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 仕えている薬師は、ふたつある。


「ケルシー家の病を治す薬は手放しがたい。だが、当主もルベンナ嬢も野心家だ。仕えるフリをして背後からということになりかねない。その点、ヴェホル家の当主と嫡男は申し分ない」


「それでわたくしが邪魔だったのですね」


「あぁ。君が異母弟(おとうと)の婚約者である限り、ヴェホル家は第二王子の派閥だと見られる。そんなところに私がヴェホル家を重宝すれば、周りは第二王子が王の座を狙っている。ヴェホル家は第一王子を暗殺しようとしている。そんな噂のひとつやふたつ流れるだろう」


 中には王家はヴェホル家を重用していると思う者もいるだろうが、第二王子を王にしたい考えの者も一定数いる。

そんな状況になれば否が応でも巻き込まれることになる。

今のグリフィカと同じ自作自演の犯人に仕立て上げられる。

そのときは確実に死人がでる。


「そんな些末事に関わっているつもりはない。ただでさえ年が近いということで、ジュドアを担ぎ上げようと考える者がいる。そのことを分かっていながら父は、ジュドアの婚約者として君を選んだ。表向きの理由は薬師の知識を王家にというものだが、実際は王が息子可愛さに決めた婚約だ。違うか?」


「・・・・・・わたくしからは何も申せませんわ」


「その言葉使いだ。長年、王家に仕えるとして言葉やマナーを学ぶ機会はあっただろう。だがケルシー家の者は最低限の礼儀が身についているだけだ。そんな中で君だけは高位貴族令嬢と何ら遜色のない言葉使いだ」


「薬師の知識を入れるだけなら何もそこまで教育する必要はない。君は何を言われた? 国王陛下に」


 ある程度の予想はついているのだろう。

そして、その考えが合っているか確認のためだけの質問だ。

やや感情的になってはいるが、冷静さがほとんどを占めていた。


「・・・・・・息子たちは可愛い。だが、為政者となる第一王子にはあって、第二王子にはないものがある。それは安全だ。第一王子が即位するまで守って欲しい。そう言われましたわ」


「そうか」


「第一王子殿下は、この言葉の意味をご存じなのですね」


「あぁ。母である王妃がジュドアに毒を盛っていることだろう」


「はい」


 政略結婚で愛もないまま跡継ぎを産んだ。

王家ともなれば貴族以上に愛が育みにくい世界なのだと諦めていたところに、王から愛され、そして、その子どもまで愛されたとなれば胸中穏やかではいられない。

子どもを産んでから、ゆっくりと愛を育もうとしたところに手順も何もかも無視した側室が誕生した。

側室となった男爵令嬢は自分の身分を弁えており、存在そのものは気に入らないが性格は好ましいものだった。

だが、同じ子どもなのに先に産まれたローランドには見向きもせず、ジュドアばかり可愛がり、時には執務を休んでまで遠乗りに出かけたこともあった。


「母はいけないことだと分かっている。だが、行き場のない感情がジュドアに向いたのだろう」


「はい、どの毒も摂りすぎれば死に至りますが、体に不調が出る程度の弱い毒でした」


「それで君はジュドアを実験台にしたのか」


「初めて第二王子殿下とお茶をしたときに、お菓子に分からないくらいの毒が混ぜられていました。あれは毒に普段から慣れていないと気づけないくらいの量でした。それから全ての食べ物に毒が入っていると分かってからは、死なない程度の毒を飲ませることにしました」


 グリフィカは毒を飲ませて、その量を調べることで新しい毒の効果をジュドアで検証しているのだと思わせた。

権力には興味がなく、毒の研究だけが生き甲斐の変わり者の令嬢であり、必要ならば婚約者に飲ませることに躊躇いのない性格だと徹底して思わせた。


「王妃が、母が、これ以上、強い毒を盛らないようにするために」


「はい。婚約者に実験台のように扱われる様は、おそらく王妃陛下の留飲を下げるのに一役買うと思いました。それは国王陛下もお気づきでした」


「誰が見ても分かるほどの愛情のかけ方の差のせいで後ろめたさがある父は諫めることができなかった」


 子どもたちが大きくなり、教育係がつくようになるとローランドの成績ばかり見るようになった。

そのことで王妃から、ローランドのことを覚えていたんですのね、と言われてローランドの顔を思い出せなかった。

王妃の足元にいるのがローランドだと思うことなく、誰の子だと訊ねたのも最悪だ。

その負い目から王妃の行動を止めることが出来なかった。


「わたくしからもお聞きすることをお許しいただけますか?」


「いいだろう。答えられることならば」


「話は最初に戻りますが、いくら父や兄がいるとは言え、毒の知識を持つ者を簡単に国外に出すとは思えません。何をお考えですの?」


「私としては国外追放は名目で、生涯この塔に幽閉するつもりだった。だが母はそれでは安心できないようだ」


 冤罪で生涯幽閉されることに恨みを持ち、研究と称してローランドを毒殺することを危惧している。

グリフィカにそんな気は毛頭ないが、いつ気が変わるともしれない。

ジュドアにしていたように毒を死なない程度に飲まされるローランドを見たくない。

そんな思いから本当に国外追放をすることを王妃は決めた。


「明日、正式に処罰が言い渡される。そこでは希望などは聞かれないだろうから今、聞いておこう」


「では、ひとつだけ」


「何なりと」


「第一王子殿下が即位されるまでで構いません。第二王子殿下とすべての食事を共にしてください。もちろんお茶会も」


「・・・なるほど、賢明な判断だ。いいだろう。その願いは叶えよう」


 ここでもし、第二王子のジュドアが死ぬことになれば第一王子のローランドが疑われる。

死なないとしても毒がローランドにも入るかもしれない。

そんな危険なことを王妃が許すはずがなかった。

これで第二王子の命は助かった。


「こころよく国外追放を受けてくれて良かったよ。詳しいことは明日の裁きで聞いてくれ。事前に話したと分かれば問題なのでね」


「最後にひとつだけよろしいですか? これはお願いではありませんが、なぜ見逃したのですか?」


「頼まれたからさ。ルベンナ嬢を正室にし、グリフィカ嬢を側室にする。国王陛下への説得と王妃陛下への協力を、ね」


「さようでございますか」


「さようでございますよ。ジュドアにとって私は頼りになる異母兄(あに)らしい。前々からグリフィカ嬢との婚約破棄に協力して欲しいと、願い出られていたんだよ。可愛い異母弟(おとうと)の願いは叶えてあげたいからね。これでも君のことは気に入っていたんだよ。処刑じゃなく国外追放を進言する程度にはね」

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