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三章23 戦闘開始


 陸上自衛隊新琵琶駐屯地地下六層。零式格納庫の更に下層には、駐屯地でも一部の人間しか入ることの出来ないフロアがある。それが今佐藤一佐のいる、少女型アンドロイド、AT-00(C)<ヴィヴィアン>の整備フロアだ。最新の機器を備えた手術室にも見えるフロア内には白衣を着た技術者が<ヴィヴィアン>出撃の準備のためにせわしなく動き回っている。その中に、下着姿にも見える機械の少女<ヴィヴィアン>がいた。


 「あ、司令だ。こんなところに来てていいの?」

 

 佐藤の存在に気付いた<ヴィヴィアン>が駆け寄ってくる。無邪気な表情は、十代半ばの少女のそれだ。彼女の頬にライン状の竜力吸着デバイスが無ければ、人間と見分けがつかないほど精巧に作られ、仕草を出力している。


 「本当は良くないんだけどな。顔を見ておきたかった」


 彼女は外見こそ年端も行かぬ少女のものだが、その中身は高性能極まりないアンドロイドだ。自衛隊所属の自立型兵器として戦線に投入するのだが、本来は非戦闘用の機体である。そして彼女は、兵器として運用されることを嫌っている。


 そのことを知っており、かつ娘を持っていた佐藤は、複雑な心持だった。それが表情に出てしまったのだろう。<ヴィヴィアン>が、心配そうな色を宿した双眸を下から向けてきた。


 「どうしたの? 険しい顔して」


 「いや、どうしてその姿なんだろうな、と思っただけだ」


 佐藤の言う()()姿()を、現在の素体姿のことを指しているわけではないと理解出来る辺りが、この機体が優秀と言われる所以である。


 「そう思うような姿に仕上げてくれたのは、司令たちだよ? それに、そう思ってもらえるだけで、このデザインは成功してるんだよ」


 挑発するように、<ヴィヴィアン>は自身の両頬に人差し指を当てる。これから出撃する子の仕草とは思えないが、彼女はアンドロイド。感情があるように見えるのは、彼女がこちらの反応を予測して表現しているに過ぎない。それでも。


 「済まないな」


 「救出作戦でしょ? 喜んでやるよ」


 「ありがとう」


 短い言葉を交わし、<ヴィヴィアン>は装備装着用のハンガーへと入って行く。作業を行っていた男性自衛官が、佐藤の元へと駆けてきて、確認を取る。


 「装備はC-4でいいんですよね」


 C装備は、防弾ベスト、四肢に追加装甲と展開式の防弾シールドを装備した、防御力重視の装備になる。これに、バックパックに空挺降下用のパラシュート、腰部に制動用のスラスターユニットを装着したのが、今回作戦に投入する装備になる。


 「ああ、頼む」


 指示を出したところで、インカムから切羽詰まった声が聞こえてきた。司令室からのものだ。


 「佐藤一佐、<ヴィヴィアン>の出撃準備を急がせてください。安曇野さんたちが既に接敵、交戦状態に突入します」


 「分かった。すぐ戻る」


 無線を切り、部下に指示を伝えてフロアを後にする。無事であってくれと願うことしか出来ないのが、歯がゆかった。






 新琵琶湖湖、廃墟群。


 四人に小銃を向けられた健吾は、戦慄していた。


 「さあ、絶望に呑まれて跪け。そして俺の血肉となれ!」


 サントソの手が降り下げられる。四丁の小銃から放たれた銃弾が健吾に殺到した。


 戦慄して硬直している健吾の襟首をつかみ、穹良が勢いよく後退する。物凄い力で後ろに引っ張られた健吾は吹き飛ぶように転び、喉を圧迫されたことで咳き込んだ。


 「早く立て!」


 穹良の声に顔を上げ、健吾はすぐさま横にローリングする。直後、健吾のすぐ脇に銃弾が着弾してコンクリ片を跳ね飛ばす。


 何も考えず、健吾は手近な物陰に隠れる。サントソがフロアごと再構成したお陰で、外壁以外の壁という壁は取り払われているが、再構成の残骸として残された壁の基部が隠れる場所を提供してくれている。おまけに床面積が増えたおかげで、逃げ回りやすくなった。 


 さてどうするかと、妙に冴えた脳を回転させる。アドレナリンが分泌されているのだろうか、絶対にこの状況を打破してみせると、確信に似た自信が湧き上がる。


 物陰から顔を覗かせると、穹良が三人の男の相手をしているところだ。サントソとその右腕は、意識を失ったままのかがみの傍らから、見物を決め込んでいる。


 結局、穹良が囮となっている形だ。サプレッサー付きの小銃が銃弾を断続的に放つ乾いた発砲音が響くが、そのどれも穹良には届かない。彼女を覆う蛍光緑色の透明な力場、竜力防壁が銃弾のことごとくを弾いているのだ。


