第二章 言い出しっぺの法則とか言う奴は無能 Better late than never
視点 カスティーナ
&……?
カスティーナ・ラスベル。
ドールゴン国のほぼ全てを牛耳るラスベル家の一人娘。とある魔法学校を舞台にした乙女ゲームの悪役令嬢にして、氷の姫。本当に凍っているかのような銀色の髪に、光を浴びれば白に近くなる灰色の瞳。表情差分はなく、言葉数も少ない。どのルートにおいても、最終的には国から去ることを余儀無くされる。
「いや、そもそも、何故お嬢様がそのような憂き目に遭うのです?」
「知らない」
「知らないって……一番大事なところでしょう?ラスベル家の没落でもない限りありえないことですよ」
「だって、私にとって一番大事なのはレオンとの結婚式だもん!ミニゲームは作業だし、レオンが出てこないところのストーリーはすっ飛ばしていたし」
「お嬢様……それじゃあ、何の役にも……」
「だってレオンが好きなんだから仕方ないじゃん!」
「というより、そのゲームという話は……いや、ちょっとお待ちを、お嬢様。レオン王子は結婚式をあげられるのですか!?庶民と!?許されない暴挙ですよ!?」
「そういう細かいことは恋の前には無意味なの!」
「はいー?!」
結婚式のスチルはもちろんデスクトップ画像にしていた。仕事でどれほど腹が立つことがっても、その顔をちらりと見ればニコニコできたものだ。もちろん部下にはばれないように徹底していたけど、……懐かしい昔の話だ。
こほん、と執事の咳払い。
「お嬢様、今は孤児院の方を進めましょう」
その言葉で降って湧いたタスクを思い出す。
「あああ……」
「お嬢様」
「そんな言い出しっぺの法則あると思わないじゃん……」
「頑張りましょう」
「ひゃい……」
つまり、孤児院の設立と運用である。
第二章 言い出しっぺの法則とか言う奴は無能 Better late than never
「資金繰りに困らない起業なんて、本当に子どもの遊びよね」
「孤児にとっては一生の問題です」
「わかってるわよ……でも、執事、一生の面倒を見るのだから、生真面目だけではできないわ。遊びの要素も必要。楽しまなきゃやってられないの」
我が主人はしれっとした表情で淡々とそんなことを仰る。今まではこの表情を、しれっと、なんて思うことはなかった。
12歳の誕生日を迎えられた日から、主人から言葉がこぼれるようになった。そのおかげで、やっと、その心がうかがえるようになった。それまでは、たまに音を出す人形、と言われても否定できないほど、感情が見えなかった。……やっと、彼女に会えた、そんな気がする。
まあ、なにがあったとしても、私の主人はこの方だけだ。
旦那様でも奥様でもなく、ラスベル家の一人娘、カスティーナ様だけが、この私の主人だ。この方が生まれ落ちるその前から、そう、決まっていた。私の生涯は、この先どんなことがあろうと、彼女のためだけにある。
「執事」
「はい」
「教育はしっかりやりたいのよ。特に経営学というか……帝王学ね。国境を超えて稼いでくる力を身につけさせたいの」
「……はい?」
「そこのカリキュラムは私が組むけれど、その前の読み書き、計算、なんていう当たり前のところはどうしようかと……」
「……本気で仰ってます?」
「当然よ。道楽とはいえ、金がかかっているのですから、元は取ります。使える人間を育成するための場でなければ」
「……かしこまりました、教師を用意いたします」
「ん?教師っていうか、保母さんか保父さんね。子どもの扱いに長けた……ああ、私のナニーみたいな人」
「かしこまりました」
「ラスベル家なら人はどうにでもなるか……あとは場所……んー、立地もなあ……ある程度の広告効果が欲しい……」
おそらく旦那様や奥様が期待している以上のことを、先のことを、我が主人は、見ていらっしゃる。
旦那様と奥様に孤児院の話をしたときは、「あの子がそういうなら」とわがままを許すような顔をしていらっしゃった。その程度なのだ、あのお二方は。だから、この先、どんなことがあっても、我が主人と和解することはないだろう。あのお二方は、この家のトップにありながらも、互いのこと以外は本当にどうでもいいと思っていらっしゃる。
業。
この家の利益をその身に享受しておきながら、庶民のように、責任をもたない愛こそが、業ではないだろうか。
「ん、この空いてる土地にしよう」
我が主人は、たしかに、愛の結晶と呼ばれるものではないかもしれない。
「執事、計画書作るから、紙とペンと定規」
「はい、すぐに」
しかし、決して、あんな、無責任な男女の業の証などではない。断じて、そんなことは認めない。
「私が国外追放、みたいなことになったとしても、潰れないものにしないと……」
無論、そんなもの、絶対に起こさせない未来だ。何故なら、この方は、私の宝なのだから。
執事さん