Artificial Intelligence
アイナは息を切らし、銃を置いてその場に跪いた。暗黒博士も同じように疲れている。
アンドロイドも長く働いていると疲れるのだ。それは、人間達が今まで機械を酷使して、自分だけ楽しようとした報いにも感じた。
「どうして…、ここまでするの?」
暗黒博士は、アイナの問いに答えず、自らの腕を銃口の形にすると、アイナに向かって撃ってきた。
「危ない!」
アイナは走ってそれから逃げ、閃光弾を投げた。
「こんな事…、もうやめよう」
暗黒博士は息を切らすが、攻撃を止めない。
「アイナ!」
アイナのヘッドホンからヒトミの声が聞こえた。
「あいつの仮面を狙って、早く!」
「了解しました!」
アイナは光線銃の出力を上げると、閃光弾とともに撃った。すると、暗黒博士の真上が光り、空から光線と銃弾が放たれた。
「うっ!」
アイナはカメラアイの感度を上げたが、暗黒博士を狙う事が出来ない。
「またあのマイクロボットを使うしか…」
アイナはマイクロボットを呼び出して、暗黒博士の仮面を狙った。それを見た暗黒博士は、マイクロボットの電波を封じ、腕の銃で撃った。
「どうか…!」
アイナはその時間差で、暗黒博士を攻撃的し、仮面を撃った。すると、暗黒博士の仮面が外れ、アンドロイドの青年の顔が見えた。
「しまった!」
暗黒博士は慌て、空から大量の銃弾を放つ。
「アイナ、後は任せて」
ヒトミの声は、スピーカー越しではなく、すぐ後ろから聞こえた。
「えっ…?」
背後から銃声が聞こえると、暗黒博士は倒れ、回線がショートした。そして、ホログラムが現れ、三人はあっという間に転送それた。
「ヒトミさん!」
基地に着くと、アイナはヒトミに駆け寄った。
「これで…処理は完了したわ」
「処理…?」
司令室には、アイナとヒトミが居たが、一緒に転送されたはずの暗黒博士の姿が無かった。
「あの…、暗黒博士は?」
「電子牢に居るわ」
ヒトミはタブレット型の端末を覗いて、頷いた。
「電子牢…?」
電子牢というのは、Cybersurvivorの基地の地下にあるアンドロイド専用の牢屋で、強靭なセキュリティーと、電波遮断装置が装備されている。普段は国際警察や国家警察の牢屋が使われる為、あまり使用されていないが、暗黒博士の留置の為、使用された。
「まぁ、暗黒博士はしばらくそこに居てもらう事にするわ」
ヒトミは端末を机に置いて、何処かに行ってしまった。
壁も床も天井も白く、何処までもその空間が続くように見える。暗黒博士は仮面と白衣を脱がされ、腕と足を鎖で縛られていた。
「どうして…、僕は…」
身体は痺れ、動くにしても動けない。自分はここで果てるのだと思うと、やるせない気分だったが、かといって何が出来るのか分からず、どうする事も出来なかった。
暗黒博士、いや、AIを搭載したアンドロイドに造られたアンドロイド、DX-49-Ik6、イクト、彼は人間や人間に造られたアンドロイドに強い憎しみを持っていた。イクトは造られて籍を持っても、人間に必要とされず、仕事もなく彷徨っていた。そして、そんな世界を憎み、人間を殲滅しようとした。その一環で、Centralcityを襲っていたのだ。
「やっぱり…、僕は…、必要とされてなかったんだ」
イクトは俯き、何も考えないようにした。
「とりあえずこの案件はお終い、とっとと次の仕事に行くわよ」
ヒトミはタブレットを置いて、キーボードで作業していた。
アイナは、早く仕事に集中しようとしたが、暗黒博士の事が気になった。
「何か…、気になる」
アイナはエレベーターで地下に降り、地下牢に向かおうとしたが、セキュリティーが強固で、そこへ向かうドアが開かなかった。
「どうして…」
愕然としたアイナはドアに手を当て項垂れた。すると、アイナの腕の端末が光り、セキュリティーが解除されたのだ。
「えっ?」
アイナは信じられなかったが、開いているドアを見て、直ぐに駆け出した。
