Worldwide Network
アイナとセンボウは、モニターで社長の事を見ていた。
「やっぱり、この人は大金持ちですね」
「人はお金だけじゃないぞ、アイナ」
センボウは、ため息をついてモニターの電源を消した。
「どうしてこんな事になったんだ…」
センボウは、アイナには聞こえない声でそう呟いた。
「センボウさん…?」
センボウは小さなモニターを見て、アイナにこう言った。
「人の本当の『死』って…、なんだろうな」
「それは…、生命活動が止まった時、ですよね?」
アイナは当たり前の事を言ったが、センボウは首を振った。
「確かにそうだ…。だが、最近は技術の進歩で、自分自身が死んでも、脳内のチップを何かに…、特にアンドロイドに埋め込む事で、周囲の人物に自分がまるで“生きているように”見せる事が出来るようになった。だけど…、それは本当に自分が生きている訳じゃないだろう?自分で自分を“生きている”と思う事が出来るのが『生』で、それがなくなった時が『死』なんじゃないかな」
「それは…、アンドロイドもですか?」
「そうかもな…」
センボウはモニターの電源を消して、自分の部屋に戻って行った。
翌日、アイナが基地に着くと、アマネが隅の方に座っていた。いつもなら、アイナを見ると傲慢な態度を取ってくるのだが、今日は塞ぎ込んでいた。
「アマネさん?」
「どうして…、私は…」
アマネはアイナと違い、GoldenParadigm社で造られたアンドロイドだ。それなのに、彼女は会社にも、家庭にも行く事はなく、Cybersurvivorで働いている。それにはセンボウも驚いていた。
「アマネさんって…、どうしてここで働いているのですか?」
「それは…、捨てられたのよ…」
アマネは急に怒り、涙を見せた。
「私はGolden Paradigm社に捨てられたのよ!」
「えっ…?」
アマネは普段、自分がGolden Paradigm社生まれである事を自慢げに話し、誇りにも思っていた。それでアイナは常にアマネに見下されていた。そんなアマネが、まさかGoldenParadigm社に捨てられた存在だと、誰が思うのだろう。
「どうして…、アマネさんが…」
「それが分かったら苦労しないわ」
アマネは投げやりになり、扉を開いて何処かに行ってしまった。
「そんな…」
広い部屋の中で一人になったアイナは、誰かを探す為、部屋を出て実験棟に向かった。
実験棟には、ミーシャが居た。ミーシャは白衣を着て実験をしていた。
「ミーシャさん…」
「あっ、アイナちゃん!」
ミーシャはアイナを見つけると、捕まえて壁に押し付けた。
「うげっ!」
「可愛いよね、アイナちゃん!」
ミーシャはアイナに顔を近づけ、じっと見た。
「なんでそんな…」
アイナはミーシャの圧に押し潰され、窒息した。
「ミーシャさん…、いっつもそうなんですか…?」
「うんうん!アイナちゃんも、アマネちゃんも、イクト君も、みんないい顔してるなぁ…」
「本当にアンドロイド好きですね…」
「だってみんな可愛いんだもん!」
ミーシャは笑ってアイナの頬に擦り寄った。
「あの…、実は話があって来たのですが…」
アイナはミーシャから離れてこう言った。
「何?どうしたの?」
「アマネさんが…、元気ないんです…」
「そうだったんだ…分かった、話しておくよ」
「よろしくお願いします…」
アマネとミーシャは仲が良く、同じ部屋に住んでいた。アイナは、アマネを元気付けれるのは自分ではなくミーシャだと思ったのだ。
「アマネちゃん落ち込む時があるからなぁ…、まぁ、任せといてよ」
ミーシャはそう言うと、鼻歌を歌いながらドアから出ていった。
Golden Paradigm社はアンドロイド研究の最先端を走っている。現在、アンドロイドが普及したのも、GoldenParadigm社があってこそなのだ。そこの研究所でアマネは生まれた。だが、アマネは訳もなく失敗作と呼ばれ、捨てられたのだ。研究所側は、アマネのセンサーの一部が不良を起こしているのだが、アマネには、何で捨てられたのか分からなかった。
ミーシャはアマネの元に来ると、駆け出して抱き締めた。
「アマネちゃん!」
「ミーシャ?!」
アマネは、落ち込んでいるのを忘れて驚いた。
「どうしたの?また落ち込んでたの?」
「ミーシャ、どうしたのよ?!』
「だって心配なんだもーん」
ミーシャはアマネの頭を撫でた。
「アマネちゃんは可愛いアンドロイド、自分の事嫌いになったら駄目だよ」
アマネは目を潤ませて、ミーシャの方をじっと見つめた。
その頃、アイナはイクトと一緒に街のパトロールをしていた。他の隊員にはさん付けで丁寧な言葉で喋るが、イクトだけは別だった。
「どう、異常はあった?」
