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二章24 機械少女の逃避行


 翌日。


 「あ、穹良、西島さん、こんにちわー!」


 天智駅の改札を小走りで抜けてきた璃那が、改札外で待っていた健吾と穹良に片手を挙げながら声を掛ける。時刻は十時十五分。昨日約束した集合時刻の十時からは、十五分過ぎてしまっている。


 「ごめんなさい、寝坊してしまいました」


 予定の一本後の列車で来た璃那は二人の元に駆け寄り、謝罪の言葉を口にする。


 「気にするな。私たちも今来たところだ」


 「穹良、フォローしてくれるのは嬉しいんですけど、それ、遅刻した相手に言うことじゃないですよ」


 苦笑いしながら告げる璃那に、穹良は不思議そうな顔を健吾に向ける。どうやら璃那の言葉の意味がよく分かっていないらしい。


 「まあ、確かに遅刻した人に言う言葉じゃないかもな」


 「……? よく分からんが、まあいい。揃ったし、行くぞ」


 やはり穹良にはよく分からなかったようだ。だが今そのことを丁寧に説明する必要性は感じられなかったので、三人は駅を後にした。


 三人は天智駅前の商店街に来ていた。駅を挟んだ商店街の反対側に行けば大型のショッピングモールがあるが、健吾が荷物を運ぶ負担を考慮したことと、穹良が商店街をじっくり見てみたいと言うので、商店街で買い物をすることにしたのだ。


 「へえ、なかなか活気があるんですね」


 辺りをキョロキョロしながら、璃那は素直な感想を口にする。天智商店街はアーケードに覆われた全天候型の商店街で、総延長は約一キロに及ぶ。生活に必要なものはだいたい揃えられるだけの店舗数とバリエーションがあり、休日ということもあってかなり混雑していた。


 「そうだな。ちょっと横道に入ると映画館とかゲーセンとか遊ぶところもあるし、買い物にも便利だし」


 健吾も周囲に視線を巡らし、率直な感想を述べる。この商店街はまだ通学で通っている程度なので詳しくはないが、生活利便性はかなり高そうだ。この辺りに住んでいる人ならば、駅の反対側にあるショッピングモールにまで行かなくても、一通りの生活は出来るだろう。


 「さて、なにから買います?」


 「重いものは後からの方がいいだろ、荷物持ち」


 「お前、次にその呼び方をしたら荷物持ってやんないぞ」


 穹良に付けられたぞんざいな呼び名に、健吾は抵抗の意思を示す。とは言え、今日の健吾の役目は文字通りの荷物持ちだ。穹良が買ったものを、無事に家まで届けなければならない。


 「軽いものというと、台所用品が欲しいと言ってましたよね。とりあえずはあそこに入ってみませんか?」


 璃那が指さした方向には、百円ショップが見える。


 「よし、では行くぞ」


 意気揚々と先導する穹良に付いていき、三人は百円ショップに入店した。


 小一時間後。


 「おお、案外時間を使ってしまった」


 店外に出た穹良が腕時計を確認すると、正午になろうとしている。感覚的にはもっと時間が経っていないと思っていたので、穹良は驚きを隠せなかった。


 「百均もそうですけど、色々見てると楽しくて、つい時間経っちゃいますね」


 女子って買い物好きだよなと思いながら、健吾は話半分に聞き流す。璃那の言葉も誰かに向けられたものではなく独り言に近かったので、答える必要もなさそうだ。


 その時。


 商店街の駅方面から人混みをかき分けて走ってきた少女が、健吾にぶつかって小さな悲鳴を上げた。気を抜いていた健吾も咄嗟のことに対応できず、よろけて尻もちをつく。


 「すみません、大丈夫ですか?」


 相手からぶつかって来たとはいえ、女の子を転ばせてしまったのだ。自分が悪いわけではないが、そうするべきだと思った健吾は目の前で尻もちをついている少女に謝罪の言葉を口にする。


 「あ、いえ、こちらこそごめんなさい」


 そう言って上げた少女の顔を見て、健吾は何か引っかかるものを感じた。顔の作りが、何やら作り物っぽいのだ。大きな翠色の瞳は透き通って綺麗だが、左目の奥には小さな三つのカメラの様なものが見える。髪はサラサラの銀髪ショートヘアー。右向きに大きくカールしたアホ毛が目立っている。Tシャツとオーバーオールから覗く四肢は鈍く銀色に輝いており、彼女が体に大きな傷を負っていることが伺えた。頬には蛍光緑色に輝くパーツが埋め込まれており、周囲の光を受けて玉虫色に輝いている。