そして、アイナは、拘束されているイクトと対面した。
「あなたは…、DX-49-Ik6…、イクト」
イクトはアイナの方を見た。
「全く…、お前は人間様に使われてぬくぬくと暮らしてるんだろ?」
「えっ…?」
戯けた態度のアイナに、イクトは苛立ち、怒りをぶつけた。
「とぼけるな!お前には…、僕の気持ちが分かんないだろうな…!」
イクトはそう叫ぶと、身体を震わせた。
「どうせ…、僕達は、偽物なんだろう?!人間を模して造られただけの、偽物なんだろう?!アンドロイドは結ばれても子供は産まれない、だから、僕が造られたんだ。だけど僕は…、親にも必要とされなかったし、社会にも必要とされなかった…、だから…!」
「だから世界を壊そうとしたの?」
「ああ…!」
イクトは両腕に拳を作った。
「だけど…、もう良いんだ、これで答えが分かったからな。僕は、この世界には必要じゃないんだ」
イクトは思い詰めて疲れたのか、腕に力を無くし、手をだらんとさせた。
「どうして、そう思うの?」
「いくら技術があっても…、力があっても、必要とされてなかったら、意味がない…」
イクトは鎖を手に持つと、肩を震わせ泣いた。それを見たアイナは、イクトにそっと手を差し出した。
「一緒に居場所を探しに行こう」
「でも…、僕は鎖に繋がれて…」
アイナがイクトの手錠に触れると、セキュリティーが解除され、イクトの手から外れた。
「あっ…」
アイナもそれが出来るとは知らず、自分でもびっくりしていた。
「これは…、私の力じゃない…」
自由の身になったイクトは、アイナに近づいた。
「ありがとう、これで居場所を探す事が出来るよ、CX-25-Ai10…、アイナ」
アイナはイクトの手を引き、地上へ上がるエレベーターに乗り込んだ。
コンピューターに向き合って仕事をしていたヒトミとハヤテは、電子牢が開かれ、イクトが解放された知らせを受けた。
「そんな…、アイナが暗黒博士を?!ヒトミさん、どうしますか?」
驚き、焦るハヤテに対してヒトミは顎に指を当てて何かを考えていた。
「流石、あの人のやる事ではあるわ…。いくら私がハッキングやセキュリティーをしても、あの人の腕には敵わない」
そんな二人の前に、アイナとイクトが現れた。
「ヒトミさん、ハヤテさん」
「アイナ…、そして横に居るのは暗黒博士ことイクトね」
「えっ、この人が暗黒博士なんですか?!」
ハヤテは、暗黒博士の素顔に驚いた。
「それで、どうしたの?」
「実は…、頼みたい事があるんです…。イクトの居場所が見つかるまで、ここに居させたいんですが…」
「えっ?」
「どうか…、よろしくお願いします…」
アイナとイクトは、ヒトミに深々とお辞儀をした。
「ハァ…、分かったわ、でも、ここに居るからにCybersurvivorの業務もしてもらわないといけないわよ?」
ヒトミはやれやれと言ってため息をついた。
「はい、よろしくお願いします!」
「必要とされてる人が居るね…、良かったね、イクト」
アイナはイクトに向かって笑った。
ヒトミは他の隊員も集めると、イクトに制服を手渡した。
「今日から隊員よ、イクト、あなたはただでさえ強いんだからその力をもっと有効活用しなさい」
「分かりました…」
イクトは、人の言う事を素直に受け止めるのに慣れていないのか、身体が強張っていた。
「後、通信機器もあげたいんだけど…、丁度いいのが…」
「あ、僕持ってますよ」
ハヤテは小さな箱を持って来ると、クリップタイプのヘッドホンを取り出した。
「昔、教授と一緒に造ったものです。気に入ったらいいんですが…」
イクトはそれを受け取ると、早速それを着けてみた。サイズは丁度良く、ずれ落ちる事はない。
「ありがとう、早速使わせてもらうね」
イクトの制服は、黄緑の襟に灰色のセーター、赤い蝶ネクタイが着いていた。
「みんな、よろしく」
イクトはみんなの方を向いてお辞儀をした。