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 運ばれて来た食事を一口、食べてローランドは呟いた。


「・・・学校の食事くらいだな」


「どうかされましたか?」


()を気にすることなく温かい食事が食べられる」


「そうですわね。ジュドア様はお気づきではないようですけれども」


 王宮で食べる食事は毒殺を懸念して毒見係がいる。

出されるころには少し冷めている。

湯気の立つスープは学校でしか食べられない。


「毎回、毒に苦しんでいるのに食べることに躊躇いを持たないというのは尊敬に値するな」


「そこはグリフィカ様がフォローしていますからね」


 グリフィカが毒を盛っているということは、同じく解毒薬も持っている。

その確信からジュドアは食べることに躊躇いは見せていない。

躊躇いを持っていない理由としては、噂のひとつも関係していた。

その噂は、王家は第二王子のジュドアを亡き者にしたいが、表立って殺すことは王の溺愛ぶりから難しい。

そこで毒を専門とするヴェホル家に秘密裏に殺害するように依頼した。

だが、ジュドアの警戒が強くなかなか成功しないという筋の通った噂だ。

噂が本当ならジュドアはとっくに冷たくなって墓の下にいるだろうし、今死ねば確実に疑われるのはグリフィカであり、それに連なるヴェホル家だ。

だから自分は毒殺されないと思っている。


「来月のガーデンパーティで全てが決まりますわ」


「お茶の手配は抜かるなよ」


「はい」



****************



 全学年合同で男女関係なく花を眺めながらお茶をするレクリエーションだ。

婚約者が決まっていない者は相手探しに精を出す。

夜会と違い身分に関係なく声をかけられるから下位身分の者には好評だった。

最終学年だからと、グリフィカはジュドアに乞われて参加していた。

今までにない誘いだったことと最終学年ということで珍しく足を運んだ。


「グリフィカ」


「何でございましょう」


「このパーティで毒など盛るなよ」


「さぁ? 何のことでしょうか?」


 グリフィカの手元を注意深く観察し、何か隠し持っていないか確認する。

隠し持つも何もグリフィカの手元は袖がひじ近くまでしかなく、指輪や腕輪といった装飾品もない。

毒を隠し持つことは、ほぼ不可能だった。


「そんなに見なくとも毒を盛ったりはしませんわ。それに毒を隠すための袖も装飾品もございませんわ」


「たしかにな」


「あとは予め指に塗っておくことですけど、ほら」


 行儀が悪いが手づかみでマフィンを食べると、最後に指を舐めた。

毒を塗っていたら自分で飲むことになるからしない。


「・・・利き手は塗っていないみたいだな」


「あら、ご用心深くなりましたのね。では反対の手でも食べて見せましょう」


 チョコレートを手に取り、最後に同じように指を舐めた。

それでようやく安心をして警戒を解いた。


「それで、あのあと国王陛下に許可はいただけましたの?」


「ちっ」


「白々しい」


「あら、そのご様子ですとダメだと言われたようですわね」


 ジュドアを挟んで座るグリフィカとルベンナは対照的な表情をしていた。

グリフィカを正室にすれば、あとは側室でも愛人でも囲っていいとグリフィカだけでなく、父親である王からも言われているのに妥協できないでいた。

妥協すれば済むのにできないから第二王子だけど、次期王にしてもいいのではないかという声がひとつも上がらない。


「貴女が陛下に何か言ったのでしょう」


「いいえ、何も言っていないわ。それに殿下とわたくしの婚約は王命。わたくしは王家に仕える者の一員として従ったまで」


「何よ、それ。命令だから仕方なく婚約してあげているのよって、上から目線じゃない」


「そのようなつもりは無いのだけど、王命すら出してもらえないルベンナに言われたくないわ」


「何ですって!」


 グリフィカの挑発に簡単に乗ったルベンナは反論をした。

それを涼しい顔で受け流すグリフィカは新しいお茶を飲んでいた。


「グリフィカ」


「はい、何でしょう、殿下」


「ルベンナに謝るんだ。僕としても聞き捨てならないからな」


「・・・さようでございますか。では謝罪いたしますわ。申し訳ございません」


 どんな形であれ謝罪した相手に不満をいうのは心情が悪くなる。

ルベンナはまだ言い足りないが矛を収めた。


「グリフィカ、その自分ができるからと上から物を言う態度は改めた方がいい」


「そのようなつもりは毛頭ございませんが、そのようにおっしゃるなら気を付けますわ」


「そうしてくれ」


 重苦しいままお茶会は続いた。

完全にグリフィカをいないものとしてジュドアとルベンナは会話を楽しんでいる。

お茶のお代わりも進み、ガーデンパーティもそろそろお開きかと思われた頃に事件は動いた。


「ジュドア様、お茶のお代わりを淹れますわ」


「ありがとう。砂糖をふたつ頼む」


「はい」


 ティースプーンでしっかり溶かすと半分ほど一気に飲み干した。


「・・・うぐっ、ぐふっ」


「ジュドア様!?」


「殿下?」


 突如として胸のあたりを押さえて吐血した。

椅子から落ちて誰もが、ただ事ではないと思った。

そんな状況にグリフィカは驚いた様子で立ち尽くし、何もしなかった。


「貴女!? 何を飲ませたの?」


「わたくしは何も・・・」


「嘘おっしゃい!? ジュドア様がいつも貴女とのお茶会で苦しんでるのを私は知っているのよ。今回だって貴女が何か飲ませたんでしょ!?」


「だから何も飲ませて・・・・・・」


 何もしていないことを宣言しようとしたが、苦しんでいるジュドアの口元に勝ち誇った笑みを見つけて黙った。

これは茶番で、嵌められたのだと分かってしまった。

ルベンナに演技ができるとは思えないから毒を飲ませたのはルベンナ自身ではない。

なら残るは苦しんでいるジュドア自身が毒を飲んだ。

毒の致死量を知らなくても薄めて少しずつ飲めば、いつか閾値に達する。

そして体調に変化を感じたくらいで飲むのを止めてしまえばいい。


「誰か、グリフィカを捕まえて!」


 ルベンナの必死の叫びがグリフィカのこれからのことを決定付けた。

いつもジュドアに毒を飲ませるときは解毒剤を用意している。

それを用意していないということは殺すつもりがあると疑われてもおかしくない。

今まで参加したことのないガーデンパーティに出席したことも王宮では監視が強いから学校を毒殺の場に選んだ。

全てにおいてグリフィカに不利な状況しか残っていなかった。


「そこまで、わたくしが要らないのなら、お望み通りに致しますわ、殿下」


 驚きの表情を消して、苦しむジュドアに仄暗い笑みを向けて聞こえないように呟いた。

その姿は毒殺が成功することに喜んでいるように見えた。

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