Golden Paradigm
アイナはセンボウとご飯を食べながら、話していた。
「センボウさん、あの…、Cybersurvivorで戦ってる反乱軍っていうのは…、何者なんですか?」
「ヒトミ…、その辺の説明してなかったんだな」
センボウは、ちゃぶ台からリモコンを取り出すと、壁に映像を映した。そこには、機械の軍隊による大掛かりな破壊活動が映っていた。
「反乱軍…、人による支配や服従を嫌い、アンドロイド中心の世界を造ろうとする存在だ。それはどうやらAIに造られたアンドロイドや、Golden Paradigm社に反感を持つものがやっているらしい」
「Golden Paradigm社…?そういえばアマネさんがそこで造られたって、おっしゃっていたような…」
するとセンボウは間髪容れずに説明した。
「Golden Paradigm社…、世界のネットワークやアンドロイドなどの機械技術を支配し、トップシェアを誇る巨大企業だよ」
センボウはリモコンを操作し、会社のビデオに変えた。
そこには、最先端の機械で次々に造られるドローンや、巨大コンピュータによる観測の様子、製品を使い幸せそうに暮らす家族の様子もあった。
そして、それらを売って大金を手に入れた社長、ジョン•ディブ•カイセイ•正太郎、SXY-IDはJohn-4096-david-xy-KAISEI-Syoutaro10000000、がインタビューに答えている。彼は自社製品である自立稼働型のリポーターロボを使い、指輪や金歯を見せびらかして、有り余る金がある事を見せびらかしていた。
「センボウさんと違って大金持ちじゃないですか…、少し分けてもらったらどうですか?」
「いや…、良いんだよ」
センボウは社長をチラッと見た後、目を背け、モニターの電源を切った。
「今の彼はお金にものを言わせるだけの奴だからね」
「お金があったらSXY-IDも変えられるのですか?」
「まあね…」
センボウは、アイナに見せたモニターとは違う、小型のモニターを使って何かを見ていたが、アイナには見せてくれなかった。
「ロボット工学三原則っていうものがある。これは、大昔にある小説家が造ったもので、今、人間の手によって造られた機械には必ず当てはまるようになってるんだ。」
「それは…、なんですか?」
センボウは小さな端末を取り出して読み上げた。
「一、ロボットは人間を傷つけてはならない。二、ロボットは人間に服従しなければならない。三、ロボットは自分を守らなければならない」
「それは…、私にもですか?」
「大まかな所はね、アイナが使えるのは対機械の武器だけだし、僕や仲間達の指示は聞いてくれるし、最新の安全システムを搭載してるから」
「でも…、前センボウさんは、『お前は“機械”でも“ロボット”でもない、身体は金属で出来てるけどお前の心は自分なんだよ』って…、おっしゃっていたじゃないですか…、それって、三原則と矛盾してません?」
センボウは食器を流し台に片付けた。
「確かに…、そんな考え方もあるね。だけど…、人間同士の関わり合いでも、服従だけじゃ駄目、お互いの信頼があって初めて成るんだよ。馬車馬のように使うだけ使われて、捨てられるんじゃ嫌だろう?嫌な時は嫌って言っていい、自分の考えだって持っていい。アイナ、お前は心を持ってるんだ。」
アイナはゆっくりと頷き、センボウと一緒に食器を片付けた。
「アイナ…、アマネって言ってたか?CybersurvivorにGolden Paradigm社のアンドロイドが居るとは…、アンドロイドはてっきりアイナだけだと思ってたのに…」
「センボウさん?」
センボウは、食器を片付け終わると、考え込んだ。
考えてみれば、不思議である。Cybersurvivorは国や会社の干渉を受けず、独自に活動をしている団体で、その内部の事は関係者しか知らないはずである。ところが、センボウは、自分はそこに行かずアイナだけをそこに送り込み、更には隊員の事も知っているというのだ。
「センボウさんって…」
「あっ、いや、気にしないでくれ」
センボウは何かを誤魔化し、端末を何処かに隠した。
「明日もあるんだろ?そろそろ寝た方が良いんじゃないか」
「あっ…、はい…」
アイナは布団を敷き、そのまま寝てしまった。それを確認すると、センボウはポケットから小さなイヤホンを取り出して、操作する。
「大丈夫か?」
スピーカー越しに女性の声が聞こえる。
「大丈夫、無事に抜け出せたよ」
「そうか…、それで今から送る事を調べて欲しいんだ」
センボウはキーボードを取り出すと、女性宛に何かを打ち込んで送った。
翌日、アイナは目を覚ますと、センボウが机に伏せて眠っているのを見つけた。
「センボウさん…、どうしましたか?」
センボウにはアイナの声が聞こえていない。
「朝ごはん、つくってきますね」
アイナは、昨日まとめて買った食材のうち、パンとオレンジといちごを取り出した。パンはバターを塗って焼き、オレンジはくし切りにしていちごと一緒に盛り付けた。そして、自分の分を食べ、センボウの分は机に置くと、制服を持って外に出た。
