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二章10 露見


 女子の第二試合が始まろうとしているとき、男子の第一試合が終了した。当初はどちらかが全滅するまで行う予定だったが、拮抗した試合だったために時間制に切り替えたのだ。第一試合に同じチームとして出場していた健吾と真は、体育館入り口側の壁にもたれるような形で腰かけ、第二試合の観戦にいそしむ。


 「なんかさ、さっきの女子の試合で男子みたいな球投げる子がいたんだけどさ」


 男子の試合を観戦するふりをして奥の女子の試合に視線を向けていた真が、おもむろに口を開く。


 「お前、よく試合中に女子の方見れたな」


 「だって、華の女子高生がハツラツと運動してるんだよ? 揺れる髪、楽しそうな笑顔、上気して汗ばんだ顔、見ないと損だろ? 普段一緒に授業しない隣のクラスの女子までいるとなっちゃ、尚更だ」


 ドヤ顔と形容するのだろうか、なに当たり前のことを聞いて来るんだ、と言う顔を向けてくる真に、健吾は頭を抱える。


 「今のセリフ、文字に書き起こしてから音読してみろ。相当キモイこと言ってんぞ」


 確かに年頃の女の子が元気に運動しているところを見たくなる気持ちはよく分かる。シャツ越しに振動で胸が揺れているところとか、めくれたシャツの隙間からちらりと見える白いお腹とかが目に映ると、無意識に凝視してしまう自分がいることは素直に認めよう。だが、真の方が表現が気持ち悪い。


 そこでふと、健吾は先ほどの試合中のことを思い返した。確か健吾のチームで真っ先にアウトになって外野行になったのは真だった。しかも一発目は顔面にあたってセーフになったものの、その球が跳ね返って再び相手チームに渡り、二発目であえなくアウトとなったのだが、顔面に当たった際には普通なら避けられるであろう距離にいたのだ。


 「顔面に当たった時ってもしかして、女子の方見てたのか」


 「まあな」


 清々しいまでにあっさりと肯定する真に、健吾はずっこけそうになる。


 「まあなじゃねえよ。あぶねえだろ」


 まったくこの男は試合中に何をしているのか。怪我でもされたら、目も当てられない。


 「お、なに? 心配してくれんの? 嬉しいな」


 前言撤回。鼻血でも出せばいいのだ。

 

 「で、その球速エグい子があの子なんだけど」


 真がその子を指さそうとして健吾もその先に視線を向けようとしたとき、女子コートでは信じられないようなことが起ころうとしていた。


 ある女子生徒が穹良に向けて渾身の一球を投げる。雪灘の球ほどではないものの、女子の投げる球にしては相当威力のあるものだ。スイングする腕が空を切る音を立て、穹良に向かって球が投げだされる。その顔面直撃コースの球筋に、場にいた全員が嫌な予感に駆られた。

 

 だが次の瞬間、穹良の眼前に迫ったボールは不可視の壁に弾かれたように直上へ球筋を変え、ゆっくりと落ちてきて穹良の手の中へ収まった。


 「「「え?」」」


 両チームで異口同音に疑問符が呟かれる。両チームだけではない。その光景を目にしたすべての人間が、自分の目を疑いたくなるのを我慢せずに素直に疑問符を口にする。


 「おい健吾、あれまずいんじゃないか?」


 その事象を目撃した人の余波で、全生徒がどよめき始めるなか、真がこっそりと耳打ちしてくる。


 「悪い、なにが起こったんだ? よく分かんなかったんだけど」


 焦りをにじませながら周囲をキョロキョロする健吾を見て、真は健吾の力が相当であることを思い出して、説明を試みる。


 「お前は感じなかったか? 安曇野さんが力を使ったのを」


 「あいつ、使っちまたのか?」


 今の反応で、真は健吾が状況を半竜的な意味で認識できていないことを確認した。つまりは、半竜としての力が強くない真は防衛本能で穹良の竜力を感知できたが、健吾は探知できないレベルの竜力を穹良が使った、と言うことになる。


