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 王妃の邪魔にならなかったが、今度はジュドア自身が王妃の邪魔をしだした。

国王が酒に酔った戯言である次期王という言葉を周りに言うようになった。

そのことで、グリフィカという王族に従わない薬師が婚約者であるジュドアの方が国王に相応しいのではないかという声が上がる。

声を上げた貴族は皆、王妃の実家とは敵対し、なおかつ男爵令嬢を母に持つ後ろ盾の弱いジュドアを国王にすれば甘い汁が吸えるのではないかと考えた者たちの集まりだった。


「国王になりたいと思うようになってしまった第二王子は、反王妃派閥の筆頭になりました。ご自身にはそのつもりはないでしょうが、王妃に弓を引いたも同然です。第二王子が担ぎ出される要因となったグリフィカ・ヴェホルを追放しようと王妃は考えました」


「邪魔になったということですね」


「はい。王妃が何か手立てを考えているときに、時を同じくして、第二王子自身もグリフィカ・ヴェホルを排除しようとしました」


「自分の身を守ってくれているのにですか?」


「第二王子にとって、わたくしは愛するルベンナを正室にできない原因ですから」


 グリフィカは王妃の邪魔をするつもりはなく、もし第二王子を国王へ推す声が大きくなれば、子どもができなくなる毒を盛ってしまおうと考えていた。

子どもができないと分かっている王では次の継承権というものが必ず問題になってくる。

グリフィカが国王から言われているのは、命を守ることだ。

そのためには犠牲にしなければいけないものを選ばないといけない。


「王妃が第二王子に毒を盛っていることを知っているのは、国王陛下、第一王子、その婚約者、そして、わたくしの父と兄だけですわ。ケルシー家は第二王子が毒を飲まされたことを知っていますが犯人までは知りません」


「なるほど、そこまで知っている者が少なければ間者を送り込んでも分からないですね」


「ここまでが、第二王子毒殺未遂が起きるまでの説明です。ここからが本番です」


「・・・前置きが長いような気がしますが」


「性分ですわ」


「どうぞ。続きを」


「第二王子はグリフィカ・ヴェホルを排除するために、ある計画を考えました。それが、あのガーデンパーティです」


 グリフィカがわざわざ全貌を話すと言ったのだから犯人はグリフィカではない。

そして、ここまでくれば犯人は第二王子であることは明白だった。


「第二王子がいつも毒を飲まされていると誰もが知っています。婚約者に飲まされている。そんな当たり前の状況で、毒で苦しんだら犯人は必然的に婚約者になります」


「その状況を知っていれば、私とて犯人はグリフィカ嬢であると思うでしょうし、いつものことかと思いますね」


「そう。誰もが思いました。でも婚約者はいつもなら持っているはずの肝心の解毒薬を持っていない。そうなると第二王子が毒に苦しんでいるのは、いつもと同じではない」


「手元が狂ったか、たまたま解毒薬を忘れたか、はたまた殺そうと思ったか」


「幸い、第二王子が飲んだ毒の量は寝込む程度で済み大事には至らなかった。だが王族の命を脅かした罪は償わなければならない。本来なら極刑だが、薬師という立場から国外追放というのが妥当だと、王家で話がまとまりました」


 何かの間違いだと言いたい気持ちはあったが、ドゥーフェのことがあり信用される可能性は低かった。

それにグリフィカが普段から第二王子に毒を盛っていたことは事実だ。

すべてがグリフィカを犯人であると言えるだけの状況証拠が揃っていた。


「それが、第二王子自身の自作自演であっても、わたくしが犯人ではないという証拠がない以上どうしようもありませんでしたわ」


「貴女は冤罪で国外追放されたということですね」


「えぇ。国王陛下は表向きは、そう発表して幽閉するつもりだったそうですけどね」


「せっかく国に無条件で仕えてくれそうな薬師を手放したくはないということですね」


「はい。ちょうどユリスキルド帝国より薬師の派遣依頼があり、これ幸いと王妃は国外追放に託けて、わたくしの派遣を推し進めたということになります。罪人であるわたくしを国の代表として送り出すわけにはいかないので、見送りには国王陛下も王妃も出席されていませんし、帝国側からは、すぐに出発するので歓待は不要という申し出も都合が良かったというわけですわね」


 帝国もグリフィカが婚約者を暗殺未遂したという情報は掴んでいたが、もうすぐ王国に到着するというところで、この薬師は嫌だと言える状況でもなかった。

もし何かあれば処罰するしかないと内々では決まっていた。


「薬師である貴女が、そこまで王国に従ったのは、どういう理由ですか? いくら罪を犯したと言っても他の国に行くくらいわけないでしょう」


「他の国に行くのは簡単ですわね。帝国に限らず、どこでも受け入れてはもらえたでしょう。でも、あの家には長きに渡って育てた毒草があります。それは五年、十年の話ではないのです。それらを捨てることは先祖が丹精込めたものを捨てることになります。それだけは避けたかったのです」


「・・・・・・毒草」


「わたくし何か間違ったことを言いましたかしら?」


 家族のためというような答えは予想していたが、まさか育てている毒草というのは予想していなかった。

いや、グリフィカが毒に対してだけ子どものように、はしゃぐのだから予想できても良かった。


「貴女への評価を改めなければいけないと再認識したところです。お気になさらずに」


「そうですか。まぁそれで冤罪だと分かっていて国外追放を受け入れたのです。ちなみに第二王子の自作自演を知っているのは、第一王子とその婚約者とわたくしの父と兄だけですわ」


「・・・国王と王妃はどうしました?」


「知りませんわ。文字通りグリフィカ・ヴェホルが第二王子を殺そうとしたと思っていますわ。王妃はわたくしを追い出すために利用したというところでしょうけど」


 王妃が第二王子に毒を盛っていたという以上に知っている者が少ない。

さらに国王が知らないとなると、間者が知る可能性はほとんどない。


「これが全貌ですわ。信じる信じないは、お任せしますわ」


「信じますよ。それに今この話をするということは、私の信用を得るためでしょう」


「あわよくば、とは思っていましたわ」


「それで何故、陛下ではなく私に話したのです?」


「皇帝陛下は良くも悪くも直感で判断されますわ。物事の真贋を天性の才で見抜いているのでしょう。今、話した内容はすべて真実です。ですが、皇帝陛下が是と言えば、イライアス様は否と唱えて調べるでしょう。調べても本当のことですが、優先は先代皇帝陛下ならびに皇帝陛下です。その二つのことを解決させるのが先です」


 誰が味方か確定していない以上、イライアスが別のことに気を取られるのは、さらに後手に回る悪手だった。

グリフィカとしては、これ以上、後手に回るつもりはない。

その真意に気づいたイライアスは静かに溜め息を吐いた。

本当にグリフィカが尻尾を踏むつもりなのだということも。

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