔を浮かべた。その笑顔は世界で一番格好良くて、俺は、一等好きだ。

「うん!」



 でも二回目の時、お化けは初めて笑顔を見せた。俺にだけ向ける、花みたいな笑顔。

「ねえ、カスティーナ」

「はい!」

「俺との約束覚えている?」

「約束?婚約のこと?」

「違うよ!なんでも教えてくれるってこと」

「あ、ああ、はい!なんでも聞いて!」

 この子は、もしかしたら、お化けじゃなくて、可愛い女の子なのかもしれない。

「カスティーナは俺のどこが好きなの?」

「顔」

「顔……」

 はっきりと言い切られた。その星の色をした瞳は、まっすぐに俺の目を見ている。

「だ、ったら、俺と同じ顔をした違う人がいたら、その人を好きになるの?」

「レオンは双子なの?」

「そうじゃないけど……似ている人なんていくらでもいるだろ?兄さまだって、少しは俺に似ているし」

「私はレオンの笑顔が好きなの」

 青いドレスは俺の瞳の色だ。その金色の耳飾りは俺の髪の色だ。

「それに、私はカスティーナ・ラスベルだから」

「……うん?」

「ラスベル家が結婚できるのは、……同じぐらいのお家だけ。ね、……わかった?」

 それはとても寂しいような、嬉しいような、重たいような、うまく言えないけれど、怖い言葉だった。

「う……ん、カスティーナには俺しかいないんだね」

「そういうこと!」

「……わかった」

「でも、本当にレオンが好きなの。世界で唯一。それは信じてね」


 その笑顔は、たしかに可愛いような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