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 グリフィカが語った憶測を犯人だとされるスヴェルが否定しないことで真実味を帯びた。

この先のことは、それぞれの国で解決することだ。

混在させる必要はない。


「先も言いましたが証拠はありません。それでも、わたくしのこの憶測は間違っていないと思っています」


「間違っていませんよ」


「貴方がヴェホル家の流れを持つのなら、貴方が欲しかったのは絶対的な権力。大罪人となり薬師としての全てを奪われたドゥーフェ・ヴェホルの敵討ち。違いますか?」


「本当に憶測でしかないですね。でも、それが真実ですよ」


 スヴェルが認めたことでお開きになった。

ジュドアがしたことの追及もあるため、ファーディナンドとイライアスは一足先に帝国に戻ることになった。

聞き取りが終わったあとにスヴェルは護送される。


 ヴェホル家では、ファーディナンドとイライアスが詳しいことを知りたいとグリフィカに詰め寄った。

苦笑しながらも憶測である全部を話すことにした。


「最初は医師として絶対的な信頼を得るだけで良かったのかもしれません。ただ先代皇帝陛下がすぐに死ぬことのない病に侵される未来が予測でき、それを看病することで医師としての信頼を得る。それで満足していれば良かったのですが、できなくなったのです」


「なぜ?」


「ドゥーフェ・ヴェホルの日記にあった『毒の研究の礎になれたことを誇りに思うべきだ』つまりは、どんなことも許してくれる後ろ盾が欲しかったのです。ヴェホルの名は名乗れない。薬師として新しい姓を名乗っても流れがどこに行き着くかは分かります。だから医師としての立場を求めた」


 その医師としての立場を確立してくれるのなら国にこだわりは無かった。

今回、ジュドアに手を貸したのは、王弟となったときの立場から庇護してもらうつもりだったからだ。


「おそらくはファーディナンド陛下の日常の毒もスヴェルの仕業でしょう。毒を盛る方法を覚えていますか?」


「あぁ。本人の忠誠心を利用した毒の盛り方だったな」


「明日、出立されるとのことですが、その方向で調べると誰が入れているか分かると思いますわ」


「そうか」


 それぞれの国で片づけないといけないことができてしまった。

一番、大きいのは知られていなかったジュドアの自作自演だろう。

王としてはグリフィカが起こしたことだと思っていたが、まさか自作自演だとは夢にも思っていない。

騒ぎを治めるには、ジュドアの除籍くらいが必要だ。


 グリフィカには、はっきりさせなければいけないことが残っていた。

それは、ギムルのことだった。

あの場には、グリフィカの父もグレッグもいた。

だからギムルは今も二人といる。


「・・・・・・っ」


「何をしたか分かっているわね」


 何も言わずにギムルの頬を引っ叩いた。

それからグリフィカはギムルを抱きしめた。


「貴方は医者になるのでしょう。それなのに人を殺すことをしてどうするの?」


「ぅっ、ごめ、ごめんなさい。ぅうわぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「いやぁ子どもって成長するんだね。昔のグリフィカを見ているようだよ」


「お父様?」


 大粒の涙を流すギムルをグレッグは優しく引き取った。

なぜグリフィカに毒を盛ったのかは知らないが、そこまで追い詰められていたのだと感づいている。


「ギムル、君はまだ子どもだ。間違ったのなら、やり直せばいい。でも忘れてはいけないよ。人が死ぬと分かって毒を盛ったのは揺るぎない事実だ。それさえ忘れなければ医師になれるよ。グリフィカが認めたのだから大丈夫だ。ここにいるグレッグもグリフィカも間違って僕に同じように頬を引っ叩かれたんだよ」


「俺・・・」


「大丈夫、大丈夫。間違ったら正してあげるのも大人の役目だ」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 泣きながら謝り続けてギムルは眠ってしまった。

少しだけ危惧することもあった。

毒を盛ったことに対する動揺が少なかったのだ。


 昔、興味本位で毒を盛ったことのあるグレッグやグリフィカは飲んだ後の反応が知りたいという分かりやすいものだ。

未遂で止められたことに一番、安堵しているのはグリフィカかもしれない。


「・・・よく入れ替えられたな」


「お兄様から依頼されていた惚れ薬を一包、渡し忘れていて助かりましたわ」


「あの薬は、どんな飲み物も赤くするからな。赤ワインに入れるのが鉄則だ」


「ギムルが秘毒を落としたときに、すり替えられて良かったですわ。さすがの私も耐えられるとは思いませんから」


 解毒できないヴェホル家の秘毒については、ドゥーフェ・ヴェホルの日記を読んだときに気づいた。

解毒できない毒なのではなく、解毒してはいけない毒ということだ。

それに思い至ったときに、ドゥーフェ・ヴェホルは本当に天才であるのだと思った。


「それか」


「これは複数の致死量に満たない毒の組み合わせです。でも、それら全てを解毒すると体内で同じ毒に作り替えられてしまう。気づいたときには手遅れですわね」


「そうか」


「しかも最初に効きだす毒以外は互いの毒が作用して拮抗していますから普通の医師・・・いえ、薬師でも気づく者は皆無でしょう」


 確実に死に至る毒とも言える。

グリフィカは薬包に火をつけて灰にした。


「これからどうするんだい?」


「そうですわね。一度、帝国に行こうかと思います。ギムルの師匠に説明しないといけませんし、ファーディナンド陛下の改造計画もまだ道半ばですし」


「ほどほどにね」


「大丈夫ですわ。わたくしに調合できない毒はありません。万に一つの失敗もありませんわ」


「・・・また温室の薬草が枯れるな」


「そこはご自分でどうにかしてくださいませ。毒の魔術師なのですから」


 まだ完全な解決と言えるわけではないが、グレッグとグリフィカは新しい毒の話で盛り上がった。

グレッグの膝に頭を置いたままのギムルは夢うつつに話を聞いていた。

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