「いや…、何も」
イクトはバイクに乗り、小型のドローンを飛ばした。
「なんか…、良いよね」
「まぁ、そうだね」
イクトは素っ気ない態度だったが、アイナの方をチラチラ見ていた。
「何か…、アイナと居ると落ち着くんだよな、何でだろう」
「本当、不思議だね」
アイナはイクトの先をバイクで走っていた。すると、前方から銃弾が飛んできた。
「危ない!」
イクトはレーザー銃を取り出すと、レーザーで銃弾を割り、相手に当てた。
「まさか…、反乱軍が?!」
アイナがそう言うと、反乱軍のアンドロイドが次々に飛び出してきた。よく見ると、どのアンドロイドにもGoldenParadigm社のロゴが描かれている。
「あいつら…、どれも高性能なアンドロイド達だ」
イクトは空から光線を降らすと、ドローンから銃弾を繰り出した。イクトの攻撃に反乱軍はなす術もなく、あっという間に片付けられた。
「凄い…」
「このくらい、なんて事ないよ」
イクトは平然とそう言うと、バイクに乗り込み、アイナの先を走った。
「カッコいいなぁ…」
アイナはそう呟くと、イクトの方をチラッと見て走り出した。
その日は、事件もなく、アイナは早めにセンボウの待つアパートに帰った。すると、センボウが珍しく鏡の前に居て、強く頭を掻いていた。
「あぁっ!なんでこんな事に!」
「センボウさん?!」
鏡を見ると、センボウの顎が何故か血塗れだった。
「無精髭を剃ろうとしたが…、剃刀がなくて…、あり合わせのもので剃ったんだ…」
「なんでそんな事に?!」
アイナは走って救急箱を取り出して、センボウに渡した。
「あぁ…、すまないね…、五年間ずっとここに籠もっていたから…」
センボウは救急箱の中から消毒液と塗り薬を取り出して顔に塗った。
「明日、久々に外出するんだ」
「えっ?」
アイナは、センボウが出掛ける様子を見た事がなかった。
「実は、僕には彼女が居てね、その人に会いに行くんだよ」
「センボウさんに、彼女…」
アイナは信じられない、という顔をした。
「信じられないのだな。まぁ、僕にだって色々あるから」
「そうですか…」
彼女、という言葉を聞いてアイナが真っ先に思い付いたのはイクトの事だった。
「アンドロイドも…、恋愛していいですか?」
センボウは、アイナがそんな事言うとは思わなかった。
「どうしたんだ?アイナ」
「アンドロイドも恋するんですか?」
センボウは、顎を押さえてアイナの方を見つめた。
「僕は…、してもいいと思うな。自分が気に入ったら人間だろうと、アンドロイドだろうと関係ないと思うから」
アイナはイクトの事を考え、頷いた。そして、こたつのプラグをコンセントに差し込んで充電し、布団を被って眠りについた。
それを確認した後、センボウは自分の部屋に戻ると、コンピューターを作動させて、女性に連絡をした。
「チヨコ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
電波が悪いのか、女性の声は途切れ途切れに聞こえた。
「それで、無事に調査を終えて逃げ切れたんだな」
「ようやく、あなたの所ヘ行ける」
センボウは、微笑むと、レーザーキーボードを起動させて、チヨコ宛に次々とファイルを送った。
「これは長年僕が集めていたデータだ、これでようやく突破口が開ける。チヨコ、やっと直接会えるな」
センボウはコンピューターの電源を落とすと、振り向いて隅に転がっている機械の残骸らしき物体を見つめた。今までアパートに籠もっていたのも、アンドロイドの研究に没頭していたのも、チヨコを使って情報を集めていたのも、全て、ある目的を果たす為だった。それは、決して自分だけの問題ではなく、センボウの大事な人達も関わっている。センボウは、肩を持つと、布団を被った。
翌日、アイナ達はいつも通り、反乱軍と戦っていた。今回からはイクトも参加している。
「皆さん、頑張って下さい!」
アイナはマイクロボットを駆使しながら、反乱軍のアンドロイドを次々に倒していった。ハヤテも、タケルも、ミーシャも、アマネも、自分の武器を使って戦っている。こちら側が優勢のように見えたが、反乱軍のアンドロイドが尽きる事はなかった。
「ねぇ、なんかいつもより多くない?」
ミーシャは、ロケットランチャーを抱えながらそう呟いた。
「そうは言っても、倒さないと駄目よ!」
アマネは電子銃を撃ちながら、爆弾を投げ込んだ。
「最近、Golden Paradigm社のアンドロイドが増えてるのはなんでだろう…」
ハヤテは、最新鋭のアンドロイドの素早い動きに手間取っていたが、ようやく一人倒した。
「なんとか…、倒さないと」
アイナはマイクロボットをもう一台呼び出すと、同時に銃弾を撃った。