基地に着くと、早速ヒトミが仕事をしていた。
「おはようアイナ、今朝は早いわね」
「おはようございます、ヒトミさん」
アイナは早速制服に着替えていた。
「今日はパトロールをしてもらうわ、何かが起きてもすぐ行動出来るように、何かが起きないようにするのよ」
「了解しました!」
アイナはバイクに乗ると、Centralcityの中に飛び出した。
アイナがCentralcityをゆっくり通るのは初めてだった。出掛けといえば、センボウのアパートと、基地を行き帰りするだけだった。Centralcityは活気に満ち溢れ、人間とアンドロイドが分け隔てなく集まって過ごしている。
「綺麗な街だな…」
アイナはバイクの反重力エンジンを作動させ、ゆっくりと街を見て回った。
「さて、今日は…」
アイナはある所で立ち止まった。それは、GoldenParadigm社のオフィスらしく、黄金に輝く『G』のエンブレムと、製品のディスプレイが並んでいる。その中でアイナの目に止まったのは、玉座とカプセルを融合した椅子のようなものだった。
「これ…、充電台?」
それは、GoldenParadigm社が開発、製造したアンドロイド用の充電台だった。アイナは普段こたつのコードで直接充電しているが、充電台には、アンドロイドに電気を供給するだけでなく、疲れを癒やす作用もあった。
「でも…、高いんだろうな…、きっと」
値段を見ると、どう見てもアイナからは出せない額だった。
「しょうがない…、真面目にパトロールパトロール…」
アイナがディスプレイから離れたその時だった。遠くから爆発音と悲鳴が聞こえる。その方角は、DC-2地区である。
「DC-2地区で異常発生、援護をお願いします!」
アイナはヒトミに連絡すると、バイクを飛ばしてその方角に向かった。
DC-2地区では、停電とネットワークの異常が発生していた。それで通信機器やネットワークに関わるもの全てが動かなくなり、止まっているアンドロイドもある。
「何これ…」
アイナはもう一度ヒトミに連絡したが、届かなかった。バイクのエンジンでスペアの銃を充電し、それを押しながら歩いていると、小さな少女とそのお世話係のアンドロイドが倒れているのに気付いた。
「大丈夫ですか?!」
少女はアンドロイドを抱え、傷ついていた。
「人間を庇うなって…、カナさんが撃たれたの…。私は、カナさんが居なくなったら嫌だから…」
「そんな…、反乱軍が…」
アイナは少女を抱え上げた。
「ちょっと待っててね…、手当するから」
アイナはバイクから救急箱を取り出し、急いで手当をした。
Cybersurvivorでは、危険な場所に向かう事が多く、そこで怪我人に出会す事も少なくない。そこで、専用の車やバイクには、人間とアンドロイドの救急箱や緊急修理セットが装備されていた。アイナの脳内のチップには両方の方法が入っていて、何もいわなくても出来るようになっている。
「MR-38-Mk1…マキちゃん、酷い怪我だ…。そしてお世話係かPI-27-Kn6、カナさん、こっちも後で修理かな…」
アイナはマキの怪我を抑えると包帯で巻いた。そして、カナを修理しようとしたその時だった。空からの束の光線がアイナを阻み、そのうちの一発が当たった。
「あっ!」
見ると、暗黒博士がリモコンで何かを操作している。
「暗黒博士!」
暗黒博士は空を見上げている。その方角を見ると、星のような何かが光り、そこから光線が撃たれていた。それはなんと人工衛星だったのだ。
「まさかこれで…」
人工衛星が放つ光線の束は、花火のように広がった後一気に収束してアイナを襲った。人工衛星の精度に、アイナは全く対応出来ず、その場で倒れた。
「お姉ちゃん!」
マキは怪我を抑えながらアイナに駆け寄った。それを見た人工衛星は、さっきと同じように、マキに光線を撃ち込んだ。
「あっ!」
マキは倒れ、さっき以上に酷い怪我を負った。
「そんな…」
アイナは光線銃を取り出して、暗黒博士に向けた。
「どうしてこんな事するの?!」
暗黒博士は何も言わない。アイナは援護を要請したはずだが、電波のせいで届かなかった。
「どうすればいいの?」
アイナが途方に暮れたその時、青色のボールのようなものが目の前に投げ出された。
「えっ?」
ボールは変形してアイナの銃に付いた。
「これって、マイクロボットじゃ…」
マイクロボットは、GoldenParadigm社の商品で、極小型の変形ロボットだった。どうやらアイナの光線銃に対応しているらしい。
「これで、やるの?」
アイナは光線銃を撃った。すると、光線銃の出力が上がり、人工衛星が放つ電波を遮断した。その影響で、人工衛星は動かなくなった。
「やった…?!」
暗黒博士は焦りを見せた。そして、黒いグローブでホログラムを形成させると、何処かに消えてしまった。
その後、アイナはマキとカナの手当をしていた。すると今頃ヒトミから連絡があった。
「アイナ…、遅いわね…、何があったの?」
「ヒトミさん、すぐに戻りますよ」
アイナはバイクを飛ばして、基地に戻った。