 「ボールが上に弾かれる瞬間、竜力を板状に展開してボールの軌道を変えたんだ。俺にはその力場が見えたけど、他の人には見えてないと思う」


 「ってことは、普通の人にはただボールが急に向きを変えたように映るってことか。まずいな」


 人間とは思えないような大技を持つ人間も世の中には相当数いるが、今の事象を人間でも出来ると思える人は恐らくこの場にはいないだろう。誰かが穹良に半竜の疑いを掛ければ、その意見に乗るものが多数を占めるのは目に見えている。かと言って今下手に介入すれば、疑念で済んだものを確信に変えてしまう可能性もある。下手に誤魔化そうとして、かえって半竜かも知れないという疑念が深まるような事態だけは避けたい。


 ではどうするのか。結論としては、穹良の出方を静観するというのが健吾の出した結論だ。もう少し事態の動向を観察する必要があるが、その内心はハラハラしていて、今にも心臓が飛び出しそうだ。


 だが健吾以上にハラハラしていたのは、間近で見ていた璃那だった。穹良が力を使った後の、周囲の異様な雰囲気を肌で敏感に感じ取り、耐えられなくなって小声で叫ぶ。


 「穹良、今のはまずいですって!」


 璃那の声を聞き取った穹良は彼女を一瞥したが、特に反応は示さなかった。手にしたボールを投擲用に握り直すと、まだ固まったままの相手チームを睥睨する。


 「なんだ、動かないなら全員当てるぞ」


 穹良の、大きくはないが通る声が周囲に浸透する。その声でようやく相手チームが穹良と距離を取るために動き出した。


 穹良はコートのセンターラインぎりぎりまで前進すると、穹良に当てようとした女子生徒に照準を定め、腕を振りかぶる。その生徒が顔に恐怖を浮かべるのを見ると、穹良は気分が高鳴るのを感じた。


 軽く腕が振り下ろされる。その力みのないスイングから放たれたボールは雪灘のそれを上回る球速で迫ると、見事に命中した。


 「ぐっふ」


 日常生活では到底出さないような音を発して、被弾した女子生徒が軽く吹っ飛ばされる。それだけでなく、跳弾が別の生徒に命中にも命中してアウトにした。


 「だからだめですってばー!」


 人間ではありえないような球を投げた穹良に、璃那が思わず叫ぶ。


 その渾身の叫びを上書きするように、男子側から歓声に似た声が穹良に送られてきた。


 「おい、あの子すげえぞ!」

 

 「一発で二人もアウトにしたぞ!」


 「マジの一石二鳥じゃん!」


 女子側の不穏な空気を感じ取り、試合を勝手に中断していた男子たちが穹良の投球を見ていたのだ。その怪物じみた球速と威力に男子が湧く中、穹良はさすがに居心地が悪くなってチームメイトの陰に隠れる。好奇の目で見られるのが、不快だった。


 だがその結果注意が散漫し、チームメイトを一気に二人も失った相手チームからの怒りの投球に、あえなく被弾してしまった。


 先程の物凄さと打って変わった呆気ないアウトに、男子の数人が残念そうな声を上げる。だが健吾と璃那は内心ほっとしていた。穹良の超人的な能力がこれ以上露見してしまえば彼女が半竜であることを強く疑われてしまうだろうが、今なら「まぐれ」で済むかもしれない。幸い健吾は、穹良が球を弾いたことに対するカムフラージュを思いついている。この案を次の試合で実行し、周囲の目に穹良が起こした事象と似通っていると映れば、穹良が超人的な能力を駆使したと思わせずに済む可能性がある。


 (璃那、あとは頼んだぞ)


 健吾は、ステージの上で落ち着きなく座っている璃那に視線を送りつける。すると健吾のメッセージが込められた視線に気付いた璃那が顔を上げ、困ったような表情で視線を送り返してきた。


 (そんなこと言われたって……)


 璃那に穹良の面倒を押し付けるのは少々心苦しかったが、今は健吾は動くことは出来ない。健吾が眼前で小さく手を合わせるような仕草をすると、璃那は嫌々承知したという風に肩をすぼめた。


 健吾は心の中で璃那に対する謝罪の言葉を述べると、外野に移った穹良に目を向ける。エンドライン側にいた穹良は内野からのパスを受け取ると、山なりにパスを出してサイドライン側の味方外野にボールを回す。

 

 結局この試合で穹良が直接得点に繋がるような球を投げることはなく、穹良側のチームの勝利に終わった。

 

 

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