02
視点 執事
「レオン!この呪文、やってみようよ!」
「自分でできるだろ」
「私は炎できないんだもん!」
生徒会室の窓から下を見ている我が主人の背中が、鬼だ。背中ですら鬼なのだから、前から見たら、地獄だろう。窓枠を抑えている手は真っ白になっているし、鉄製の枠にヒビが入っている。このお方は、魔王にはなれずとも、それなりに魔力を持っている。経営の方ばかりやっているせいでわかっていないが、魔力をつかって、その愛する相手の心を得る道だってあった。
でも、彼女は、彼女の道を突き進んだ。
「執事ィ」
「はい、お嬢様」
「ちょっと聞いてェ」
「はい、何でも仰ってください」
私は本当にいい立場に転生したものだ。
前だって、楽しい人生だった。彼女の片割れで、その手腕を、その人生を、見ていられた。でも、前は、彼女は本当に女性の権利のために生きてしまった。誰にも恋をせず、皆を愛し、社会のために、その身も心も、全て使ってしまった。それはそれで、苦しくて、辛くて、大変で、でも、誇らしい、人生だった。……そうだ、あの、冷たくて、強くて、傷だらけで戦った、彼女はもういない。それでも、私が死んでから、12年も生きてくれた。米寿まで超えてくれた。
ああ、それでも、やっぱり、今の方がいい。
「あんんんんの小娘ェ!!!!!」
だって、前は、こんな面白いところ見られなかった。
「いっちゃいっちゃしってんじゃねえええええ誰の婚約者だと思ってンだァアアア!!!」
「そうですね、あなた様の婚約者ですね」
「レオンが!!!!優しいから!!!!」
「そうですね、まあ、レオン様はチリが肩についているぐらいに思っていると思いますが」
「死体一体ぐらい隠せるよね、我が家」
「隠せるでしょうけど……」
彼女がこんなゲームをやっていたことなんて、全く知らなかった。意外と乙女だったのだな、と、前回の彼女を指さして笑ってやりたい。それにしても、ヒロインになればいいところを、悪役令嬢。そんな立場を選んだ理由は、間違いなく、この世界の抱えている格差問題が気に食わなかっただろう。庶民からでは謀反を起こすしかないが、彼女の立場なら、世界に変革を起こせる。ああ、この人は、本当に、恋に生ききれない。深い、深い、愛に、満ちてしまう。
「じゃあもう!殺す!絶対殺す!!!むっかつくもん!!!」
それでも、前回の彼女より、ずっと素直で、ずっと面白い。
だから、私は今の彼女を指差して笑うだけ。
「嫉妬で人殺すとか、器小さすぎますね、お、じょっ、さ、ま!」
「笑いをスタッカートみたいに挟んでくるんじゃない!!!」
「レオン様に直接仰ったらいいでしょう、ベタベタさせるなと」
「だって!!レオンの評判が下がったら!それはそれで!!」
「いや、あれは」
確実に我が主人を嫉妬させるためだけにやっている。
「……まあ、いいか」
「何がいいのよ!!執事!!!ああああああもうムカつく!!!クッション!!!」
「はい、ここに」
私は、私が楽しければ、それでいいのだ。ここがどこでも、彼女がいれば、それでいい。




