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源平活況物語  作者: 賀田 希道
かつて天を目指したものたち
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人は死から学び、生によってすべてを忘れる

 「――であるからして、平清盛(たいらのきよもり)はこのように自分の娘である徳子を当時の天皇である、高倉天皇に嫁入りしたんですよね。これは見ての通り藤原摂関家に習ったもので、かつての藤原氏の栄華を味わおう、などというゲスい考えがあったわけですな。一応子供として、安徳天皇を徳子は産んだんだけどすぐに入水しちゃったからねぇ、壇ノ浦の戦いで」


 気軽な口調で俺の歴史の担当の教師は授業を勧めていた。彼女は三十を過ぎ行き遅れたことを開き直って、並み居る男子生徒を値踏みするようにして授業をしていた。今やっている平安時代後期の授業だって、あるいは中期の授業だってとても嫌そうに授業をしていたからわかるのだ。


 そして俺は今、そんな回想を送りながら落ちている。学校の屋上から飛び降りているのだ。誰かに突き落とされた、とかじゃなくて事故で落ちている。屋上が崩れて、俺は今、落ちているんだ。急に地震が起きて、偶然屋上の柵の上に立っていて、錆びた柵が壊れて俺はそのまま空中に放り出された。なんの変哲もない三限目の数学のサボりがまさか、人生最後の時間になるなんて思わなかった。


 恐怖しかない。

 死にたくない、死にたくない、と頭のなかで念じていた。でもだからと言って俺の体が不死身になったり、この垂直降下が止まるわけではない。強いて言うなら後悔の念に(さいな)まれたまま死んでいくだけだ。なんで俺が、死ななきゃならないんだ。


 落ちているはずなのに思考がクリアなのは予想外。死にたくないな。

 なんであの時俺は授業をサボっていた?サボっていなければ俺は死ぬことなんてなかったのに。俺を殺したのは俺?でも、そもそもあんなつまらない授業をしたヤツが悪い?鳥が先か、卵が先か。俺が死ぬのは誰のせいだ。


 押し付けているのかもしれないけど、死ぬ前に、死ぬまでのわずか4秒の間にそれくらいはわかりたかった、な。

 そして俺の体は下の石畳へとぶつかった。俺の意識が保たれたままその場に砕け散る。俺の人生は終わった。暗闇が支配している。意識がドロドロと同化……



 しなかった。



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