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 秘密を知る者は少ない方が良い。

今、パーシェが毒を盛ったと知っているのはファーディナンドとイライアスとグリフィカだけだ。

パーシェの見張りをしている騎士は毒を飲んだとだけ聞かされている。


「先ほど皇帝陛下が仰った通りに、わたくしは信頼を得たいがためにパーシェを唆して毒を盛らせて見破る。真実を知るパーシェは罪の意識に耐えかねて自殺を図るが、さらなる信頼を得たい、わたくしに助けられる」


「それでいいのか?」


「わたくしは構いません。ただ皇帝陛下とイライアス様が道化のように言われるかもしれません」


「犯人を捕まえるためだ。だが、毒だけで捕まえられるのか?」


「それは分かりません。ただ、今パーシェを処罰しただけでは、切り捨てられて黒幕にはたどり着けないでしょう」


 黒幕は自分が疑われるようなことはしていないだろう。

今回の毒殺未遂も成功すればいい、失敗しても自分に辿り着けない以上は信頼は揺るがないと思っている。


「それしか無いか」


「あと、パーシェはわたくし付きの侍女のままにしておいてください」


「それは」


「どこかで殺されて終わりますわよ。毒など、どんな形でも仕込めるのですから」


 暗殺でよく使われる手だ。

毒の専門家のグリフィカの手にかかれば、もっと簡単だろう。

パーシェを毒から守るには、これ以上ない適任だが、同時に危険でもあった。


「すべては皇帝陛下にお任せいたしますわ。でも危険なのはパーシェだけではありませんわ」


「どういうことだ?」


「危険なのは皇帝陛下も変わりません。今回は分かりやすい量の毒が盛られていましたが、わたくしが皇帝陛下とともに食事を共にするようになってから全ての食事に毒が盛られていました」


「・・・何だと!?」


「どういうことです?」


 毒に気づかないように黒幕は細心の注意を払っていたのが、これで分かる。

おそらく毒見も今まで死んだ者もいないのだろう。

即死していないから毒が盛られていないと考えるとは何とも、お目出度いとしかグリフィカには言えなかった。


「数か月、数年とかけて毒殺するのも可能なのですよ。わたくしからすれば、毒で即死させるなど三流もいいところです」


「・・・まさか食後のお茶は」


「イライアス様、察しがよろしいですわね。毒の量が少なかったので、体内から排出しやすいようにお茶をお出ししていました」


「それで、あんなに味がおかしかったのですね」


「味がおかしくないお茶を出すこともできましたが、まともなお茶を出せば反対に怪しまれるかと思いまして」


 グリフィカの手によって知らぬ間に解毒されていたと知って、絶句した。

それだけではない、毒による生殺与奪はグリフィカにとっては息をするよりも簡単に操れるのだろう。

味方をしてくれるというのを信じておくしか、今は手がないと思った。


「パーシェの意識が戻れば何があったかは聞けるでしょう。でも簡単に話すとは思えませんわね」


「そうだな。何かしら弱みを握られているだろうからな」


「そうそう。王国には、このような言葉がありますのよ。毒を以て毒を制す。毒は、わたくしの領域です。毒で喧嘩を売るなら毒でやり返すまでですわ。ですので、少々お手伝いいただけますか?」


 このまま何を手伝わされるのか背筋が冷たくなった。

グリフィカの笑みは毒を気兼ねすることなく使えることへの歓喜が含まれていた。

だが、誰かを毒殺できることへの喜びの笑みにしか見えず、死人がでないことだけを祈るばかりだ。


「ふふふ楽しみですわ。わたくしの調合した毒を黒幕が解毒できるのか。見物ですわ」


「死人だけは出さないでくれ」


「先ほども申しましたけど、即死させるなど三流もいいところですわ。さらに毒で殺すなど二流ですわ。一流の毒というものをご覧にいれて差し上げますわ」


 グリフィカを知っている者から見れば、悪い癖が出たと頭を抱えることだろう。

ジュドアに毒を盛っていたのは何も命令されただけではない、グリフィカにとって毒を盛って効果を調べられるというのは何よりも大事なことだ。

自分で試そうにも毒に耐性ができてしまい効果が現れないこともある。


「そうですわ!」


「何だ?」


「黒幕の代わりに、皇帝陛下にわたくしが毒を盛って差し上げますわ。名案だと思いません?」


「却下です! 何を考えているんですか!」


 グリフィカが毒を盛ることで黒幕が下手に毒を盛れないように牽制するつもりなのだが、受け入れてもらないようだ。

心底残念だとソファに沈み込んだ。

この案をどうして受け入れてもらえると思っているのか理解に苦しむものであった。


「何って、わたくしが毒を盛ると黒幕が知れば、うっかり殺してしまうかもしれないことを期待して皇帝陛下に毒を盛るのを止めるかもしれません」


「そう簡単に考えるでしょうか?」


「考えますわ。だって、わたくしは婚約者に毒を盛って殺そうとした薬師ですもの」


 実際は違うが、どうして婚約破棄が行われたのか調べる。

箝口令は敷かれているが、人の口に戸は立てられぬ。

どうにかして知る方法は持っているだろう。


「そうでしたね。だから余計に疑わしいのですよ。何を企んでいるのですか?」


「あら? ご存知でしたのね。あれはまぁ色々とありましたの。そんなことよりも」


「そんなこと? 我々としては重要なのですよ」


「我々? 皇帝陛下はあまり興味がなさそうでございますよ」


 ソファに座って話が終わるのを目を閉じて待っていた。

このまま寝ているのではないかと思うくらいに動いていない。


「陛下!?」


「話が長くなりそうだったのでな、つい」


「ついではございません。いいですか。このグリフィカ嬢は婚約者を毒で暗殺しようとした罪人なのですよ。そんな危険人物を押し付けられたのですよ」


「正確には暗殺未遂なのですが・・・」


「暗殺も未遂も同じです!」


 実際は冤罪だが、それを言えないグリフィカは暗殺未遂だと言うのが精いっぱいだ。

それでも婚約者を暗殺しようとした者と、協力しようとする方がグリフィカには理解ができなかった。


「そうですか」


「そうです。いくつか約束をしてもらいますよ」


「約束ですか?」


「はい、これが守れないようでしたらモルビット王国に戻っていただきます」


「分かりました」


 約束などと甘いことではなく誓約書にしておけばいいのにイライアスも甘いところがあった。

約束など信頼する者同士でしか成り立たない、あやふやなものだ。

だからジュドアは何かをグリフィカにさせるときは約束と言いながら書類で誓約させていた。

心の底ではグリフィカの毒に怯えていたのだ。

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