 「やっぱあいつすげえな」

 

 跳ね上がる心臓の鼓動を抑えるために、健吾はあえて口に出す。健吾を撃ってきたデブの足音が近づきつつあった。不敵な笑みを浮かべつつ、健吾はSFP9のグリップを握り直す。スライドを引いて初弾を装填する。


 初めて人に向かって銃を撃とうというのだ。緊張しない方がおかしい。だが、当てる必要はないと言い聞かせる。あくまで牽制だ。まともに銃撃戦をして勝てる相手とは思っていない。それでも撃たなければ現状を打破できない。


 近寄ってくるデブの気配を感じ取り、今だと物陰の反対側から顔を出してSFP9を構える。引き金を引いたが、銃弾は発射されなかった。安全装置が解除されていなかった。


 しまったと思うと同時に、身を屈める。頭上を銃弾が擦過し、着弾が粉塵を巻き上げる。そして、閃いた。暗闇と煙幕代わりの粉塵を上手く利用できれば、逆転のチャンスがあると。相手の方が人数が多い以上、フレンドリーファイアの確率も向こうが上だ。それにうまくいけば、かがみを奪還することも出来る。


 健吾はいま出ようと思った方向に向かって、床に散らばる砂礫を思い切り撒き散らす。物陰の反対側からSFP9の銃口を出してまともに狙いもつけずに二発撃ち、飛び出す。


 デブの慌てた顔が見えた。小銃を構え、引き金を引こうと人差し指が動くのが見える。撃たせてたまるものかと、健吾は右足で床を蹴り飛ばす。散弾の如く飛散したコンクリ片が、デブを怯ませた。


 「うおりゃあぁぁぁぁぁ!!」


 腕でコンクリ片をガードするデブの右頬へ、渾身の左ストレートを放つ。指の骨が軋むような嫌な感覚があったが、気にはならなかった。体のうちに湧き上がる力を叩きつけ、運ぶように押し出すと、自分でもびっくりするくらいデブの体が吹き飛んだ。


 「穹良!」


 三人からの銃撃を受けている穹良の方に吹き飛ばされたデブを視認して、健吾が名前を呼んだ意図を理解する。天井に向かって電撃を放ち煙幕を形成してから、右足に電流を纏う。そして飛来するデブの背中に、強烈極まりない回し蹴りを放った。


 巨躯がサントソ達がいる側の壁に激突し、ずるりと床に転がる。蜘蛛の巣状にひびの入った壁には、水風船をぶつけたかのような血痕が残された。


 敵味方関係なく、その場にいた全員の空気が凍る。巨漢をあり得ない距離殴り飛ばした健吾と、その巨漢を蹴り飛ばしたが衝撃に耐えきれずに尻もちをついてしまった穹良は、健吾の潜在能力に、サントソ以下は自分たちが相手している半竜たちの底力に驚きを隠せなかった。


 「……この、化け物め……!」


 二人の半竜に(おのの)いた便宜名ノッポが、銃口を向ける相手を穹良からかがみに変更する。こんな奴と戦っても勝てないと、彼の本能がそう叫んでいた。


 「かがみに手を出すな!」


 尻もちをついたままの穹良の羽から、五枚の羽根が抜け落ちてノッポの元へ殺到する。竜力で構成された羽根はノッポを取り囲むと、構成する竜力を消費して電撃を放つ。普通の人なら感電して気絶する程度の威力だが、半竜相手には効きが悪いらしい。それでも、体を硬直させることが出来るほどの威力だ。


 「こいつ……!」


 一名戦闘不能、一名一時行動不能となり、現段階での戦力が半減した敵陣は、明らかに色めきだっていた。この中では一番特徴のない体型をした男が、今にも食いつかんとするような鋭い視線と銃口を穹良に向ける。だがそんな彼を、サントソは制した。


 「こいつ(穹良)は俺が相手する。お前たちはあいつ(健吾)を始末しろ」


 「健吾逃げろ!」


 「言われなくたってそうするよ!!」


 二人分の銃撃を背後から受けながら、健吾はがむしゃらに走る。援護として穹良が天井に向けて電撃を放ち、天井を抉って砂塵を降らせることで、二人の目くらましにはなっているものの、健吾も余波を受けて視界が霞んでいた。