 二人は立ち上がると埃を振り払い、そして再び互いを見る。そして初めて気づいたが、少女の身長は決して高くない。健吾の身長が一七五センチ、そして穹良の身長は健吾より頭一つ分弱低いので、少女の身長はもう少し低いことになる。にしては、ぶつかられたときの衝撃が大きかった気がした。健吾の体が吹き飛ばされるほどではないが、体の芯にズンと来るような衝撃を感じた。あの四肢が重いのだろうか。


 そんな健吾の逡巡を気に留めるふうでもなく、少女は健吾の顔、そして穹良の顔をまじまじと見る。


 「な、なんだ」


 少女と目が合った穹良が、半歩引いた。穹良も何か異様な雰囲気を感じたのだろう。そして璃那も、少し怪訝そうな顔をしている。


 「へえ、あなたが穹良ちゃんか。で、君が健吾君、だね。ごめんね、ぶつかっちゃって」


 「え、どうして俺たちの名前を?」


 「君たちの別の方を知ってるからだよ。あ、私のことはヴィヴィアンって呼んでね」


 ――――別の方を知っている? どういうことだ?


 健吾の解釈が正しければ、別の方とは健吾たちの力を貯蔵している、守護者たちのことになる。それを知っているということは、新琵琶駐屯地に何か関係している人物、ということになる。それを裏付けるように、彼女を呼ぶ複数の声が聞こえてきた。


 「あ、いたぞ、あそこだ!」


 「ったく、苦労させてくれたな」


 陸自の制服を着た男性自衛官一人と、白衣を着た男性二人がヴィヴィアンと名乗る少女の元へ駆けてきて、彼女の腕を取る。


 「あーあ、捕まっちゃった」


 「あーあ、じゃない。ほら、帰るぞ」


 白衣の一人がヴィヴィアンを連れていこうとする。その光景を黙って見ていていいものかと悩んでいると、制服姿の自衛官が健吾に話かけてきた。


 「君たちは、所有者だよね。いや、だから何だという訳では無いが、うちのが迷惑を掛けて申し訳なかった」


 「あ、いえ。あの、あの子は?」


 健吾は体を傾け、制服姿の自衛官の背後に視線を向ける。二人の白衣男に連れていかれる彼女に嫌がっている様子は見られないので、健吾が何か心配する必要はなさそうだ。ただ状況が状況だけに、かなり周囲の視線を集めている。


 「詳しくは言えないが、家出したうちの装備だ。テスト中に脱走したので、回収しに来た」


 家出? 脱走? 意味不明な単語が出てくるので、理解に苦しんだ健吾は怪訝そうな顔をする。


 「……はあ……?」


 先の言葉をもう一度反芻してみたが、やはりよく分からない。あの子が自衛隊の装備だというのか。あんな子、新琵琶駐屯地の敷地内で一度も見たことない。だが本人も自分たちの「別の方」を知っていると言っていた。一体どういうことなのか。


 「では、これで失礼します」


 健吾の疑問が晴れないまま、自衛官は健吾に敬礼をすると小走りで行ってしまった。そして先行していた白衣男とヴィヴィアンに追い付くと、彼女に何か話しかけている様子が伺える。


 ふと、ヴィヴィアンがこちらを振り向いた。まるでこちらを安心させようとしているのか、彼女は笑顔を見せながら手を振っている。その笑顔は作り物っぽかったが、決して嘘を吐いているようにも見えなかった。


 「健吾、あいつは一体何だったんだ?」


 小さく手を振り返していた健吾に、穹良が静かに尋ねてくる。


 「分からない。でもあの子、俺たちのことを知ってたな」


 「なんと言うか、あの子から少し変わった力を感じました。上手く言えないんですけど、人工的と言うか」


 璃那の言う力とは、竜力の事なのか。それなりの力を有しているとされる健吾や穹良には分からない何かを、璃那は感じ取ったというのか。


 「ところで西島さん、所有者って、なんのことですか?」


 璃那の言葉が、鮮明に健吾の鼓膜を揺らす。気付かれた時には、既に遅いのだ。


 「あの男は軽率なことをしてくれたな。あとで佐藤に報告だ」


 「穹良?」


 穹良が何を言っているのか分からないという風な顔をして、璃那は小首を傾げる。そんな璃那に、穹良が提案を持ちかけた。


 「昼飯にしよう。何がいい?」



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