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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 目の前で立ちはだかる男子四名は、皆興味深そうな顔で花純を見ていた。

「な、直哉君・・・」

 花純は助けてというように、直哉に握られていた手に力を込めた。

「あんまりじろじろ見るな。花純さんが減る」

 何だか可笑しい言葉を直哉が言う。

「そんなこと言うなよ。俺たちお前を待ってたんだぞ」

「それより紹介、紹介」

 友の催促に直哉も呆れたようにため息を吐きながら、花純に視線を戻す。

「花純さん、右からカイト、ゴードン、オレグ、クリース。・・・覚えなくていいから」

「お、お前ねぇ~・・・」

 オレグという男の子が、最後の直哉の言葉に突っ込みを入れる。

「花純さん、ご飯食べよう・・・って言っても字が読めないか。どんな感じのものが食べたいですか?」

「あ、あっさりした軽いものが・・・いいです」

 直哉は花純の手を握ったまま、メニューの書かれたボードを見ながら悩む。

 その間も直哉の友人たちは、じっとこちらを見ていた。

「花純さん、具沢山のスープがあるけど、それとパンでいい?」

「はい」

 日本の学食のようにお盆を持って注文するみたいだ。

 ここでようやく花純の手は解放された。

「はい、これ持って下さいね」

 お盆を渡されて列に並んだ。

 直哉が花純の分まで注文してくれる。

 若いお兄さんが花純のお盆に乗せてくれるのをじっと見る。

(スープ・・・・・・多い)

 多分残すことになりそうだと、花純は思った。この量の必要性は学生相手だからなのか、それともこの世界の人がただ単に大食いだからなのか判別出来ない。

 確かにこの世界の人は身体が大きい。骨格から違う気がする。

 女性も花純より背が高いし、男性ならもっとだ。

 直哉が先に行くので、お盆を持ち上げると結構な重さがあった。

(お、重っ!)

 パンも花純の顔くらいある大きさだ。

 花純がよろろとすると、後ろから手が伸びてきてお盆を持たれてしまった。

「カスミさん、これ俺が持つからナオヤについて行って」

「え・・・、でも」

「・・・重いんでしょう?」

 確かに重かった。でも初めて会った男の子にお世話になるのはもの凄く気が引ける。

 直哉が花純の異常に気付いて後ろを振り返り、瞳を見開く。

「珍しいな、カイト。いいよ、花純さん。こいつの気のすむようにさせてやって」

「え、・・・はい」

「それと僕に敬語はいらない。僕も普通に接するから」

「う、うん」

 気遣ってくれる直哉に、花純は素直に頷いた。

 二人で話している間に、カイトはさっさと空いている席にお盆を持って歩いていく。

 花純は慌ててカイトの側にかけて行った。

「あ、あの、カイト・・・君?」

 そう呼んでもいいのか解からないから疑問形だ。

 カイトは机にお盆を置いてすぐに座った。声をかける花純を無言で見上げる。

「あ、あの・・・ありがとう」

「・・・・・・・・・ん」

 短いけどちゃんと返事をしてくれて、花純はほっとした笑みを浮かべた。

 カイトが自分の隣にお盆を置いてくれたので、そのままそこに座る。

 直哉は反対側の席に腰を下ろした。

 何だか両手に花状態で恥ずかしい。

 他の友人たちも、向かいの席にそれぞれ座った。

 皆勝手に食べ出すのを見て、花純もスプーンを取って両手を合わせた。

「いただきます」

「・・・・・・・・・」

 直哉が花純を見て、驚いたように瞳を瞬かせる。

「あっ! それ見たことある。直哉が昔やってた」

「俺たちが笑ってから、やらなくなったけどな」

「・・・・・・煩いな」

 直哉は拗ねたように口を尖らせた。

 日本人である父親が教えたのかな? と花純は思った。

「いただきますは大切だよ。直哉君もやった方がいいよ」

「・・・・・・花純さん」

 直哉は花純の言葉に困ったような顔になった。

 ちょっと強引過ぎたかな? 強制はよくない。そう花純は思い直し、スプーンを置く。

「ご、ごめん・・・直哉君。強制はよくないよね?」

「・・・花純さんがするなら、僕もする」

 そう言ってから直哉は手を合わせて小さな声で『いただきます』と呟いた。

 そして反対側のカイトからも『いただきます』と聞こえてくる。

「・・・思ってたんだけど、それってどういう意味?」

 この中で一番の年長者のゴードンが訊ねてきた。

「これは感謝の言葉だよ。日本独特のものだって父さんが言ってた」

「感謝?」

 花純は補足するように言葉を重ねる。

「お肉だって元は動物でしょう。魚だって野菜だって皆生きてた。その命をいただいて自分たちは生きている。それにこれを使って美味しく料理してくれる人たちにも感謝を込めて『いただきます』って言うの」

「「「・・・・・・・・・」」」

 前の三人はそう告げた花純の顔をじっと見ている。

 花純は何を偉そうに言ってしまったのだろうと、少しだけ恥ずかしくなって顔を下に向けた。

「そう教えられれば、いい言葉だと思うな」

 カイトの言葉に、目の前の男の子たちも素直に頷いた。

「うん、いい言葉だな」

「感謝か・・・」

「あんまり日常のことで感謝することって少ないかも。こういうのは大事だな」

 三人は顔を見合わせて一斉に手を合わせる。

「「「いただきます」」」

 そう言った三人を見て、花純は思わず微笑ましく思い笑ってしまった。

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