 瓦礫に突っかかって盛大にすっころんだが、おかげで遮蔽物に身を隠すことが出来た。


 「あいつ、範囲攻撃の威力が高すぎる……」


 上がった息を整えながら、健吾は恨み言を口にする。羽根を飛ばしてからの電撃は威力も低くて扱いやすそうだが、頻繁に使用しないところを見るとなにか制約があるのだろう。とは言え他の攻撃は威力の調整に手間取っているようにも見える。おそらく、室内での戦闘には不向きなのだろう。


 牽制射撃を行いつつ、健吾は粉塵を盾にしてフロア内を駆けまわる。二対一の状況を一対一に持ち込まない限り、今の健吾には勝ち目はない。あわよくば二人を穹良の元に誘導して、一気に片付けてもらいたいと願ったが、相手は健吾に誘いに乗ってくれそうになかった。


 一方の穹良も、二対一の状況にあった。穹良をも委縮させるほどの竜力を纏ったサントソがにじり寄り、穹良は後退して一定の距離を保つ。


 「お前が連れてきたあの男、なかなかやるようだな」

 

 世間話でもするような口調で、サントソが切り出す。彼の背後で、サントソの右腕が小銃を構えたまま横に移動し始めた。自分の視界に入るのがどちらか一人になるようにしているのだと、穹良は警戒を強める。


 「ああ、私も驚いている。火事場の馬鹿力というやつか」


 平静を保っているように見せながらも、健吾のことが気が気でない。さっきデブを倒せたのは偶然に等しく、次も同じように出来るとは限らないうえに、健吾が竜力防壁を使った形跡がない。昨日練習した時には展開出来ていたが、やはり一朝一夕で使いこなせるようになるものではないらしい。


 「一方のお前はどうだ? もっと力を出せるはずだろう? それとも、俺たちを相手に本気を出す必要もないか?」


 「本気を出して、うっかり<ルシフェル>まで呼び寄せてしまったら、困るのはお前らだろう?」


 切り返しながら、穹良はやりにくさを噛み締める。電撃能力はここ十年ほど使って来なかったおかげで威力の調整に戸惑っているからだ。下手をすれば、かがみや健吾まで巻き込みかねない。羽根を直接飛ばして攻撃するのは、誘導に神経を使うので、今使うのは敵に隙を与えることになる。


 自分の竜力もまともに扱えないのに、よくも偉そうに健吾に講釈を垂れたものだと自嘲する。だが、そうしたところで現況は変わらない。


 「ああ、そうだな。それは困るから、せいぜい出し惜しみをしてくれ」


 穹良から見て左側に移動した右腕が、小銃弾を放つ。これを竜力防壁で完全に防ぐと、右方向から竜力を纏ったサントソの拳が迫ってきた。これも竜力防壁で防げると思ったが、軋み、ひび割れている防壁を見て、穹良は目を(みは)った。破るというのか。


 急いで内側に別の防壁を構築したが、第一の防壁がガラスのように砕け散り、第二の防壁ごと穹良の体を吹き飛ばす。


 「……ぐっ!」


 後方にたたらを踏みながらも、穹良は姿勢を崩さない。そこへ追い打ちを掛けるように、銃弾が殺到。防壁を再展開してこれを防いでいると、巨大なコンクリートブロックが飛んできた。サントソが投げたのだ。ブロックを防いで防壁が消失したところへ、サントソの強烈な蹴りが襲い掛かってきた。


 咄嗟に腕を構え、ガード面に竜力防壁を展開したが、出力が足りなかった。もろに蹴りを食らい、防壁構成分のエネルギーを差し引いて余りあるダメージが、穹良の華奢な体に叩きこまれる。


 悲鳴と共に吹き飛ばされた穹良が、健吾の元まで到達した。


 「うおっ!」


 飛んできた矮躯を受け止め、派手に転がる。体のあちこちが傷んだが、今はそれどころではない。何が起こったのか確認しようと体を起こすと、傍らに俯せの穹良が倒れていた。


 「おい穹良、大丈夫か」


 体を揺り動かすと、穹良は両手を床に突き、霞を払うように頭を振る。そして、申し訳なさそうな口調でこう言った。

 

 「一つ言い忘れていたことがある。私には、格闘戦の心得はない」


 「俺だってねえよ」


 二人の場所へ、銃弾が降り注ぐ。二人は別の方向に飛んで、物陰に隠れた。ふと健吾は、足元に鉄パイプが落ちているのに気付いた。いい得物だ。


 「ねえけど、やるしかないだろ」


 「ああ、そうだ。サントソは私が引き付ける。時間を稼ぐぞ。自衛隊の到着まで持ちこたえるぞ」


 穹良が放電して目くらましをし、健吾がSFP9を乱射しながら鉄パイプを手に突撃する。この理不尽な状況に抗うためには、死力を尽くす以外に手はなかった。

 

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