最終章 恋にひざまずけ! Kneel before love.
視点 レオン
「入学、おめでとう。レオン」
「ン、今日からは先輩だな!」
「そうね!なんでも聞いて?」
「もちろん、俺はいつもカスティーナになんでも聞いている」
私を抱き上げて、金色はきらきらと微笑んだ。
最終章 恋にひざまずけ! Kneel before love.
「生徒会って何をやっているんだ?」
「生徒の希望を聞いて、それが利益を出せるようなものであれば、事業にして応える、って感じかなあ」
「ほとんど学校運営じゃないか」
「んー、でもこれは、私に与えられたテストだから」
「テスト?」
「そう、ラスベル家を継げるのか、……あなたの妻になれるのかっていう、テスト」
俺の婚約者はまだ、そんなことを心配しているのか。その華奢な肩を引き寄せて、その整った頭に頭を軽くぶつける。
「他に誰が、俺の奥さんになってくれるの?」
「……あなたが、この学園で、誰か、見つけるかも……」
「へえ?例えば、どんな人?」
「た、例えば……聖なる魔法が、使える、とか……」
「聖なる魔法?」
「回復魔法……理論上は可能で……」
「なんだ、夢物語ってこと?」
カスティーナの手が不安げに、その肩に置いた俺の手に触れる。そのさりげなさが可愛くて、笑ってしまう。
「どうした?」
「……だって」
「例え、そんな者がいたとして、どうして、俺がカスティーナ以外を選ぶんだ?」
「す、すごくかわいいかも」
「カスティーナより?」
「うん……」
「ふふ、連れてきて、俺に見せて?どうせ、それ、ただの鏡だから」
「……もう、私は真剣に悩んでいるのに」
「俺の浮気を?ひどい奥さん」
「っもう!」
頬を赤くして、こちらを見上げる。あまりにも可愛くて、つい、唇に触れそうになるけど、なんとか堪えて、ただ抱きしめるだけにおさめる。
「早く結婚したい」
「卒業してから、ね?」
「婚約は何歳からでもいいのに、結婚は18歳なんて、ナンセンスだ」
「決められたことなら、きっと、それなりに意味はあるの」
「……カスティーナが18歳になったらもう、よくない?」
「もう、……レオンったら」
やっと、カスティーナが俺の指に自分の指を絡めてきた。
「うれしい」
「ん、俺もうれしい」
「何が?」
「やっと、毎日会えるね」
「……ふふ、そうね」
この1年で、真実、この婚約者の心を、手に入れてみせる。俺は本当に、この時を待っていたのだ。この人の感情の全てを、この俺にとらえてみせる。どれだけ世界が彼女を必要としていても関係ない。俺の手の中に、とらえてみせる。
「レオン」
背後から声をかけられる。そんなことができるのは、ひとりだ。
「兄様」
そう。
つまり、俺が勝たなくてはいけないのは、この人だ。
「入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「お前にも魔力があって、よかったな」
「兄様ほどではありませんが……」
「ああ、俺が全て奪ってしまったかと。杞憂であった」
その手が伸ばされる。その黒い手袋にはもう、国章はない。兄はいつからか、この国の紋を背負わなくなった。その瞳をより赤くし、はるか先を見る。そんな人だ。でも、この人に勝たなければ、カスティーナは、俺の手に収まらないのだ。
俺の頬に手をあてて、兄が微笑む。その笑顔は昔から変わらず、世界で一等、格好いい。
「カスティーナからしっかりと学ぶといい」
「っ」
その目は、俺を、遥か下に見ている。
「バーバリ」
「っぐっ!」
と、兄の体が崩れた。
「何をする!俺が、今、何かしたか!」
「お嬢の名前を呼んだ」
床に膝をついた兄の上に膝を乗せ、その男は俺を見て、それから俺が抱くカスティーナを見た。
「お嬢、幸せそうだ」
「ええ」
「何よりだ」
「おりろ!焼き殺すぞ!」
「やってみろ、その前に背中折ってやる」
いつからか兄のそばにいるようになった男だ。ナイト、と名乗り、俺がなれなかった、兄の友となった。こいつのことは、好きにも、嫌いにもなれない。ただ、悔しいとだけ、思う。
ナイトは兄の背中からおり、俺の顔をじっと見る。
「……お嬢が選んだのがわかる」
「……は?」
「美しくなった。前に見たときよりも、ずっと」
「お、俺に対して言っているのか?」
「他に誰がいる」
不思議そうに彼は首をかしげる。
「だ、だって、……あなたは、兄様とずっと一緒にいるのに」
「どういう意味だ?」
「俺の側にいて、何故、自分などを美しいと思うのか、という意味だろう」
立ち上がった兄は不機嫌そうに、吐き捨てるように、そう言った。
「は?お前のそばにいるからこそ、俺は見る目を養えているのだ」
「それはそうだろうが、俺より美しいものなどこの世界にはない」
「何を言っているんだ、お前は?急に馬鹿になったのか?」
「……はあ、カスティーナ、お前の育てた夜はわけがわからない」
「もう一撃食らいたいか」
「俺とこの女は対等だ。お前と俺が対等であるように」
兄はうるさそうにナイトと呼ばれる男を突き飛ばしてから、俺を見た。
「まあ、……大きくなったな、レオン」
「……っはい」
それは何よりも嬉しい言葉で、悔しさが吹き飛ぶぐらいだった。兄は俺から目をそらし、俺の腕の中の婚約者を見る。
「カスティーナ、関税のことで話がある。あとで顔を出せ」
「かしこまりました」
「……お前、本当に俺の弟には、やたら甘いのだな」
「人は誰しも恋に跪くものです」
「つまらない女のようなことを言う……ナイト、その腕を俺の腰につきこんだら、燃やすぞ」
「ちっ」
「仮にも次期国王だぞ、俺は……」
「その地位が俺たちの間に何か意味をなすのか」
「クッククッこれだからお前は……」
兄は嬉しそうに笑って、その夜を連れて、来た時と同じように足音なく去っていった。
「ねえ、レオン」
「なに?」
「バーバリっていつも来ては去っていくのよね」
「……兄様はひとつのところにはとどまらない方だから」
「寂しがり屋なのかしら」
「へ?」
「そう思えば、かわいい猫みたいに思えなくもないわね?」
その顔を見ると、面白いことを言ったでしょ、と言わんばかりの顔で、つい、笑ってしまった。俺の婚約者は本当に、顔も広くて、器も広くて、俺の考える先の先の斜め上あたりにいってしまう。
「はあ、どうしたらカスティーナを捕まえられるんだろ」
「私はレオンのものだけど」
「全然、俺のものじゃない……」
「ええー?……レオンだって私のものじゃないくせに」
「なんか言った?」
「なんでもないー!」




