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02

視点 クレイグ



 目安箱をひっくり返し、有象無象の意見を拾い上げ、まとめる。今までは、無茶ばかり言う貴族の遊びに、全身を切られているような気持ちだった作業だ。でも、今は、カスティーナ様のお役に立てる喜びに満ちた作業だ。

「精がでるな」

「っ」

 背中から声。

 慌てて振り返ると、思った通りの黒い微笑み。

「こ、皇太子殿下っ……」

 席から転げるように立ち上がり、床に伏せる。

「よい、よい、面を上げろ」

「し、しかし」

「私はまだ王ではない」

 それは必ず王になるという意味だ。冷や汗が全身から流れ落ち、吐き気すら出て来る。皇太子殿下は俺などには目もくれず、机の上の意見の束を眺める。

「ふむ、匿名の意見か」

「は、はい……」

「では、私の意見もひとつ置いていこう。カスティーナに伝えてくれ」

「か、かしこまりました」

 皇太子殿下はさらさらと机の上の紙に何かを書かれて、来た時と同じように足音を立てずに、颯爽と帰って行かれた。

「な、……なんだったんだ……」

 よろめきながら立ち上がり、その紙を見る。また、気が遠くなるのを感じた。





「『飯がまずい』だァ……生徒会に言うことかァ……あのワガママボウヤがァア」

「また荒ぶっていらっしゃいますよ、お嬢様」

「ンンン」

 カスティーナ様の口に甘食を詰め込みながら、執事さんはにこにこと微笑まれる。

「し、執事さん、どうしましょう、これ……」

「そうですね……この学園には料理をつくる設備はまともなものがありません。むしろ、今の簡易食堂はよくやっている方です。ここで調理を期待するなら設備投資からかかります」

「っぐもっ」

「ですから生徒会に伝えられたのでしょうね。金はそちらが出せ、ということです」

「……なるほど……」

「んぐっ」

 床に膝をつき、口の中をぱんぱんにしても美しい我が主のこぼされた甘食を拾いながら、考える。

「……、でしたらここで調理はしない。外注しましょう」

「外注、ですか?」

「ええ、近場で……運送方法も考えないといけませんね。あたたかいものはあたたかいまま、つめたいものはつめたいまま持ち運べればいいのですが……あとは衛生的な問題もありますね。でも、その問題が解決すれば、その方が初期投資は小さくすみます」

「……そうですね。そこから、実際どの程度の需要があるのかが分かれば、設備投資もしやすくなります。リスクは減ります」

「んぐっげほっ待って、待って」

 やっと口の中の甘食を食べ終えたカスティーナ様を見上げる。ぱたぱたと、その食べこぼしが落ちて来るので、拾う。

「ちょっと、クレイグ、その拾ったもの、どうするつもりです」

「食べます」

「やめなさい」

「……どうしても?」

「……、……私の見えないところで」

「ひゅっかしこまりましたァ」

 冷たい視線に全身に寒気と悦びが走る。

「どうして、あなたはそうなってしまったんだろう」

「偏にお嬢様の行動の結果です」

「そんな責任転嫁ある?はあ……とにかく、設備投資はします」

「しかし!」

「意見の出元が皇太子殿下です。半端なものは出せません」

 その言葉と、その視線に、言葉を飲み込む。

「たしかにリスクは大きいけれど、今、一番のリスクは、バーバリ皇太子殿下の機嫌を損ねること。次に大きいのは、食中毒の危険性です。ここで設備に金を惜しんではいけません」

「っそうですね、出すぎたことを」

「いや、運搬の件は面白いです。それができれば、もっと大きな事業につなげられる。んん……研究開発したいな、……どの辺がいいかな、執事」

「孤児院の中でも手先が器用なものはおりますが」

「これ以上ナイトの負荷をあげられない」

「……それであれば、かなりお金がかかりますよ。ラスベル家のチームを使うことに」

「俺の!俺の家の、……俺が筆頭の研究チームがありますっ」

 お二人の視線が落ちる。

「俺、これでもかなり器用なので……」

「……そうね、それはたしかに……でも……」

「たしかにもう、卒業ですけど、でも、俺は……あなた様のために……」

 カスティーナ様が少し眉を下げられた。

「たしかに、食堂自体が長期的な計画になる。私の在学中に黒字にしたいけど、ギリギリ……それを皇太子殿下は試しているし……ん、ラスベル家からホークショー家に正式に依頼を出そう。見積もりをつくってくれる?」

「は、はい、もちろんっ……で、でも、……」

「どうしたの?」

 泣きそうになる。

「そ、それじゃあ、俺は間に合わない……俺はもう、卒業です……」

「現場で見守りたいのであれば、あなたは教師になればいいでしょう?」

「……っはい!」

 つまらない、退屈、平凡、暗い、そんな俺の人生を照らす月が、ここにある。

「あなた様のお望みなら!俺はなんにだってなりましょう!」

「え、いや……そんな重たい決断されるとは」

「偏にお嬢様の行動の結果です」

「ちょっと黙ってくんない、壁ェ!」

 卒業してからも、この方を見ていられる。全身が震え、なのに、自分の吐く息だけが、熱い。

「っうれ、しいですっカスティーナ様っ」

「……誰がこんなにしてしまったの……」

「偏に」

「黙れつってんでしょうがァ!!」

 



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